Yahoo!ニュース

ブラントを熟知する米国マネジャーが明かす村田諒太の必勝対策。それでも攻略は難しい?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
2度目の防衛戦で村田返り討ちをねらう王者ブラント(写真:Top Rank)

 WBA世界ミドル級“レギュラー”王座タイトルマッチ12回戦、王者ロブ・ブラント(米)vs挑戦者・前王者村田諒太(帝拳)まで1週間を切った。日本からのニュースではリベンジを期す村田の好調さが伝わってくる。それが試合で結実するか非常に楽しみだ。ブラントもすでに来日して最終調整に余念がない。こちらも万全のコンディションでリングに登場することだろう。

村田支持者は皆無

 私は1ヵ月あまり前、ボクシング・ビート誌の取材でWBO世界スーパーライト級王者モーリス・フッカー(米)をインタビューした。フッカーのトレーナーで旧知のビンセント・パーラ氏が仲立ちしてくれた。またフッカーのマネジャー、アーニー・バービーク氏とも知り合った。テキサスが地元のバービーク氏はダラスでボクシング&フィットネスジムを経営する。その時2人にブラントvs村田2の予想を聞いてみた。

 2人とも「今度もブラントが勝つだろう」と予測した。それと前後してこちらの関係者にたずねてみたが、回答は同じ。「村田が勝つ」と予想する人はいなかった。コアなファンの中には「ウエートは違うけどナバレッテvsドグボー再戦の再現になるのではないか」という意見もあった。不利の予想を覆してスター候補のアイザック・ドグボー(ガーナ)に打ち勝ってWBO世界スーパーバンタム級王者に就いたエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)がダイレクトリマッチでも蹂躙するようなアタックで最終回TKO勝ちを飾った試合だ。

トップクラスと切磋琢磨したブラント

 今回、再度パーラ、バービーク両氏に連絡を取り、来週に迫った決戦について質問してみた。

 するとパーラ・トレーナーはあっさりと「ロバート(ロブ)ブラントがリマッチでも初戦と同じように戦えば同じ結果が待っている。ブラントのユナニマス・デシジョン勝ち」と返答。内外の関係者、専門家が指摘するように村田にはプラスアルファ、変化が求められる。私には「言うは易く行うは難し」と映る。村田はジムで入念な、密度の濃いトレーニングを敢行しているが、ブラントの充実ぶりから前回を下回る出来に終わることは想像しにくく、パーラ氏の意見はかなり本質をついているように思われる。

右からバービーク氏、パーラ・トレーナー、王者モーリス・フッカー(写真:筆者)
右からバービーク氏、パーラ・トレーナー、王者モーリス・フッカー(写真:筆者)

 一方バービーク・マネジャーはていねいに答えてくれた。以下はその一問一答。

――ブラントとは以前から知り合いだと?

「そう。ロバートは仲のいい友達というだけでなく、私のジム「メープル・アベニュー・ボクシング&フィットネス」で練習するボクサーの一人だった。それも何年もね。そのダラスのジムで彼はモーリス・フッカー、エロール・スペンス(IBF世界ウェルター級王者)を含めた今、一線級で活躍する選手たちとスパーリングを重ねていた」

――当時のブラントの印象は?

「彼らとのスパーリングを見て私はロブが能力の高い選手だと直感した。ただ前言を翻すようだけど、今度の試合はロブにとってタフなものになると予測している」

――その理由は?

「試合が日本で行われるからだよ。全く異なった環境。トラベル(旅)がトラブルに直結するかもしれない。ホームの観衆の後押し。それらが少しずつ重なり、彼を悩ますこともありえる」

――では村田がリベンジを果たす可能性が広がると?

「いや、それは早合点だ。ロブは素晴らしいコンディションでリングに上がるだろうし、いつもと全く変わらず準備は周到だと私は自信を持って断言する」

カギは正しい距離のキープ

――ブラントはどんな作戦で臨むでしょう?

「彼のゲームプランは村田を仕事量で上回ること。彼らの第1戦は、ロブが勝ったけど、かなりクロスしていた。再戦の焦点は村田が初戦で得た経験を生かしてどれだけアジャストできるかにかかっている」

――なるほど。

「ロブは前回同様、仕掛けて行くに違いない。彼は周知のようにワーク・レート(手数)がものすごい。それに唯一対抗できるのは正しい距離をキープすることだ。そして彼に先手を打たせず、頻繁にパンチを当てること」

 バービーク氏が出したヒントは「正しい距離を保つこと」だった。それは一定の決まった距離なのか?それともブラントに対して長短あるいは中間距離を臨機応変にアジャストして戦えということなのか?村田のスタイルから推測すると、できるだけインファイトに持ち込めということかもしれない。だが初戦の攻防からして至難の業であることは明らかだ。

 話は少し逸れるが、ボクシング・ビート7月号で浜田剛史氏(元WBC世界J・ウェルター級王者)がブラントのスタイルを分析している。その中では同氏は「……ブラントは相手が出てくると下がりながらも打つというところがある。ワン・ステップ下がってカウンターを打つのではなく、ロイヤル小林と対戦したエウゼビオ・ペドロサのように、下がりながらの連打ができる選手です」と記している。

 この浜田氏の指摘を読んで筆者はボクシングを観戦し始めて間もない頃、あるテレビ解説者が話したことを思い出した。「バックステップを踏みながらジャブを繰り出すというのは相当高度な技術です」。その時、画面で戦っていた選手はアマチュアのトップクラスからプロに転向し日本チャンピオンに就いたボクサーだった。

 ジャブを出すだけでも超ハイスキルなのにブラントは何とコンビネーションも打てるのだ。何十年もボクシングを見てきて久々に味わった衝撃だった。しかも浜田氏によるとブラントは“後ろ”だけでなく前後左右、自由自在に動いてパンチを繰り出せる。改めて村田が立ち向かうタスクの困難さを痛感する。

ブラントのワーク・レートは脅威だ。初戦の公開練習から(写真:Las Vegas Review-Jounal)
ブラントのワーク・レートは脅威だ。初戦の公開練習から(写真:Las Vegas Review-Jounal)

馬車馬ブラント

 話をバービーク氏とのやり取りに戻そう。

――果たしてブラントが嫌がる距離はあるんですか?

「それに答えるのは難しい。押しても引いても動きが止まらず手が出るんだからね」

――ぶっちゃけ、村田はどうしなければならない?

「村田はスタートからハイテンポな展開で負けないことが要求される。同時に的確なパンチを当てること。抽象的になってしまうけど、クリーンパンチが当たる距離が正しい距離に相当する。もし序盤で優位に立てれば、その距離を有効に使ってスパートできる。スピード、パワーは彼の方が勝っているから」

――いい線まで行ける期待が高まって来ました。

「でもイージーではないよ。何しろロブ・ブラントは馬車馬のように疲れを知らず働き続ける男だから」

――やはりブラントが有利?

「うーん、もしそうだとしても前回より競ったものになると思う。願わくば両者とも重大なダメージを被らずにグレートな試合を見せてほしいね」

 難敵という言葉がフィットするブラント。村田に連勝して商品価値を高め、実力もステイタスも上のカネロ・アルバレス、ゲンナジー・ゴロフキンとのビッグマッチを夢見る。それだけ村田が勝てば、リターンが大きいという証でもある。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事