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デジタル化の進む進研ゼミが「VR」採用。小学生向けゴーグルを独自開発

山口健太ITジャーナリスト
ベネッセが独自開発したVRゴーグル(ベネッセ提供画像)

10月4日、ベネッセが進研ゼミの教材として独自開発した「VRゴーグル」を発表しました。タブレットの活用など教育のデジタル化を進めるベネッセですが、新たな一手として注目されそうです。

コロナ禍でのやる気低下は「社会課題になる」

通信教育で知られる進研ゼミはデジタル化が進んでおり、添削指導を受けられる「赤ペン先生」は2020年からタブレットにも対応しています。

筆者も30年以上前ではありますがお世話になった記憶があり、つい最近までは紙ベースだったようです。紙では郵送で2週間ほどかかっていたのに対し、タブレットなら数日で添削結果が戻ってくるとのこと。

さらに、タブレットを用いたほかの学習内容を加味してアドバイスするといった包括的な指導ができるようになり、提出率と生産性向上にもつながったといいます。

一方、直近の課題としてベネッセは「子どもの学習意欲の低下」を挙げ、コロナ禍の3年間で勉強のやる気が湧かない生徒が増えているとの研究結果を示しました。

コロナ禍で子どもの学習意欲は低下しているという(ベネッセ提供資料より)
コロナ禍で子どもの学習意欲は低下しているという(ベネッセ提供資料より)

この研究では、「分かるようになった」子どもは学習意欲がしっかり高まっていることが明らかになっています。このことから、「分かる、楽しいといった機会をもっと提供する必要がある。このままでは社会課題になりかねない」(ベネッセホールディングス 専務執行役員CDXOの橋本英知氏)と指摘します。

そこでベネッセが発表したのが「VRゴーグル」です。アプリを入れたスマホを差し込み、ゴーグル内側のレンズを通してスマホの画面を見ることで、臨場感のあるVR体験ができる仕組みです。

スマホを装着する方式。頭部に固定するバンドはない(ベネッセ提供画像)
スマホを装着する方式。頭部に固定するバンドはない(ベネッセ提供画像)

VRゴーグルの中には単体で動作する数万円クラスの製品もありますが、こちらはスマホ用VRゴーグルと呼ばれるもので、それよりもずっと安価に実現できたとみられます。

その狙いについて、「すでに家庭に普及しているiOSやAndroidのスマホを活用できる」(ベネッセコーポレーション 校外学習カンパニー副カンパニー長の成島由美氏)と語っています。画面サイズが4〜6.5型のモデルに広く対応するようです。

メガネをかけていても使える構造で、頭部に固定するためのベルトはありません。子どもが手に持って覗きながら使うことを想定し、軽量設計にしたといいます。

VRコンテンツの例としては「月の満ち欠けを宇宙空間から体験する」「月でボールを投げたらどうなるか」「関ヶ原の戦い」などを挙げ、定期的に提供していく方針です。

ゴーグルやアプリの費用は小学6年生向けの「進研ゼミ 中学準備講座」に含まれるとのこと。受講費は税込で月額5830円(12か月分一括払い時)から。実際に利用するかどうかは、保護者の同意に基づいて子どもの意欲に任せるとしています。

子ども用VRゴーグル 安全性は?

子どもがVRゴーグルを使用する場合に注意したいのが、健康への影響です。子どもの眼には悪影響がある恐れがあることから、年齢制限を設けることが一般的です。

たとえばMeta Quest 2では「13歳未満は使用できない」となっており、「視覚発達の重要な時期にある子どもにとって不快感や健康への悪影響が生じる可能性があります」との注意書きがあります。

これに対してベネッセは、対象年齢として「11歳以上」を想定。「小児眼科の先生など専門家の指導を受けながら独自に開発した」(成島氏)としています。

具体的には、VRコンテンツの長さは10分程度で、1日の使用時間も10分程度を想定しており、酔いやすくなるような演出は避けたといいます。

それでも、コンテンツを繰り返し見るなど長時間の使用はできないとのこと。説明書などに記載するとしていますが、実際に使うときには気を付けておきたいところです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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