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よく聞くジビエって何? 最旬のご馳走が食べられるレストラン

東龍グルメジャーナリスト
帝国ホテル 東京「レ セゾン」/著者撮影

冬の高級食材

秋から冬にかけて旬を迎える高級食材といえば、何を思い浮かべるでしょうか。

ズワイガニやタラバガニ、フグやアンコウ、ノドグロやナマコなど、魚介類が多く挙げられるかと思います。

しかし実は、肉も非常においしい季節。その理由は、本格的な厳しい冬に向けて脂肪が蓄えられ、文字通り脂がのるからです。

同じ肉であっても、最旬のご馳走といえば、狩猟が解禁されて出回り始めた野生鳥獣肉、つまり、ジビエの肉でしょう。ジビエとはフランス語でgibierと表記される野生鳥獣のこと。

12月はジビエの走りの時季

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律、すなわち、鳥獣保護管理法では、狩猟鳥獣が定められています。マガモやキジ、ヤマバト(キジバト)やヤマシギなど28種の鳥類、ツキノワグマやイノシシ、ニホンジカやノウサギといった20種の獣類が対象です。

狩猟期間は、北海道は9月15日から翌年4月15日まで、北海道以外は10月15日から翌年4月15日まで。ただ、鳥類の繁殖などを考慮して、鳥獣保護管理法施行規則では、北海道が10月1日から翌年1月31日まで、北海道以外は11月15日から翌年2月15日までと、先の期間よりも狩猟期間が短く制限されています。

したがって、ジビエは12月が走りの時季であり、走りが喜ばれる日本では非常に貴重な食材であるといって間違いありません。

ホテルでも本格的なジビエ料理を提供

美食の代名詞であるフランス料理でも、旬の食材をとても大切にしています。

本格派を自認するフランス料理店であれば、狩猟シーズンに野生鳥獣肉を用いたジビエ料理を提供していることでしょう。

ただ、一流ホテルの高級フランス料理店となると、ジビエが苦手なゲストがいたり、特別メニューを提供するのに手間がかかったりするので、なかなかジビエ料理を全面に押し出せません。

そういった状況にありながらも、毎年本格的なジビエ料理を生み出し、今年もジビエ料理が主役となるコースを提供しているフレンチレストランがあります。

それは、ミシュランガイドで1つ星を獲得し続けている帝国ホテル 東京の「レ セゾン」です。

定評のあるヴォワザン氏のジビエ料理

「レ セゾン」エントランス/著者撮影
「レ セゾン」エントランス/著者撮影

シェフを務めるティエリー・ヴォワザン氏は、フランス・シャンパーニュ地方を代表する名門レストラン「レ クレイエール」でもシェフの重責を担ってきた実力派。

生み出す料理の数々は、まさに本場のフランス料理そのものです。「レ セゾン」に訪れさえすれば、フランスに行かずとも、本物のフランス料理が体験できます。

ジビエ料理も同様で、他ではなかなか食べられない野生鳥獣をつかったジビエ料理を体験できるので、ジビエコースを食べに毎年多くのゲストが訪れているのです。

コースメニュー

ヴォワザン氏による今年のジビエ料理を交えたコースは次の通り。

Le menu de Thierry(43,000円、税・サ別)

・なめらかに仕上げた雌雉のヴルテとロティ

・帆立貝のポワレ ハーブを香らせた貝のソース インカのめざめのエクラゼ

・山鳩とオマールブルー 季節の茸と酸味を加えた干し柿

・蝦夷鹿ロース肉 金柑のコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ

・黒トリュフのパイ包み焼き

・コニャックとチョコレートのエレガントな融合

・カフェとショコラ

エゾシカはまだしも、キジ、ヤマバトはなかなか食べる機会がないでしょう。キジは濃厚なスープに、ヤマバトはオマールブルー(オマール海老)と合わせ、エゾシカは少し変化を加えてと、様々な手法が用いられているのも興味が引かれるところ。

メインディッシュには、ヴォワザン氏の代名詞である「黒トリュフのパイ包み焼き」を用意。黒トリュフがまるごとひとつ包まれているという、非常に贅沢な一皿です。

シェフソムリエの伊藤靖彦氏がセレクトしたジビエの野性味にぴったりなワインペアリングも楽しめます。

なめらかに仕上げた雌雉のヴルテとロティ

なめらかに仕上げた雌雉のヴルテとロティ/著者撮影
なめらかに仕上げた雌雉のヴルテとロティ/著者撮影

フランスから取り寄せた雌キジ(フザン)のガラで出汁をとり、濃厚でなめらかなクリームスープに。

浮実はしっとりとした濃厚な雌キジのムースで穏やかな滋味が感じられます。栗片も加えられており、食感や甘味の変化も。

トーストしたブリオッシュには雌キジのレバーペーストが載せられています。サクサクとした食感と口溶け感のあるペーストの相性は抜群。

帆立貝のポワレ ハーブを香らせた貝のソース インカのめざめのエクラゼ

帆立貝のポワレ ハーブを香らせた貝のソース インカのめざめのエクラゼ/著者撮影
帆立貝のポワレ ハーブを香らせた貝のソース インカのめざめのエクラゼ/著者撮影

ジビエ料理の間に挟んだ魚介料理。大ぶりの岩手県産ホタテ貝が主役です。

ホタテ貝はポワレされており、高温で焼き上げているため、甘味と旨味がぎゅっと閉じ込められています。ムール貝やアサリ、ハマグリなど貝類をふんだんに使ったソースが、ホタテ貝の香りをさらに高めています。

