W杯最終予選メンバー”日韓比較” 日本「欧州組全盛」 韓国は「2部の軍隊チームから最多輩出」
今週木曜日、9月2日から始まるカタールW杯アジア最終予選。26日に日本代表が発表となった。これがどういうものなのか、という考察をちょっとした別角度から。
韓国との比較。
幾度かこの場でも書いてきたが、韓国は日本サッカー界にとって重要な「類似比較対象」でもある。欧州・南米とは違う、「似ている方」の比較対象。
代表チームのマネジメントや文化にも似た点がある。主軸選手たちを欧州の地からアジアに呼び戻すという国は日本と韓国しかない。W杯本戦での成績も似通っている。欧州強豪国と比べ「五輪代表も盛り上がる」という点も近い。しかも今回は親善試合ではなく、W杯最終予選という「本番」だ。ちょっと詳しく調べてみよう。
参考までに、日本は26日に24名のメンバーを発表し、韓国は23日に26名を発表した。日本は2日にオマーン戦(@吹田)、7日に中国戦(@カタール)を戦う。韓国は2日、7日ともにホームでの連戦となり、イラク(@ソウル)、レバノン(@スーウォン)の順で迎える。
「五輪組」の昇格状況は?
今回は「東京オリンピック代表からの昇格組はどうなる」という注目ポイントがあった。日本が6人で、韓国は2人だった。
日本は現在、森保一監督がA代表と五輪代表との「兼任監督時代」を過ごしてきており、韓国はパウロ・ベント監督とキム・ハクボム監督がそれぞれチームを率いてきた。
兼任監督というのは「風通し」が期待されている点でもあるから、この点では”効果”は見られたか。
ただし両国ともに「昇格組」はほとんどがすでにA代表歴を有する選手たち。日本のGKの谷晃生の選出は両国で見ても唯一の「初昇格」となった。今回の日本のメンバーの唯一のサプライズは韓国との比較でも価値のあるものだといえる。
また韓国では東京五輪のメンバーから外れたFWチョ・キュソン(金泉尚武)の初選出に注目が集まった。パウロ・ベント監督曰く「元々技術がある選手であり、評価していた」。こちらは別々の監督がチームを見てきた効果でもあるか。
いっぽうで選手の所属リーグの分布ではまたしても大きな違いが出た。
「軍隊チームの選手」を韓国ではどう見ている?
近年、日本のみが欧州組激増中という状況だが、今回も同様となった。
国内・海外組で分けた構成比率は以下の通りだ。
■日本 全24名のうち
国内6 25%
欧州17 71%
無所属1 4%
■韓国 全26名のうち
国内14 54%
欧州6 23%
アジア5 19%
米国1 4%
日本は「7割が欧州」、韓国は「過半数が国内」という構成。2019年のアジアカップや2021年の東京五輪に続く傾向だ(このあたりの背景はこちらに記した)
いっぽう、韓国には今回、珍しい現象が起きた。
「2部にいる軍隊チームから最多の4名が輩出される」
Kリーグ2(2部)の金泉尚武(キムチョン・サンム)から下記の4人が選出されたのだ。
GK ク・ユンソン(元コンサドーレ札幌)
DF パク・ジス
DF チョン・スンヒョン(元サガン鳥栖、鹿島アントラーズ)
FW チョ・キュソン
「資本力のあるチームに、力のある選手が集まる」というもはや当たり前の世界的傾向に沿うものではない。なにせ天下のHYUNDAI系である蔚山現代から(3人)よりも多くの選手が選ばれたのだ。
大丈夫か、Kリーグ?
そういう観点でも見られそうだが、韓国側の反応は違う。スポーツ専門サイト『スポータル・コリア』のサッカー担当キム・ソンジン記者がいう。
「金泉は2部にいるものの、1部のチームに負けない力があります。徴兵制度という韓国の特殊性により、いい選手が2部に集まっているということです」
この4選手は、登録上はKリーグチームからのレンタルというかたちを取りつつ、「社団法人金泉市民プロ蹴球団」でプレーする。クラブはプロ格だが、選手は国軍体育部隊の軍人。給与は出ない。またチームはアジアチャンピオンズリーグへの出場権がない。
いっぽうこのチームは実質上「昨季のKリーグ1部4位チーム」だ。元々強い。Kリーグ2では8月23日には昨季Kリーグ1(1部)にいたプサンをアウェーで6-0と大破。28日現在Kリーグ2首位に立っている。
なぜ今季は2部なのかというと、ホームタウンの変更によるものだ。昨年まで「尚州尚武(サンジュ・サンム)」として活動してきたものの、慶尚北道の尚州市とのホームタウン契約が終了。今季から新たに隣接する金泉市と契約を締結したため、Kリーグの規約上2部からの再スタートとなっている。
その金泉から選ばれた選手たちに対する現地メディアの評価もポジティブなものだ。
「当然選ばれるべき選手たちが選ばれたということで、韓国内でも特別な反応はありません。チョ・キュソンは世代交代あるいは新しい選手の発掘の一環と見るし、ク・ユンソンはそれまでもずっと第3GKとして選ばれてきた。パク・ジスも同様に選出歴があり、チョン・スンヒョンはこれまでもセンターバックの一員として話が挙がっていたので」(スポーツ専門サイト『スポータル・コリア』サッカー担当キム・ソンジン記者)
