Yahoo!ニュース

ビルボードジャパンが2024年度年間チャートを発表。チャート状況から今年の音楽シーンの動向を振り返る

柴那典音楽ジャーナリスト
総合ソングチャート年間1位のCreepy Nuts(提供:ビルボードジャパン)

ビルボードジャパンが2024年度年間チャートを発表した。果たして今年はどんな音楽シーンとなったのか。何がヒットし、どんな潮流が生まれたのか。チャートの状況から読み解きたい。

■Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」がチャートを席巻

総合ソングチャート「JAPAN Hot 100」で年間1位となったのはCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」。2024年1月から3月に放送されたテレビアニメアニメ『マッシュル-MASHLE-神覚者 候補選抜試験編』のオープニングテーマで、中毒性の高いサビに合わせた「BBBBダンス」がTikTokを中心に流行。子供たちの間にも浸透する世代を超えたブームとなり、今年を代表するヒットソングとなった。

楽曲の人気は海外にも広がった。世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化したビルボードの「グローバル・ジャパン・ソングス」チャートでも年間1位を獲得し、米ビルボードが発表した全世界チャート「Global 200」でも週間最高8位にランクイン。23年のYOASOBI「アイドル」に続くグローバルなヒット曲となった。

Creepy Nutsの活躍は「Bling-Bang-Bang-Born」だけにとどまらない。2024年の新語・流行語大賞を獲得したドラマ『不適切にもほどがある!』の主題歌「二度寝」もスマッシュヒットし、現在はテレビアニメ「ダンダダン」オープニングテーマの「オトノケ」がチャートを席巻中。紅白歌合戦への初出場も決定し、25年2月11日には初の東京ドーム公演が開催される。日本を代表するヒップホップユニットとして不動の地位を築きつつある。

2位はtuki.の「晩餐歌」。現在高校1年生のシンガーソングライターだ。13歳の頃にギターを始め、TikTokに投稿した弾き語りのカバーをきっかけにSNS上で人気を拡大。初のオリジナルソングとして23年9月に配信した同曲がロングヒットし史上最年少でストリーミング累計再生回数が4億回を突破した。メディアに顔を出さない謎めいた存在ながら高い歌唱力で人気を集める。

3位はピアノトリオバンドOmoinotakeの「幾億光年」。ドラマ『Eye Love You』主題歌として書き下ろされたラブソングだ。伸びやかなボーカルとキャッチーなメロディセンスが持ち味の彼らはこの曲でブレイクを果たした。

■アーティストチャート1位のMrs. GREEN APPLEが“今年の顔”に

ソングチャートのTOP10は以下のような並びとなっている。

1位 Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」
2位 tuki.「晩餐歌」
3位 Omoinotake「幾億光年」
4位 YOASOBI「アイドル」
5位 Mrs. GREEN APPLE「ライラック」
6位 Mrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」
7位 Ado「唱」
8位 Vaundy「怪獣の花唄」
9位 Mrs. GREEN APPLE「青と夏」
10位 Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」

特筆すべきはMrs. GREEN APPLEの支持の広がりだろう。彼らはソングチャートのTOP10に「ライラック」(5位)、「ケセラセラ」(6位)、「青と夏」(9位)、「ダンスホール」(10位)と計4曲をランクインさせている。TOP100圏内には計17曲がランクインし、ひとつの曲の話題性ではなく新旧さまざまな楽曲がヒットしていることがわかる。

総合ソングチャートと総合アルバムチャートのポイントを合算したアーティストチャート「Artist 100」では、Mrs. GREEN APPLEが年間首位を獲得。大きな飛躍を遂げた昨年に続き、国民的バンドとしての座を揺るぎないものにした形だ。華やかで多彩な音楽性で評価を集め、世代を超えた人気を獲得しつつある彼らは、Creepy Nutsと共に“今年の顔”だったと言って過言ではないだろう。

■音楽シーンは百花繚乱の状況に

ヒットチャートの趨勢から見えることはいくつかある。

ひとつは「アニメ×バイラル×グローバル」が、今の時代の“ヒットの方程式”として定着しつつあるということ。23年のYOASOBI「アイドル」もそうだが、「Bling-Bang-Bang-Born」もアニメ主題歌とTikTokのダンスチャレンジの相乗効果によって国境を超えるグローバルなヒットとなった。

ただ、2022年や2023年に比べると「アニメ主題歌だからヒットする」とは一概に言えなくなっている状況である点は留意したい。今年も『【推しの子】』や『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』や『僕のヒーローアカデミア』など数々の人気アニメが放送されたが、その主題歌はTOP20には入っていない。

ヒットチャートからは音楽シーンのさらなる世代交代と多様化が進みつつあることがうかがえる。Mrs. GREEN APPLE を筆頭にYOASOBIやAdoやVaundyなどここ数年にデビューしたアーティストが盤石な人気を保つ一方、tuki.やOmoinotakeといった新鋭が人気を獲得している。

総合ソングチャートから2024年リリースの楽曲を抽出すると、上位10曲は以下のような並びとなる。

1位 Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」
3位 Omoinotake「幾億光年」
4位 Mrs. GREEN APPLE「ライラック」
12位 Vaundy「タイムパラドックス」
14位 ILLIT 「Magnetic」
15位 Number_i 「GOAT」
20位 米津玄師「さよーならまたいつか!」
21位 ヨルシカ「晴る」
23位 Da-iCE「I wonder」
28位 SPYAIR「オレンジ」

特筆すべきはILLITの「Magnetic」(15位)やNumber_i「GOAT」(16位)など、今年デビューのダンス&ボーカルグループが上位につけていることだろう。

また「Heatseekers Songs」チャートで年間1位となったこっちのけんと「はいよろこんで」(総合30位)、同2位の友成空「鬼ノ宴」(総合40位)と、TikTokなどの動画プラットフォームをきっかけに注目を集めたアーティストが躍進を果たす例も続いている。

音楽シーンに百花繚乱の状況が訪れていると言えるだろう。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

柴那典の最近の記事