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変わる「コンビニ」のキャンペーン 「700円くじ的」から「ワントゥワン」へ

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト
レジでコンビニアプリを提示するのも今や当たり前(写真はイメージ)

 先日、依頼を受けて、コンビニのキャンペーン事情について解説をした(デイリー新潮11月18日配信「コンビニ『700円くじ』が減って『1個買うと1個無料』が増えたワケ」。700円以上を購入した客が引く「くじ」の企画が最近は減り、特定の商品を購入するとその関連商品が「1個無料」になるキャンペーンが増えた理由を分析したものである。

 詳しくは上記記事をお読みいただきたいのだが、私は「1個無料」の対象となった商品のメーカーが、別の自社製品を消費者に試してもらうことができることをキャンペーンのメリットとして挙げた。

 現在、セブン-イレブンで実施中の「『ジョージアジャパンクラフトマン ブラック 500ml』または『ジョージアジャパンクラフトマン ラテ 500ml』をどちらか1本買うと、『ジョージアロースタリー ブラック 280ml』1本と交換」キャンペーンを例にとろう。交換対象になっている「ロースタリー ブラック」はこの10月に発売された新商品である。ジョージア社にしてみれば、定番商品を購入した客に、新商品を手にとってもらえるチャンスなのだ。(※無料券の発券期間は11月23日まで)。

 ポイントは、キャンペーンに参加する消費者は、ジョージアの商品を買う以上、大なり小なりジョージアのファン、あるいは潜在的なファンということである。新商品を「お試し」で提供すれば、そちらも気に入ってもらえる可能性が高い。だからジョージア社にしてみれば競合他社の商品ではなく、自社の商品を効率的にPRできることになる。また、何が当たるかわからない「700円くじ」と違って、消費者としても「もらって嬉しい」ものが手に入る。それが「1個買うと1個無料」ということである。

◆アプリに「ストゼロ1個無料」

 「1個買うと1個無料」キャンペーンは「ワントゥワンマーケティング」に近い取り組みだと私は見ている。ワントゥワンマーケトは、Wikipediaの定義によると〈企業がマーケティング活動を行っていく際に、顧客一人ひとりの趣向や属性などを基とした上で、顧客に対して個別にマーケティングを行っていくという方法>となる。ジョージア好きの個人にジョージアの別製品をお勧めする方法は、お茶派もいればジュース派もいるコンビニ利用者全員に「いかがですか」とアピールするより効果的だろう。

 こうした方法は、コンビニの他のキャンペーンからも見て取れる。「1個買うと1個無料」同様、最近よく見るのが「○個買うと1個無料」のキャンペーンだ。たとえばファミリーマートでは現在「お〜いお茶」シリーズをファミペイで買うとスタンプが1個付き、5個で「お〜いお茶」無料引換券がもらえるキャンペーンを行なっている。販売元の伊藤園にとっては、他社のお茶製品ではなく、自社の商品内で消費者を「囲い込む」ことができるのは、ジョージアの例と同じ。さらにこのキャンペーンのポイントは「ファミペイ」を使う点だ。自社サービスのアプリを介することによって、伊藤園と同時に、ファミマにとってもマーケティング施策になっている。このキャンペーンに参加中のユーザーは「お〜いお茶を買うなら、セブンやローソンではなく、ファミマに行こう」となる。そして店舗に来てもらえれば、他にも何かしらの商品を手に取ってもらえるかもしれない。それが必ずしも伊藤園の製品と限らないが、ファミマにとっては、広義の「ブランドスイッチ」が成功する可能性があるわけだ。

 私の知人はセブンの積極的なユーザーで、買い物のたびにセブンイレブンアプリを提示しているという。酒飲みでもあるそんな彼のアプリ上には、サントリーの「-196ストロングゼロ」が1本無料になるクーポンが表示されている。曰く「普段は『ストロングゼロ』は飲まない。タカラの『焼酎ハイボール』派」だそうだが、セブンは彼の嗜好を把握し、そこに刺さるマーケティングを行なっているわけである。彼はセブンにとっての「ロイヤルカスタマー(ある企業や商品やサービスに対しての忠誠心の高い顧客のことを言う/wikipediaより)といえよう。

◆鬼滅キャンペーンは「古い」

 現在、ローソンでは対象商品の購入ごとにスタンプが溜まり「鬼滅の刃」グッズが当たるキャンペーンを行なっている。鬼滅と関係のない「からあげクン」が当たる要素もあるにはあるが、基本は「鬼滅」目的の応募を前提にしたキャンペーンである。「鬼滅」のような、明らかな社会現象の作品ならば多数の参加が見込めるが、では、特定の層しか知らないアニメ作品であれば、どうだろう。あまり効果的なキャンペーンであるとはいえないはずだ。誤解を恐れずにいえば、鬼滅のこのキャンペーンのスタイルは「古い」。圧倒的な作品の力が、キャンペーンを成立させている。

 Web広告やマーケティングを研究する「公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 広告研究会」が「消費者一人一人が多様な趣味嗜好を持つ時代= 『一人多色時代』に企業はしっかり向き合おう」と唱えたのは2018年のこと。ネットの発達によって個人の嗜好は多様化し、かつてのような「みんなが共通して大好きなもの」は少なくなった。特定のアイドルグループをキャラクターにした大々的なキャンペーン展開も、ひと頃よりは減っていることい気づくはずだ。コンビニで「ワントゥワンマーケティング」の兆しが見えるということは、今後は日本の消費社会が、より「ワントゥワン」になっていくということなのだろう。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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