規格外のルーキーにジャンボ尾崎も仰天 19歳笹生優花の剛腕ショットはどう生まれたのか
女子ゴルフの国内ツアー2戦目「NEC軽井沢72」で、通算16アンダーで初優勝を手にした19歳の笹生優花。
規格外のドライバーショットに驚いたのは、2019年の国内女子ゴルフツアー「宮里藍サントリーレディスオープン」でのことだった。
当時、アマチュアとして出場していたのが18歳の笹生だった。圧巻だったのは最終日に10バーディー、1ボギーの「63」をマークし、40位タイから7位タイまで順位を上げてベストアマチュアを獲得した。
そればかりではない。4日間のドライビングディスタンスは264.25ヤードで堂々の1位。2位の葭葉ルミ(256.25)に8ヤードも差をつけていたのだから、驚かずにはいられなかった。
美しいフォームと切れ味のあるスイングから繰り出されるドライバーショットは、当時から関係者の度肝を抜いていた。
笹生は日本人の父とフィリピン人の母との間に生まれ、4歳のころに日本へ。ゴルフに専念するために8歳から再びフィリピンへ向かい本格的にゴルフを始めると、14歳のときにはフィリピン女子ツアーでプロを押しのけて優勝している。
さらに2016年の世界ジュニアでは2位(優勝は畑岡奈紗)となり、日本女子ツアーの「サントリーレディスオープン」にも14歳から5年連続で出場している。
2018年のアジア大会では、団体と個人で金メダルを獲得。昨年の第1回オーガスタナショナル女子アマでは3位タイに入るなど、国際大会での実績と経験は十分だ。
そんな彼女だからこそ、すでに目線は世界に向いていた。5か国語も話せるほど語学も堪能で、米女子ツアーでも十分やっていける自信はあった。
だが、昨年の米女子ツアーのQT(予選会)に失敗。これが笹生にはかなりのショックだったようだが、一方で日本のプロテストに合格し、QTは28位で今季前半戦の出場権を手にした。
このとき、すでに決まっていた米国のジョージア大学への進学をやめ、当面は日本ツアーで戦うことを決めたというわけだ。
80kgのバーベルを持ちスクワット
新型コロナウイルスの感染が流行り始めた今年3月、都内で笹生と父・正和さんと会う機会があった。
そこで聞きたかったのは、彼女の“剛腕”はどのようにして生まれたのかだ。ドライバーショットを260ヤードも飛ばず女子プロゴルファーは日本にほとんどおらず、笹生のビッグドライブが天性のものなのか、努力によるものなのかがとても気になっていた。
正和さんはこんな話を聞かせてくれた。
「うちはコーチをつけておらず、ずっと私がトレーニングを指導してきました。毎日、朝5時からトレーニングを始めるのですが、優花の両足に250gのおもり(アンクルウェイト)をつけてのランニングに加えて、自転車もこぐようにしました。今もおもりをつけてのトレーニングは続いていますが、負荷は2kgに増えています。80kgのバーベルを持ってのスクワットを10回で1セット。ラウンド中も足に500gのおもりをつけてプレーしていたので、とにかく下半身はここ10年でかなり鍛えられたと思います」
10代の女の子がこのトレーニングをこなしてきたことに驚きを隠せなかったが、彼女の圧倒的なパワーは誰も真似できない努力によって生まれたものだった。
さらに、力強いだけでなく、きれいなスイングにも定評があるが、それは徹底的なシャドースイングで作り上げられたという。
「自宅に高さ2.5mの鏡があるのですが、自分のスイングのトップとフィニッシュの位置を確認しながら、毎日1時間、素振りをしていました」(優花)
しかし、父から課される練習やトレーニングはかなり過酷だったのではと思いきや当の本人は、「世界で活躍したいから」とあっけらかんとしたもの。
8歳のときに「プロになりたい」と父に泣いて訴えたというのだから、この時から本気だったのだろう。
現在、笹生はジャンボ尾崎(尾崎将司)の門下生だが、初めてスイングを見たときに「一体どんなトレーニングをしてきたんだ」と驚いていたという。
目標は「世界一のゴルファーになること」で、今回の初優勝も通過点にすぎない。目標とする米ツアー進出だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、今年の米ツアーQTは中止となり、2021年に持ち越された。
それでも圧倒的なパワーと飛距離を武器に、今後は日本を飛び越えて、世界で活躍する日はそう遠くないのかもしれない。