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三浦春馬さんの遺産をめぐって紛糾か~相続がもめやすい人

竹内豊行政書士
三浦春馬さんの遺産をめぐって紛糾しているという報道がありました。(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

7月18日に亡くなった三浦春馬さん(享年30)の遺産をめぐって相続人の間で話し合いがまとまらず、紛糾しているという報道がありました(三浦春馬さん両親が遺産相続で紛糾か 一致みせず話し合い長期化

三浦春馬さんは独身で子がなく、ご両親(離婚)が健在なので、相続人は直系尊属である親になります。そして、それぞれの親(父親、母親)の「法定相続分」は2分の1ずつとなります。その父母の間で、遺産分けの話し合いが進んでいないというのです。

そこで今回は、「相続がもめやすい人」について考えてみたいと思います。

法定相続分は「一応の割合」に過ぎない

「遺産は法律が決めた割合で分ければ済む」とお考えの方がいますが、実はそう簡単なことではありません。法定相続分は一応の割合にしか過ぎないのです。

遺産分けは「相続人全員」の話し合いで決める

具体的に遺産を承継するには相続人全員で協議をして、全員が「合意」した内容に基づき遺産を分け合うことになります(この協議を「遺産分割協議」といいます)。

そして、合意の証しとして、合意内容を記載した文書(「遺産分割協議書」)に相続人全員が署名し「実印」を押印します(「印鑑登録証明書」を添付します)。この「遺産分割協議書」に基づいて、不動産の名義変更や預貯金の払戻し手続きを実行することになります。

遺産分割の基準

では、遺産分割協議はどのような考えの基で行えばよいのでしょうか。民法は「遺産分割の基準」として次のように規定しています。

民法906条(遺産の分割の基準)

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

たとえば、年少・高齢や病気・障がいのために生活が困難な者への配慮、住居確保の必要性、農業・自営業の継続などが配慮されます。

遺産分割が「もめやすい」人

民法が掲げる「遺産分割の基準」に基づき、相続人全員で円満に遺産分けの話し合いが合意できればよいのですが、合意に至らず紛糾してしまうことも残念ですが実際あります。いったん紛糾してしまうと、たいてい互いに長期間にわたり精神的に消耗してしまいます。また、裁判ともなれば、弁護士報酬など費用もかかるでしょう。

相続でもめてしまう原因はいくつか挙げることができますが、「相続関係が複雑」な場合はもめる火種を抱えているといってよいでしょう。なぜなら相続関係が複雑なほど、話し合いがしにくくなるからです。では、相続関係が複雑になりがちな人をご紹介しましょう。

「再婚」した人

前婚のときに子どもを儲けていると、その子も相続人になります(ただし、離婚した元配偶者は相続人ではありません)。再婚した配偶者や再婚後に儲けた子と、「前婚の子」との間で遺産分割協議を成立させることに困難が伴うのは想像に難くないでしょう。

「独身」で「子どもがいない」人

独身で子どもがいない人の場合、親が存命であれば、親が相続人になります。もし、三浦さんのように、両親が離婚していれば、元夫婦同士が子どもの遺産の承継について話し合うのですから、話し合いが困難になる可能性は高くなるでしょう。

両親が既に死亡していれば、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹の中で既に死亡している者がいれば、その者の子(=甥・姪)が相続人になります。この甥・姪のことを代襲相続人といいます。一般に、相続人に兄弟姉妹や代襲相続人が現れると、その関係性の薄さから話し合いが進まず、合意成立が困難になるケースが多いようです。

さらに、兄弟姉妹の中に、異母・異父兄弟姉妹がいれば、その困難度は一層高くなるでしょう。

結婚しているが「子どもがいない」人

結婚しているが子どもがいない場合、相続人は配偶者(妻または夫)と被相続人(死亡した夫または妻)の親になります。

被相続人の両親が既に死亡している場合、被相続人に兄弟姉妹がいれば、配偶者と被相続人の兄弟姉妹(生存配偶者から見ると、義理の兄弟姉妹)が相続人になります。さらに、その兄弟姉妹の中に既に死亡している者がいれば、その者の子ども(死亡した配偶者の甥・姪)も代襲相続人として相続人に入ってきます。ここまでくると複雑さが極まってきます。そうなれば、このようなメンバー間で遺産分けの話し合いを円満に行うのは相当困難を伴うと考えられます。

「相続関係の複雑化」が予測される方がすべきこと

以上見てきたとおり、遺産分割協議は多数決で決めることができません。そこで、今回ご紹介したような遺産分割の協議が難航することが予想される方は、「遺言」を残すことをお勧めします。法的に完備した遺言を残せば、相続人の間で遺産分割協議をすることなく、遺言の内容に基づき遺産を承継させることができるからです。

なお、相続人以外の人に遺産を残したり団体等に寄付を希望する方は、遺言を残す必要があります。

自分が亡くなった後に遺産をめぐって争う危険を感じている方は、遺言を残すことを検討してみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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