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「金属片」を入れた新型タバコが「凶器」に:子どもの「誤飲」で惨事にも

石田雅彦科学ジャーナリスト
新型タバコのパッケージとスティックに入れられた金属片。写真撮影筆者

 喫煙者の家庭にはタバコがごく普通にある。タバコは、乳幼児や子どもの興味を引きやすいため、誤飲事故が多い。最近、加熱式タバコの喫煙者が増えているが、アイコスの新製品はスティックに金属片が入れられ、子どもが誤飲すれば口腔内を傷つけるなど、重篤な事故が増える危険性がある。

多い子どものタバコ誤飲事故

 好奇心旺盛な子どもは、手近にあるものに興味を示し、口に入れてみようとすることもある。タバコのパッケージは、キラキラしていたり不思議な色をしていたりするし、香料入りの場合、子どもが好きな匂いがする場合もあるだろう。

 そのため、子どもの誤飲事故の中でもタバコの誤飲は最も多い。厚生労働省の調査(※1)によれば、タバコがずっと子どもの誤飲事故のトップだ。同調査では、タバコの誤飲事故の大半は、1歳前後の乳幼児に集中し、公園で遊んでいた子どもがポイ捨てされたタバコの吸い殻を口に入れていた事例の報告もあったという。

喫煙率の減少とともに子どものタバコの誤飲事故は減ってきているが、やはりタバコがトップを維持し続け、ここ数年は横ばい状態になっている。Via:厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課化学物質安全対策質、「2018年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」、2019年
喫煙率の減少とともに子どものタバコの誤飲事故は減ってきているが、やはりタバコがトップを維持し続け、ここ数年は横ばい状態になっている。Via:厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課化学物質安全対策質、「2018年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」、2019年

 もともと子どもが異物を誤飲した場合、自分が何を飲み込んだのかを訴えられないこともあり、外見からも症状が出ないことも少なくない。そうなると、措置が遅れたり、麻酔をかけなければならないなど、身体的な負担が大きくなる治療法を取らざるを得なくなる。

増えている新型タバコの誤飲事故

 子どもの誤飲事故では、シェアの変化とともに新型タバコ(加熱式タバコ)のスティックやカプセルなどによるものが増えている。2021年に消費者庁が発表したアンケート調査結果によれば、乳幼児が誤飲しそうになった割合は、加熱式タバコのほうが多かったという。

 なぜ、加熱式タバコなどの新型タバコのほうが、子どもが口に入れる危険性が高いのだろうか。

 それは既存の紙巻きタバコより、新型タバコのスティックやカプセルのほうが小さいからだ。

 また、タバコ葉に含まれるニコチンには、強い嘔吐作用がある。タバコ葉を刻んで巻いた紙巻きタバコは、子どもが口に入れるとタバコ葉の苦味で吐き出しやすいのに比べ、新型タバコのスティックはタバコ葉を板状に固めたり、プラスチックのカプセルに入れたりして、タバコ葉の苦味が感じにくい仕組みになっていることも大きい。

 さらに、新型タバコのラインナップをみると、メンソール、シトラス、ストロベリー、アップルといった香料入りが多い。子どもは甘い匂いに興味を持ちやすいので、新型タバコの誤飲事故も増えていくというわけだ。

尖った金属片が入ったスティック

 こうした新型タバコのスティックに、より危険性の高い製品が出ている。それがフィリップ・モリス・ジャパンが製造輸入販売しているアイコス・イルマのテリアというスティックだ。

 テリアのスティックの1本1本には、長さ約12ミリメートル、幅約3.5ミリメートルの金属片が入っている。触ってみると弾力性があるが、バリがあって角が尖り、うっかりすると指先を切ってしまいそうになる。

