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女性客増で観客数最多の韓国KBOリーグ 「満員で観れなかった」という日本の野球ファンも

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
観客席の様子(写真:LGツインズ)

「球場に行ったけど当日券がなかった」、「週末はほぼ満員」

韓国で野球観戦をしようと日本から足を運んだ人から、こんな声を聞くことが増えた。かつてはあまりなかったことだ。

発足から43年目を迎えた韓国のプロ野球・KBOリーグ。今季は公式戦全720試合のうち、まだ147試合が残る8月18日の時点で過去の年間観客動員数記録を塗り替えた。これまでの最多は2017年の840万688人。現在の動員数は877万6224人だ。

好況の理由は人気球団の好調と女性ファン

球団別ではソウル・チャムシル球場が本拠地のLGツインズが110万7325人でトップ。トゥサンベアーズ、サムスンライオンズ、KIAタイガースの3球団が続く(1試合平均順)。いずれも人気球団で公式戦順位も上位をキープ。首位KIAを3チームが追う展開になっている。

全10球団の観客数。1試合平均順(KBOのデータを基にストライク・ゾーンにて作成。単位は人)
全10球団の観客数。1試合平均順(KBOのデータを基にストライク・ゾーンにて作成。単位は人)

好況の理由は人気球団の成績だけではない。女性ファンの増加がある。韓国野球委員会(KBO)によるとオールスター戦のチケット予約で性別、世代別で最も割合が高かったのは20代女性の39.6%、30代女性が19.1%で続く。20~30代女性だけで58.7%を占めた。

オールスター戦の女性客全体の割合は昨年2023年が65.7%、今年も68.8%と高い。韓国の球宴は選手のコスプレやパフォーマンスなど「ファンフェスティバル」要素が強いことが要因としてあるが、公式戦でもスタンドに女性の姿は多い。

球場で女性ファンに観戦理由を尋ねると「チームが好き」、「好きな選手がいる」、「応援が楽しい」と答え、ハマっていった理由については「選手が身近に感じられる」と話す人が少なくなかった。

選手や応援に興味を持った人は、球団のYouTubeチャンネルやSNSなどでチームや選手の素顔に触れ親近感を抱いている。シーズン中、週6日試合が行われるプロ野球は他のエンターテインメントに比べて接点を持ちやすく、関心が持続する傾向にあるようだ。

KBOリーグの入場料は内野応援席で1万5000ウォンから2万ウォン程度(約1650円から2200円)。映画鑑賞(約1540円から1650円)と大差なく、歌い踊りながら約3時間楽しめる野球観戦は「友達を誘いやすい」と話す人もいた。

誘った友達が当該カード以外のファンであるケースもあり、韓国では試合とは関係ないチームのユニフォームを着た人が応援席に交じり盛り上がっていることがよくある。KBOリーグの中継を見たことがある人ならお馴染みの光景だ。

ちなみにKBOリーグにはNPBでトラブル防止の為に定められている「応援エリアでの相手チームのユニフォーム着用、グッズ持ち込み禁止」という決まりはなく、とがめられることはない。

またZOZOマリンスタジアムのように「全座席でホーム、ビジター以外のNPB球団のユニフォーム着用、応援グッズの使用を禁止」といったルールも定められていない。

⇒ ZOZOマリンスタジアム スタジアムルール「エリア別応援ルール」の項目に掲載

盛り上がるKBOリーグの観客席の様子<1>

映像:トゥサンベアーズの応援席(BEARS TV)

チケット入手の高い壁

「人気で当日券ないなら、日本から予約すればいいじゃん」

そう思う人は多いだろう。しかし韓国ではチケット予約をはじめ多くのサービスの会員登録の際に韓国国民に付与されている住民登録番号と、国内の携帯電話番号による認証が求められる。今年3月、大谷翔平(ドジャース)らの出場でチケット争奪戦になった「MLBワールドツアー・ソウルシリーズ」でも話題になった点だ。

決済方法も韓国国内発行のクレジットカードに限定されていることが大半。そのため日本在住者のチケット予約は難しく、「現地で当日券を買う」のが限られた方法だ。

「わざわざ韓国に野球を観に行くのは韓国野球のガチファンだけだろ。日本人が買えないとか関係ない」

思い込みの強い人のこれに近い言葉をたまに目にする。しかし「当日券がなかった」などの冒頭の声は、いずれも普段KBOリーグをチェックしていない人から聞いたものだ。野球ファンの中には好きなNPBのチームの試合だけではなく時折、海外の球場での観戦を楽しんでいる人もいる。

MLBを観に行く人もいれば、距離が近い韓国、台湾を訪れる人もいる。LCC(格安航空会社)の就航路線が充実し、若い世代も海外に足を伸ばしやすくなった。

盛り上がるKBOリーグの観客席の様子<2>

映像:KIAタイガースの観客席(KIAタイガース キャTV)

外国人が気軽に観る方法はないのか?

昨季までのKBOリーグは週末(金、土、日)と平日(火、水、木)での観客数に差があり、平日の満員札止めはたまにしかなかった。しかし最近は平日でも空席が減っている。

特に1万2000人で満杯となるハンファイーグルスの本拠地(テジョン)は、今季57試合中38回満員を記録。曜日に関係なく場内が埋まり、現地ファンでもチケット入手が難しくなった。ハンファは来季2万人規模の新球場への移転を予定している。

では海外からの渡航者がKBOリーグのチケットを入手するにはどうすればいいのか。自力で解決する方法として「特定のチームの試合を選ぶ」というのがある。

KBOリーグは10球団制だが、12年前までは8球団だった。新たに加わった2チーム(NCダイノス、KTウィズ)は短期間で人気と実力を兼ね備えたが、他球団と比べるとビジターゲームでの集客力が落ちる。歴史が浅い部類に属するキウムヒーローズも同様だ。この3チームのビジターゲームは比較的、試合当日でも空席がある。

KBOリーグの本拠地球場はNPBより規模が小さく、収容人員は平均2万人。「3~4万人入る球場があれば」という意見も耳にするが、NPB球団の事業部門の幹部は「他のイベントと併用しないドームではない野球場は、2万5000人程度がビジネスとして妥当」と話した。

今季のKBOリーグはこのままのペースだと、リーグ初の総動員数1000万人に達する可能性がある。韓国の人口は約5171万人。国民のおよそ5人に1人が球場を訪れた計算になる。

この「5人に1人」という割合は、昨年2507万が来場した日本とほぼ同じだ(日本の人口約1億2435万人)。

盛り上がるKBOリーグの観客席の様子<3>

映像:サムスンライオンズの観客席(LionsTV)

⇒ KBOリーグ順位表(ストライク・ゾーン)

⇒ チーム別 選手別応援歌(ストライク・ゾーン)

(観客数は8月24日現在)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FM那覇)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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