元々、軍隊チームの尚武は「全選手が兵役時期を延長せず高卒の時点で入隊したのなら、毎年優勝」と言われるチームでもある。ただし毎年秋の時期に選手が除隊のために抜けるのが悩みだ。09年には2日前まで尚武にいた選手が除隊により元所属クラブに復帰。直後に対戦があり、ゴールを決められて敗れるという出来事もあった。
近年は「超精鋭軍団」の傾向がより強くなっている。
兵役中の選手ももう一つの受け入れ先であった「警察庁」が選手不足などにより2018年を最後にチームを解散。この結果、徴兵期間に国軍体育部隊である「尚武」に所属できる選手は「超精鋭」という状態となっている。2020年秋の入隊(入団)選手は”わずか”14人だった。
欧州組への考えの違い
韓国代表の選手の構成としては、国内組が土台となり、そこにトップクラスの欧州組が加わっている。日本の「欧州組激増」との比較よりも、その状況にデンと構えているというところだ。
韓国では26日の「日本代表の発表」については大きなニュースとはならず。日本の欧州組関連報道も「イ・ガンインとマジョルカでチームメイトとなるかもしれない久保建英も選出された」という点を1媒体が報じた程度だった。
「欧州に選手を多く送り出そう」という考えについては、日本と韓国では多少の違いが出てきているか。韓国では「コンディションのよい国内組の方が、悪い欧州組よりベター」という考えもある。
また今回発表された韓国代表には、「古株の国内組」が二人いる。左右サイドバックのホン・チョル(ウルサン)と、イ・ヨン(チョンブク)。両者はそれぞれ、2011年、2013年に代表チームデビュー。国内組一筋でプレーする存在だ。韓国では「サイドバックの人材不足のため」と嘆きの声のほうが大きいが、これも日本にはない傾向だ。思えば日本代表には、遠藤保仁以来そういった存在が思い浮かばない。
余談になるが、韓国は2014年W杯後にオランダのファンマルバイク(2010年南アW杯準優勝監督)にオファーし、本人側が「欧州在住のままやる」という条件を提示したため、破談になったことがある。このやりかた、むしろ日本もアイデアとして考慮くらいには入れてもいいのではと思える状況になっている。よっぽどいい人材と契約できるのであれば。まあ日本ではそういうチャレンジはあまり好まれないか。
すべては「結果」が判定する
いずれにせよ、日本と韓国のうちどちらが「正解」かは、ここからの結果によって決まるものだ。
W杯本大会の結果までもしっかり見届けなくてはならない点が”ミソ”。両国には「本大会までの準備過程で酷いことがあったほうが、本大会の結果がいい」という法則性がある。
先のロシアW杯だってそうだった。2017年、日本が少し余裕をもってアジア最終予選を突破。韓国は予選期間中に毎度恒例の監督交代があり、9月のアウェーウズベキスタン戦をスコアレスドローで切り抜け、得失点差での突破を決めた。「お~あちらも大変だな」と見ていたら、2018年に入り、日本が大会2ヶ月前にハリルホジッチ監督を電撃解任。こちらのほうがよっぽど厳しくなったが、結局決勝トーナメントに進んだのは日本のほうだった(02年大会からこういった流れがあるが話が長いので割愛する)。
これはジンクスではなく、法則性だ。大会直前(あるいは大会途中)にまでチームに成長・刺激・変化(時にケンカ)といった要素が必要。大会までの安定よりも、こちらの方が結果がいい。
ただし日韓両国ともにW杯最終予選を「ボロボロでも突破できる」ほどの圧倒的な力はない。「ピークをW杯本大会中に」というかたちに持っていければよいが、そうもいかない。そこが現在地だ。
そこに「欧州組・国内組」の比率はどう作用するか。9月からのアジア最終予選を楽しむ視点のひとつとして、ぜひ。
(了)
カタールW杯 アジア最終予選 韓国代表メンバー(8月23日発表)
GK
1ク・ソンユン(金泉尚武FC)
2キム・スンギュ(柏レイソル/日本)
3チョ・ヒョヌ(蔚山現代FC)
DF
4カン・サンウ(浦項スティーラース)
5クォン・ギョンウォン(城南FC)
6キム・ムンファン(ロサンゼルスFC/アメリカ)
7キム・ミンジェ(フェネルバフチェ/トルコ)
8キム・ヨングォン(ガンバ大阪/日本)
9パク・ジス(金泉尚武FC)
10イ・キジェ(水原三星ブルーウィングス)
11イ・ヨン(全北現代モータース)
12チョン・スンヒョン(金泉尚武FC)
13ホン・チョル(蔚山現代FC)
MF
14クォン・チャンフン(水原三星ブルーウィングス)
15ナ・サンホ(FCソウル)
16ナム・テヒ(アル・ドゥハイル/カタール)
17ソン・ジュンホ(山東泰山足球倶楽部/中国)
18ソン・フンミン(トッテナム/イングランド)
19ソン・ミンギュ(全北現代モータース)
20イ・ドンギョン(蔚山現代FC)
21イ・ジェソン(マインツ/ドイツ)
22チョン・ウヨン(アル・サッド/カタール)
23ファン・インボム(ルビン・カザン/ロシア)
24ファン・ヒチャン(RBライプツィヒ/ドイツ)
FW
25チョ・ギュソン(金泉尚武FC)
26ファン・ウィジョ(ボルドー/フランス)