新型タバコのアイコス・イルマのスティック(左)とスティックに入れてある金属片(中)。中央の円筒の物体は、スティックの先端に差し込まれた蓋のようなもので、これで塞いでいることで子どもが口に入れてもタバコ葉の苦味を感じられない恐れがある。写真撮影筆者
新型タバコのアイコス・イルマのスティック(左)とスティックに入れてある金属片(中)。中央の円筒の物体は、スティックの先端に差し込まれた蓋のようなもので、これで塞いでいることで子どもが口に入れてもタバコ葉の苦味を感じられない恐れがある。写真撮影筆者

 これを子どもが誤飲すれば、どうなるだろうか。

 公益財団法人日本中毒情報センターという機関があるが、この機関もタバコの誤飲事故について啓発や情報提供などを行っている。同センターは、2021年9月1日にアイコス・イルマのスティック、テリアの誤飲事故について、医療関係者から情報収集を行っているように、関係機関もこの製品について危惧しているようだ。

 また、タバコ会社もタバコの誤飲事故には神経を尖らせている。例えば、フィリップ・モリス・ジャパンは、日本中毒情報センターの医療関係者への情報提供に関する費用を負担している。

 ちなみに、同センターの評議委員には、JT(日本たばこ産業)と関係の深い公益財団法人喫煙科学研究財団の理事も加わっている。タバコ産業は、誤飲事故の情報をいち早く入手したいと考えているのかもしれない。

テリアの警告表示。「本製品には飲み込むと大ケガにつながりかねない尖った金属片が含まれています」とあるが、小さな文字で色も読みにくい。写真撮影筆者
テリアの警告表示。「本製品には飲み込むと大ケガにつながりかねない尖った金属片が含まれています」とあるが、小さな文字で色も読みにくい。写真撮影筆者

 なぜ、フィリップ・モリスはスティックにこのような金属片を入れたのだろうか。

 それは、アイコスの加熱方式にある。イルマ以外のアイコスは、金属ブレードをスティックに差し込み、金属ブレードを加熱しているが、この部品が破損しやすく、差込口の中の清掃もしにくい構造になっている。

 保証修理や交換、クレーム対応のコスト、清掃が不十分なことでの有害物質の発生といったリスクなどが無視できなくなり、おそらくスティックの金属片を加熱する方式を開発したのだろう。

すぐに吐き出させて治療へ

 タバコ葉にはニコチンが含まれているが、ニコチンは薬機法(旧薬事法)によって劇毒物に指定され、許可を得て適切な管理のもとでなければ使用・販売することはできない。

 また、ニコチンには強い毒性がある。体重1kg当たりニコチン1~13mgが成人の致死量とされ、90kgの成人では1.8%のニコチン溶液5mLで致死量に達し(※2)、乳幼児のニコチン経口致死量は10〜20mg(タバコ半分〜1本分)と考えられる。

 子どもがタバコ製品を口に入れれば発見しにくく、嘔吐もせずに消化器官へ送り込まれ、ニコチンが吸収される危険性は高い。

 厚生労働省は、喫煙者は紙巻きタバコや加熱式タバコのスティックなどを放置せず、目の届かない場所に保管し、子どもの行動に注意するよう呼びかけている。

 もし、子どもがタバコを誤飲した、もしくは痕跡や症状からそれが疑われる場合、すぐに吐き出させるのが最も重要な措置だが、同時に医療機関へ連絡して治療を受け、症状によっては救急搬送も依頼すべきだ。ニコチンの吸収を早めてしまうため、吐き出させるためとしても、水やミルクなどを飲ませることは避けたい。

※1:厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課化学物質安全対策質、「2018年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」、2019年12月25日

※2-1:Bernd Mayer, "How much nicotine kills a human? Tracing back the generally accepted lethal dose to dubious self-experiments in the nineteenth century." Archives of Toxicology, Vol.88, Issue1, 5-7, 2014

※2-2:Robert A. Bassett, et al., "Nicotine Poisoning in an Infant." The New England Journal of Medicine, Vol.370, 2249-2250, 2014

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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