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B1制覇を目指す琉球にとって、ダーラムの存在は勝負どころで違いをもたらせる点で貴重

青木崇Basketball Writer
強靭な身体を生かしたパワフルなプレーが持ち味のダーラム (C)B.LEAGUE

「勝つために必要なことは何でもやるし、それがその瞬間に必要なことであれば、チームにとってのベストな解決策になろうと思っている」

 こう語るのは、琉球ゴールデンキングスで2年目のシーズンを迎えているアレン・ダーラム。悲願のB1制覇を目指すチームにとって、彼は大きな違いをもたらす存在になるという予感がしている。その理由は、肝心な局面になればなるほどダーラムが琉球のオフェンスを牽引しているシーンが多く、4Qの10分間で平均5.6点を奪っているからだ。

 この5.6点という数字は、今季の出場試合数が45試合以上の選手を対象とした場合、全体で5番目にランクされる。しかし、1〜3Qの平均得点よりも2点以上増えているというのは、ダーラムしかいない。3月18日の信州ブレイブウォリアーズ戦では、4Qだけで14点を奪い、勝利の原動力になっている。

★4Qにおける平均得点トップ5(全56試合中45試合以上出場)

ダバンテ・ガードナー(シーホース三河)6.9点

ディージェイ・ニュービル(大阪エヴェッサ)6.6点

トレイ・ジョーンズ(群馬クレインサンダーズ)6.1点

ペリン・ビュフォード(島根スサノオマジック)5.7点

アレン・ダーラム(琉球ゴールデンキングス)5.6点

「ファウルがもらえるのがデカいですよね。あそででファウルをもらえる、ボールプッシュをしながらペイントにアタックできるというのは、間違いなくチームのプラスになっています」と桶谷大コーチが語るように、クラッチタイムにおけるダーラムの存在は、琉球にとって大きな武器、相手からすれば非常に厄介な存在なのだ。

 身長198cmのダーラムは、フロントラインでプレーする選手としてサイズが小さい。しかし、鍛え上げられた強靭な体格と身体能力の高さを生かし、オールラウンドなプレーで活躍できるのが強み。高校時代まではアメリカンフットボールもやっており、フィジカルの強さとスピードが活かせるタイトエンドとディフェンシブエンドの両ポジションでプレーしていたという。ダーラムに強さがどこから来たのか? と質問してみると、次のような答えが返ってきた。

「ミスマッチを最大限に活かすことだ。もし、自分のほうが速ければ、そのスピードを活かすし、自分のほうが少しフィジカルが強ければ、ローポストでパワーを使う。精神的にも頼れる選手になろうと心掛けている。これらは長年の経験から来たもの。僕は最速の選手でもなければ、背の高い選手でもない。だから、自分のプレーを伝え、チームを助けるために少しずつ方法を学んできたんだ」

 レギュラーシーズンが残り4試合の時点で、琉球は同率ながらもタイブレークで島根スサノオマジックを上回っての西地区首位。このポジションを最後まで維持できれば、チャンピオンシップ(CS)のセミファイナルまでホームの沖縄アリーナで戦える。しかし、琉球が再びファイナルの舞台に戻ってくるためには、まだまだ長くて厳しい道のりが待ち構えている。

 CSに向けてダーラムは、「個人としては、常に改善する方法を見つけるようとしている。チームとしては、フロアに出るごとにより良くなるよう、一体となってプレーすることを心がけている」と語る。昨季の頂点に立てなかった原因を見極め、修正し、チームが成長していることへの手応えを感じていることは、次の言葉でも明らかだ。

「昨季は個々の才能が優れていたので、それをもう少し生かすことができたと思う。でも、今シーズンはチームとして、5人全員を使ってより良いプレーができていると思うし、ベンチも良い時間を与えてくれている」

パワフルなドライブでアタックするダーラム(C)B.LEAGUE
パワフルなドライブでアタックするダーラム(C)B.LEAGUE

 アメリカのミシガン州ワイオミング出身のダーラムは、グレース・バイブル・カレッジ(現グレース・クリスチャン大)というナショナル・クリスチャン・カレッジ・アスレティック・アソシエーションのディビジョン2に所属する大学出身。グランド・ラピッズ・プレス紙の記事によれば、家計の制約から一度退学し、グランド・ラピッズ・コミュニティ・カレッジに転校した後はバスケットボールから離れていた時期もあったが、グレース・バイブル・カレッジに戻ると、チームの大黒柱として活躍。通算2467点、1314リバウンドは、現在でもチーム史上1位の記録である。

 また、ワイオミング高校時代には学業成績が少し悪かったことで、出場資格がありながらも母のモニカさんがバスケットボールをさせなかったという。「成績が上がるまでプレーできないと言われたことによって、学校に対する見方が大きく変わった」と、ダーラムは記事の中で語っている。母の思いをしっかりと理解したダーラムは、大学で素晴らしい成績を残した後、ルーマニア、フィンランド、フィリピン、Gリーグのテキサス・レジェンズなどでプレー。2018−19シーズンに滋賀レイクスターズ(現レイクス)と契約して来日し、新潟アルビレックスBBで1年過ごした後の昨季から琉球の中心選手として活躍している。

 群馬クレインサンダーズのジャスティン・キーナンがグランド・ラピッズ出身ということもあって非常に仲が良く、今もお互いの家が近所という間柄。キーナンもNCAAディビジョン2のフェリス・ステイト大出身で、無名校からでもプロとして活躍しているということで、お互いが刺激を与え合っている。

「家族と離れている中で長いシーズンを過ごさなければならないし、夏には一緒に遊んだり、トレーニングしたりすることで、お互いがどんな状況なのかを知ることができる。だから、相手がどんな思いをしているのかもわかるし、特定な事柄についても話せる関係にあると思う」

 CSのクォーターファイナルまであと2週間を切ったが、ダーラムのアプローチは変わらない。琉球が掲げるチーム・スローガンのように、『団結』を重要視しているのは次の言葉が象徴している。

「団結してプレーすること、勝利の後には高揚しすぎず、敗北の後でも落ち込みすぎないことが大事だ。残るシーズンも試合を通して落ち着いて行動すること。ロッカールームでチームメイトやコーチと一緒にいるときもそうだ。とにかく落ち着いて、平常心でいることを心がけている」

 CSになれば、経験豊富な選手が多い琉球であっても、逆境に立ち向かわなければならない状況に直面するはずだ。そんな時にダーラムが真価を発揮してチームを牽引できれば、琉球の悲願であるチャンピオンシップ獲得は現実味を帯びてくるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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