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まもなく春節 60万円分の日本のお土産を持参して、中国に4年半ぶりに帰省したある男性の思い

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

中国は2月10日に春節(旧正月)を迎える。今年は過去最多の約90億人が移動すると予測されている。私の知り合いの在日中国人の男性も、先日、中国・東北部の田舎町に4年半ぶりに帰省した。コロナ禍で長い間帰省できなかったため、感慨もひとしおだという。

帰省前、その男性から、今回持参したお土産について話を聞いた。その金額は約60万円。その男性がお土産に込めた、故郷の家族への思いとは――。

お金を稼ぐために来日した

その中国人男性は来日して30年近くになる。現在、50代後半。人生の半分以上を、日本の建設現場などさまざまな業界で、身を粉にして働いてきた。まだ中国のGDPが日本の10分の1以下だった貧しい時代に、あらゆる手を尽くして来日。来日の目的は、経済発展している日本でお金を稼ぎ、故郷の母親や弟、妹に仕送りして、彼らに少しでも楽をさせてあげることだった。

日本語学校などに通うお金はなく、ひたすら働きながら独学で日本語を覚えた。20代のときは1年間で1日も仕事を休まず、疲労のあまり、道端で気を失って倒れたこともあったという。

紆余曲折を経て、いまは結婚し、中古のマンションも購入。生活もようやく安定した。あるサービス業でお店を任されているため、コロナ禍の前からあまり頻繁に中国に帰ることはできなかったが、中国のSNS(ウィーチャット)が普及した10年ほど前からは、故郷の母親と頻繁にビデオ通話ができるようになり、中国との距離がぐっと近くなった。

弟や妹も結婚し、子どもをもうけ、兄として、それぞれの生活の心配までする必要もなくなった。だが、めったに中国に帰れないため、帰省する際は、大量のお土産を持参する。そばにいてあげられず、寂しい思いをさせている一人暮らしの母親に少しでも何かしてあげたいという気持ち、そして、母親の世話を頼んでいる弟や妹への感謝のしるしとしての「日本のお土産」だ。

男性が日本で身を粉にして働いているあいだに、いつの間にか、中国のGDPは日本の4倍近くになり、中国の経済力のほうが日本より強くなった。中国は豊かになり、お金さえ出せば、多くのものを手に入れられるようになった。まさに「隔世の感」だ。

だが、この男性は「日本の商品を持っていくと、家族だけでなく、親戚や友人にもとても喜ばれるんです。私の田舎では、まだ日本や日本製品に対する憧れがある。それはずっと変わっていません」と話す。一体、どんな商品を買って帰ったのか。

現金、シューズ、化粧品

「80代半ばの母親には現金を30万円くらい用意しました。いまも毎月送金していますが、対面でお小遣いを渡したいので。それを使って、母親が欲しいものを買ってほしいなと思っています。

弟にはスポーツシューズと仕事用のカバン。弟は離婚しているのですが、弟の息子にはアップルウォッチとバイク用の手袋、それに、最近中国で流行りのキャンプ用品を買いました。弟は出稼ぎで、しょっちゅう中国国内の各地に出かけていて留守が多く、実家の世話は弟の友だちも手伝ってくれているので、弟の友人たちにもお土産を用意しました。

徳利とおちょこのセットです。それを10セットくらい、同じものを用意しました。家族同然の友人たちなので、春節の食事会で集まったとき、全員に配ろうと思いまして。1セットは6000円くらいでした。最近、中国でも日本酒がブームで、こんな東北の片田舎でも日本酒を飲む人が増えてきたので、きっと喜ばれると思います。

妹の家族には、高級炊飯器とスポーツシューズ、化粧品を買いました。それに、妹の娘は昨年、地方の公務員試験に合格して、就職したばかりなので、アクセサリーも買いました。うちの奥さんが選んだ真珠のピアスです。中国でも真珠は人気なので。

ほかには親戚たちに日本の百貨店のお菓子セットをたくさん買いました。日本のお菓子はとても美味しいし、包装紙が美しいので、喜ばれるんです。日本製のマスクも20箱くらい買いました。箱がかさばるので、箱から出して、スーツケースの隅に押し込みました。

中国でもマスクはたくさん売っていますが、コロナのとき、自分がいろいろ試した中で、最も気に入ったマスクがあるので、それを皆にも使ってもらおうと思ったからです。わざわざこんなものまで買ってこなくても……と皆に笑われるかもしれませんが、自分は日本のものがいちばん好きなので。

これら全部でだいたい60万円くらいですかね。母親に渡すお小遣いの金額がいちばん大きいですが、中国を離れて長い分、少しでも、家族のためにしてあげられることがあれば、と思っているんです。それが、日本に出稼ぎにいって、そのまま年を取った兄としての役割かなと思っています」

春節の過ごし方

今日(2月9日)は中国の大みそか(除夕=チューシー)に当たる。家のあちこちに春節の縁起物である赤い飾りを施したり、一家で食べるご馳走の準備をしたりする日だ。夜には家族で食事をしながら、「春節聯歓晩会」(春晩=チュンワン)という中国版の紅白歌合戦を見るのがお決まりだ。

この男性の家族だけでなく、多くの人々が、故郷で春節を過ごすことがいちばんの親孝行、幸せだと思っている。

今年はコロナが終わって最初の春節。景気の悪化が懸念されているが、それでも、多くの人々が家族と顔を合わせられる「平凡な幸せ」をかみしめているはずだ。いまごろ、この男性も4年半ぶりに、一家だんらんを過ごしていることだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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