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【将棋】西山女流が再び白玲戦の舞台へ!若手の躍進も見逃せない女流順位戦

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第3期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は6月初旬に各クラスでラス前(※)が行われました。

 延期された対局を除いて、全クラスで最終戦を残すのみとなりました。

 この記事では、各クラスのラス前の結果と最終戦の展望をお届けします。

 なお各クラスの全成績については、日本将棋連盟HPの公式ページよりご確認ください。

※ラス前=最終戦の一つ前の対局をさす

A級 西山女流三冠の挑戦決定!

2敗がいなくなり、西山女流三冠の挑戦が決まった
2敗がいなくなり、西山女流三冠の挑戦が決まった

 前白玲の西山女流三冠が最終戦を前に挑戦を決めました。

 直接対決となった西山女流三冠ー伊藤女流四段戦は最後までどちらが勝つか分からない、A級のクライマックスにふさわしい熱戦でした。

 一方、2敗で追っていた山根女流二段は上田女流四段に敗れて挑戦権争いから脱落しました。

残りは1枠、可能性があるのは表の3名
残りは1枠、可能性があるのは表の3名

 残留争いでは、ラス前で敗れた中村女流四段の降級が決まりました。一方、同じく降級の危機にある中井女流六段は2勝目をあげて残留の可能性を残しました。

 降級は残り1枠です。条件は下記の通りとなります。

◎最終戦の残留パターン

・中井女流の残留→自身○and甲斐か渡部が●

・渡部女流の残留→自身○or中井が●

・甲斐女流の残留→自身○or渡部か中井が●

 自身が勝たないといけない中井女流六段が最も危ない状況ですが、最終戦はプレッシャーがかかるため何が起こるか分かりません。前期成績に基づく順位も関係してくるでしょう。

 3名とも勝ち越しを決めている強敵との対戦が待っており、厳しい状況が続きます。

B級 昇級&残留争いは大混戦

残りは1枠、可能性があるのは表の3名
残りは1枠、可能性があるのは表の3名

 昇級を決めていた塚田女流二段はラス前も勝利し、全勝をキープしています。

 残りは1枠です。ラス前では直接対決が2つあり、勝った鈴木女流三段と室田女流二段は3敗をキープして昇級の可能性を残しました。鈴木女流が自力(※)です。

◎最終戦の昇級パターン

・鈴木女流三段→自身○or室田と石本が●

・室田女流二段→自身○and鈴木が●

・石本女流二段→自身○and鈴木と室田が●

※自力=他の結果にかかわらず、自身が勝てば昇級が決まる状況をさす

 降級は3名中2名が決まり、最後の1枠を争います。5人いる4勝4敗の全員に可能性が残されています。

 昇級の可能性がある石本女流二段は降級の可能性もある珍しい状況です。

 最終戦の鈴木女流三段ー野原女流初段は、勝てば昇級の鈴木女流三段、負ければ降級の野原女流初段という大一番となります。

前回の白玲戦・女流順位戦の記事で、下のように書きました。

 同日に行われたA級とB級の7回戦一斉対局では、すべての対局が振り飛車(1局だけ相振り飛車、それ以外は居飛車対振り飛車)という珍しい現象が起きました。

 女流棋士の上位に振り飛車党が多い証拠といえます。

 今回のA級とB級の8回戦一斉対局でも同様の現象が起きました。

 結果は居飛車5勝、振り飛車4勝で、居飛車党が意地を見せる結果となりました。

C級 最後の1枠をめぐる争い

残りは1枠、可能性があるのは表の4名
残りは1枠、可能性があるのは表の4名

 和田女流二段はラス前も勝利して全勝をキープし、昇級を決めました。この勝利で規定勝ち数に達して女流二段に昇段しました。

 全勝で昇級を決めている伊奈川女流二段と和田女流二段は、上のクラスでも活躍が期待できそうです。

 残りは1枠です。1敗だった加藤女流初段がラス前に敗れて3敗勢にもチャンスが出てきました。

◎最終戦の昇級パターン

・室谷女流三段→自身○or加藤と武富と小髙が●

・加藤女流初段→自身○and室谷が●

・武富女流初段→自身○and室谷と加藤が●

・小髙女流初段→自身○and室谷と加藤と武富が●

 自力の権利を持つ室谷女流三段は、前期は悔しい次点でした。実力者として知られながらここ最近は目立った活躍が出来ていませんが、ここで結果を残す事ができるでしょうか。

D級 昇級をかけた直接対決

残りは2枠、数字上は順位のいい3敗勢にも可能性が残っている。なお、木村女流1級のラス前は12日に行われる
残りは2枠、数字上は順位のいい3敗勢にも可能性が残っている。なお、木村女流1級のラス前は12日に行われる

 内山女流初段と大島女流初段がラス前に勝って昇級を決めました。

 両者とも参加2期目の若手で、才能が認められている有望な女流棋士です。上のクラスでの活躍も期待されます。

 順位上位の2敗勢がラス前で相次いで敗戦を喫したため、上位陣の顔ぶれが少し変わりました。ラス前になるとプレッシャーがかかり、なかなか星を伸ばすことが難しくなります。

◎最終戦の昇級パターン

・中村女流二段→自身○or競争相手の8名全員●

・渡辺女流二段→自身○or競争相手の9名全員●

・堀女流1級→自身○

 1枠は中村女流二段―堀女流1級の勝者となります。

 中村女流二段は前期、残り2戦で一つでも勝てば結果的に昇級していましたが、悔しい結果に終わりました。ラス前は入玉を果たしての勝利で、昇級への強い思いを感じる戦いぶりでした。

 対する堀女流1級は順位戦期間中に病気を公表しながらも好成績を残しています。どちらも昇級を果たして欲しい思いがありますが、勝負の世界は残酷です。

 最後の1枠は、渡辺女流二段が自力です。5連勝スタートながら2連敗で足踏みしています。ただ最終戦の相手は休場中の川又女流初段のため不戦勝が濃厚で、ほぼ昇級が決まった状況といえそうです。

 佐々木女流1級から下は新人の女流棋士です。

 残念ながら昇級の目はほぼなくなっていますが、多くの新人が好成績を残しているのは特筆すべきことです。

 内山女流初段も大島女流初段も、1期目に順位を大きく上げて2期目に昇級を果たしています。表のメンバーもそれに続くことができるでしょうか。

注:渡辺女流初段の相手が休場中であることを筆者が失念しており、当初の文章を大幅に修正しました。

今後の日程

 女流棋士1年目でも大きな勝負を戦えるのが、白玲戦・女流順位戦の素晴らしいところです。

 D級では新人の松下女流1級が1敗で来ていましたが、ラス前で痛恨の敗戦を喫しました。最後は敵陣で大将が討ち取られて、終局図に無念さが現れていました。

 本人にとって辛い敗戦ではありますが、こういう経験は長い目で見ると確実に糧となります。

 昇級&降級の可能性が残る女流棋士にとって、ここからの1ヶ月はプレッシャーがかかるでしょう。その苦しさも、実力向上につながるはずです。

 最終戦は7月初旬に行われます。

 どんなドラマが起こるでしょうか。ご注目ください。

A級:7月3日(月)

B級:7月3日(月)

C級:7月5日(水)

D級:7月10日(月)

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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