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なでしこリーグ前半戦に見る女子サッカーの「いま」

松原渓スポーツジャーナリスト

なでしこリーグは、5/18(土)で、前期のリーグ戦は中断期間に突入。

そして、今週からはなでしこリーグカップが開幕し、各地で熱い戦いが繰り広げられている。

私はグループA初戦のINAC神戸×ベガルタ仙台レディース戦を取材しに行った。

なでしこリーグの中でもなでしこジャパン戦士8人を擁するINACの人気は抜群に高いが、母体にJリーグのベガルタ仙台を持つベガルタレディースも男子と掛け持ちで応援に駆けつけるサポーターが多く、息が揃った応援歌や手拍子が印象的だ。

日テレ・ベレーザ、浦和レッズレディースやアルビレックス新潟レディース、ジェフ市原千葉レディースなど、トップチームのサポーターがスタンドにJリーグさながらの弾幕や旗を掲げ、熱い拳を振ってピッチの選手たちを鼓舞する光景を見ると、これもJリーグの傘下のクラブの強みだと実感する。

試合はINACが粘り強く攻め、2−0で勝利をものにした。

この日、INACの本拠地・ノエビアスタジアムには3278人の観客が入った。

2011年のワールドカップ優勝、昨年のロンドン五輪で銀メダルを獲得した直後は女子サッカー人気の沸騰があり、1万人を超える観客が入る試合もあった。

だが、いつまでも過去の栄光を引きずるわけにはいかない。

参考までに、2010年から今年までの毎年の平均観客数の推移を見てみよう(リーグ戦・カップ戦含む)。

2010年 1試合平均911

2011年(※女子W杯優勝) 1試合平均2795人(W杯後は平均3799人)

2012年(※ロンドン五輪銀メダル)1試合平均2635

2010年までと比べて、この2年間でいかに伸びたかが分かる。この2年間はなでしこジャパンの活躍で女子サッカーに興味を持ち、初めてなでしこリーグに足を運んだ人も多かった。そして日本が本当の意味で女子サッカー強豪国になるためには、そういう人たちがリピーターになり、足を運び続けてくれるような魅力的なリーグであり続けなければいけない。

その意味で2013年シーズンは、女子サッカーの底力が試される年だ。

しかし、そのハードルは低くはない。

まず、2013年は世界大会がない。

なでしこジャパンの次回W杯は2015年(最終予選は来年)、オリンピックは2016年(予選は15年)で、今年はちょうど谷間の年にあたる。

6月に英国・ドイツでの親善試合が予定されており、7月には韓国で東アジア杯が予定されているが、2011年・12年に比べると、代表チームに関してはメディア露出の機会が限られるだろう。

しかし、なでしこリーグはBSフジの中継で見られる(カップ戦はBSフジとBS朝日)。

各チームで頑張る代表選手達の姿も、ここで見ることができるのだ。

2012年シーズンから、なでしこリーグはBSフジと4年契約を結び、毎節2試合以上の試合が中継(録画含む)されている。

私は毎試合、試合のピッチレポーター(試合中に選手の情報やベンチの状況などをレポートする)として試合会場に行くが、制作に関わるスタッフの方々や、実況、解説の方など、女子サッカー中継に関わるすべての方々の「女子サッカー熱」には本当に頭が下がる。

現場には本当に多くの発見がある。

初めて試合を見る人や、女子サッカーの魅力を伝える中継を意識し、ピッチレポーターは各チーム一人ずつの2人体制(通常は1人で両チームを担当することが多い)で、解説者も2人体制で臨むことも。

関わる人数が多ければ多いほど制作費は当然嵩むが、それ以上に中継の「質」を上げるということにこだわっている。

中継は普段Jリーグを全試合中継している制作会社が作っているだけに、カメラワークや中継技術などもクオリティが高い。

実況には元なでしこジャパン選手を迎え、女子サッカーならではのプレーの選択やサッカーの環境など、貴重な情報も聞ける。

私がピッチレポートをする上で意識することは、試合の流れを邪魔しない範囲で、アマチュア選手たちのプレー環境や女子選手ならではのサッカーへのアプローチや考え方など各選手の「個性」を視聴者に上手く伝えることだ。

前回の記事でも書いたように、なでしこリーグには実質的なプロと言える環境のクラブ、プロ選手とアマチュア選手が混ざったクラブ、アマチュア選手のみのクラブがあり、それぞれ練習時間や練習環境も大きく異なる。

彼女達のサッカーへの情熱はプレーする姿から伝わってくるが、そこにピッチレポートという形でいいアシストができればと考えている。

この中継を一度も見たことがない皆さんには、ぜひ一度ご覧いただけたらと思う。

そして、面白いと思ったら、次の週はぜひスタジアムへ――☆

観客数を増やす上でのもう一つのハードルが、なでしこリーグの全試合有料化だ。

昨年までは約7割が有料試合、3割が無料試合だったが、今季からリーグ、リーグカップともに今季から全試合が有料化された。

なぜ、今まで無料試合があったかというと、各スタジアムや競技場によっては利用規程でチケットが有料になれば会場の使用料が一気に上がるため、赤字のリスクが大きいからだ。

警備員の人件費や入場口でのチケット販売やチケットのもぎりにかかる人件費、さらに入場料の何%か…と足していけば、かかる経費だけで無料試合とした場合の数倍に膨れ上がってしまう。それに、女子サッカーの場合、有料試合といっても、500円から1000円という安い価格設定なのだ。

つまり、これまでの無料試合は「経費を抑えるか」ということに主眼が置かれていた結果だが、2013年を境に、なでしこリーグは将来のトップリーグ充実に向けて全試合有料化に乗り出した。

単純に考えれば、たとえこれまでよりもお客さんは減るのではないか…と考えられるかもしれない。

ただ本来、エンターテインメントであるサッカーの試合はJリーグ同様「お金を払ってでも見たい」ものでなければいけないと思うし、たとえ500円でも、選手達が「お金をもらって試合をしているんだ」というプライドを持ってプレーすることは、競技のレベルアップにつながるはずだ。

また、今シーズンはこれまでに比べても、ハーフタイムに様々なイベントを企画するなど、各クラブの工夫も見て取れる。

チアリーディングや、タレントの起用、地元歌手のミニライブなど、多彩だ。

スタンドに子供が多いこともあってか、各地のゆるキャラも大人気だ。

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貴重な週末の休日に、映画や動物園に行くのも楽しいだろう。

でも、スタジアムで水入らずのひとときを過ごしている家族を見たり、なでしこジャパンの選手を生で見て目を輝かせる子供たちを見ていると、決して高すぎる出費ではないと思える。

コストパフォーマンスの面から言えば、むしろお得感を得られるのではないだろうか。

そして、スタジアムに足を運ぶことで、より多くの人と「みんなで、なでしこリーグを支えていこう」という想いを共有できれば最高だ。

個人的には、「3000人」という数字が女子サッカーにとって人気の安定を示す一つの目安と言えるのではないかと考えている。

そして、その先に、「なでしこリーグのプロ化」という大きな理想が見えてくる。

何事も、一朝一夕にしてはならず。

過程を楽しみながら、私自身も一人のファンとして見守っていきたいと思う。

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ザックジャパンは、W杯最終予選ただ中で4日にもホームでのW杯決定が決まるかもしれない。

初めてW杯出場がホームで決まるかもしれない。

今からその瞬間が待ち遠しい。

★★★★★

<なでしこジャパンヨーロッパ遠征予定>

なでしこジャパン対イングランド

6/26(水)@英国

なでしこジャパン対ドイツ

6/29(土)@ドイツ

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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