糖度の高い北海道産インカのめざめは、食感を残したマッシュポテトに。仕上げに削られた柚子のゼストがよい香り。

山鳩とオマールブルー 季節の茸と酸味を加えた干し柿

山鳩とオマールブルー 季節の茸と酸味を加えた干し柿/著者撮影
山鳩とオマールブルー 季節の茸と酸味を加えた干し柿/著者撮影

今年から新しく提供されるようになった料理。里の食材と海の食材を取り合わせた意欲作です。

食味の素晴らしいフランス・ブルターニュ地方のオマールブルーは、味わいが濃厚なヤマバトに決して負けていません。

旬のフランス産ジロール茸やトランペット茸が味わいを豊かにし、酸味を加えた干し柿や蕎麦の実がよいアクセント。オマールブルーのクリームソースとヤマバトのジュ(肉汁)を合わせた、旨味と旨味が重なったソースも素晴らしいです。

蝦夷鹿ロース肉 金柑のコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ

蝦夷鹿ロース肉 金柑のコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ/著者撮影
蝦夷鹿ロース肉 金柑のコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ/著者撮影

日本に生息するニホンジカのうち、北海道に生息するものがエゾシカ。

エゾシカはローストして食べるのがオーソドックスですが、予想を裏切り、期待を上回る逸品に仕上げています。

エゾシカには塩味の利いたパンチェッタを巻き、濃厚ながらもバランスのいい味わいに。周りに美しく配されたのは、表面に鰹節をまぶして旨味を携えたバターナッツカボチャ。

ソースは、薬草系リキュールのシャルトリューズを加えたエゾシカのジュで、奥行きのある香りに仕上がっています。バターナッツカボチャのクリームを合わせると、エゾシカの野性味がより洗練されて感じられるでしょう。

黒トリュフのパイ包み焼き

黒トリュフのパイ包み焼き/著者撮影
黒トリュフのパイ包み焼き/著者撮影

日本ではここだけでしか食べられない極みの逸品。ヴォワザン氏の師匠であるジェラール・ボワイエ氏のスペシャリテであり、ヴォワザン氏のシグネチャーディッシュです。

丸ごとひとつの黒トリュフがパイに包まれているので、カットすると鮮烈な黒トリュフの香りが溢れ出ます。フォアグラも包まれているので口当たりも濃厚。黒トリュフソースとの相性も抜群です。

コニャックとチョコレートのエレガントな融合

コニャックとチョコレートのエレガントな融合/著者撮影
コニャックとチョコレートのエレガントな融合/著者撮影

フランボワーズとイチジク、チョコレートにヘネシー コニャックを用いた、大人のデザート。

気品のあるヘネシーベースのアイスクリームとなめらかなチョコレートのムースに、サクサクのチョコレートのクリスプといった構成です。

様々なテクスチャと心地よい香味、とろっとした口溶けと濃厚な味わいで、非常に複雑。

ジビエコースの背景

料理はどれも心に残るものばかりでしたが、その主役を担ったジビエについて、ヴォワザン氏はこのように説明します。

「今年のジビエは昨年と比べると、入手のしやすさや価格は変わらない。質も例年通りで、素晴らしいものを仕入れることができている。通常であれば、ハトやエゾシカに比べてキジは仕入れにくい。しかし、フランスで一部のレストランが新型コロナウイルスの影響で休業していることもあって、キジも安定して仕入れられている」

昨年提供していた「青首鴨と伊勢海老」が、今年は「山鳩とオマールブルー」に新しくなりました。

その理由は、毎年楽しみにしているゲストの要望に応えるため、その年に最もよいジビエを使いたいという考えがあるからです。今年はヤマバトの質が非常に素晴らしいということで、それに負けないくらい素晴らしい食材であるオマールブルーと合わせた料理を考案したといいます。

コロナ禍の中にありますが、なぜジビエコースを提供したのでしょうか。

「毎年楽しみにしているゲストがいらっしゃる。コロナ禍で厳しい状況が続いているが、そうであるからこそ、これまでと変わらない料理やサービスで、ゲストの心を潤したい」

常連ゲストが次々と訪れているだけではなく、「Go To キャンペーン」を利用して、初めて訪れるゲストも少なくないということです。

食を通じて幸せを届けたい

ヴォワザン氏は最後にこう結びます。

「マスクを着用して接客したり、ゲストとの握手を控えたりするなど、これまでとは違うスタイルで営業している。しかし、料理やサービスに満足していただけたかどうかは、マスク越しからでもわかる。ゲストの満足が、スタッフの喜びであり、モチベーションとなっている。今後も食を通じてゲストに幸せを届けていきたい」

実は今年2020年は、帝国ホテルにとって、開業130周年という大きな節目となる重要な年。帝国ホテル 東京料理長を務める杉本雄氏は次のように話します。

「おいしいものをつくるのは当然のこと。その上で安全や安心、そして非日常を提供していかなければならない。もう一度味わいたい、訪れたいと思っていただけるように、引き続き励んでいきたい」

レストランの価値

新型コロナウイルスの感染拡大にあって、ホテルや飲食店は苦境に立たされていますが、素晴らしい食体験は、胃袋を満たすだけではなく、日々の疲れを癒す、貴重な心の糧です。

まだ先行きは見えませんが、「レ セゾン」で例年通り、冬のご馳走であるジビエ料理が提供されたことによって、多くのゲストが勇気づけられたことは間違いありません。

「回復する」という語源をもつレストランにとって、コロナ禍は真価が問われるような局面であり、そうであるからこそ、これまでと同じように豊かな食体験が提供される場であってほしいと切に願います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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