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本格派アタッカー不足の日本代表。その理由と対処法

杉山茂樹スポーツライター

ブラジルW杯に出場した32ヵ国の中で、日本人選手の平均身長は30番目。前編(『貧弱なセンターバックこそ日本代表の根本的問題である』)では、低身長国のハンディとしてセンターバックにまつわる問題について触れたが、今回はその延長上としてフォワードに目を向けてみたい。

そもそも日本には、運動能力に優れた大型のアスリートが絶対的に不足している。バレーボール、バスケットボール、ハンドボール等、上背が必要な競技以外で目につくのはプロ野球だ。

ダルビッシュ有、田中将大、黒田博樹、岩隈久志、大谷翔平……。投手のみならず、野手にも、サッカーをやっていれば大物になったのではないかと、無い物ねだりをしたくなる大型選手が数多く存在する。

アスリート能力の高い大型選手は、日本スポーツ界にとって一握りの、限られた人材だ。まさに金の卵。それがサッカー界にあまり流れてこない。

プロ野球選手とJリーガー。その年俸の差は倍以上に及ぶ。サッカーが金銭的な魅力で野球に大きく劣ることが、彼らを逃している一番の原因だろう。そのうえサッカー界には、憧れの対象となる大型選手がいない。それ以前に、大型選手が憧れの対象になっていない。

野球の花形である投手は、上背があるほど好ましいと言われる。一方、サッカーでは、子供たちの憧れは10番で、こちらには身長はさほど求められていない。上背があった方がいいとされる9番は、ポジション的な魅力で10番に劣っている。センターフォワード(CF)というポジションが魅力的に見えないので、それに相応しい人材が集まらない。そうした側面も確実にあるのだ。

CFの人材難は、中盤大好きの日本人気質とも密接に関係する。日本の社会も後押ししている。「出る杭は打たれる」の「出る杭」になることを日本人は嫌う。シュートを打って外せば、「なぜそこでパスをしないんだ」と責められる。シュートは、ある意味で強引な行為だ。思い切りよく打って外せば、白い目を向けられる。

何事も和を尊ぶ学校スポーツとの相性も悪い。強引なプレイを続ければ、仲間はずれにされ、いじめの対象にさえなる。なぜ日本には良いストライカーが出てこないのかという問題は、サッカー界だけで解決することはできないのだ。

大迫勇也、柿谷曜一朗。ザックジャパンで1トップ、CFを張った両選手も結局、主役になることはできなかった。ポストプレイが得意な大迫。裏に抜ける動きに光るものがある柿谷。両者は「本格派」ではない。周囲との連携が不可欠なタイプだ。

しかし、彼らはその連携プレイにおいてイニシアチブを握っていない。中盤選手とは受け身の関係にある。偉いのは中盤選手。ザックジャパンは、大迫、柿谷の都合より、本田圭佑、香川真司の都合の方が優先するサッカーをした。

つまり物事を、ゴールを奪うという最大の目的からフィードバックして考えることができなかった。

ある時期までザックジャパンの一員だったハーフナー・マイクは、終盤に投入されることが多い選手だったが、他の選手たちは、彼が投入された後も従来通り、独自のパスサッカーを繰り広げた。194センチというその身長を無視するように。

高さに特徴があるハーフナー。彼もまた大迫、柿谷同様、骨太な本格派のストライカーではない。よく言えば、一芸に秀でたストライカーだ。しかし、周囲がその一芸を尊重しなければ、存在意義はなくなる。単なる線の細いストライカーになる。そしてその結果、ハーフナーは最終メンバーから外された。似たような問題を抱える豊田陽平も、同様に選から漏れた。

にもかかわらず、ザッケローニは、ブラジルW杯本大会初戦(対コートジボワール戦)の終盤、ロングボール作戦を敢行した。選手もそれに従った。支離滅裂な状態に陥った。

線の細いストライカーを問題視するのは簡単だ。しかし、日本は本格派のストライカーが誕生する土壌に恵まれていない。無い物ねだり同然の環境に陥っている国なのだ。

2010年南アフリカW杯で、岡田監督が本田を「0トップ」に起用した作戦は、そうした問題の対処法として、理に適ったものだった。10番選手を9番に変身させる作戦と言えば分かりやすいが、ザッケローニはこれを「異端」と言って、ほとんど採用しなかった。しかし、ブラジルW杯本大会の初戦で、本田は終盤、CFの位置に座っていた。ザッケローニは、日本が抱えるフォワードの問題と、最後までキチンと向き合うことができなかった。

本田はある意味で本格派だ。大迫、柿谷、ハーフナー、豊田より、1人で解決する力がある。ドリブル&シュート、かわしてシュート。見る側にシュートの予感を抱かせることができる。最後のキックに持っていく道筋が、何となく見えるのだ。

本田のプレイを見ていると、逆に日本のCFに不足している要素が見えてくる。ドリブル下手、キック下手。フェイントもない。サイドに出ると、うまくプレイができない理由でもある。

実はそれは4−2−3−1の3の両サイドを務める選とりわけ、アクションとして不足しているのがドリブルだ。マーカーが少しでも近くにいると、ボールを持って前に進めない。目の前の敵を抜くことができない。勇気、推進力の乏しさが、ブラジルW杯では特に目に付いた。

ドリブルは急に巧くなるものではない。失敗を繰り返しながら覚える技術だ。上達には時間が掛かる。だが、ドリブルを失敗する姿は、傍目にはずいぶん身勝手な行為に見える。「なぜパスをしないんだ」と、つい叫びたくなるものだ。ドリブルで失敗を繰り返す少年と、和を尊ぶ学校社会との相性はきわめて悪い。日本社会との相性が悪いのだ。

その産物こそがパスサッカーなのだ。ボールを受けて捌(さば)く。このアクションには、巧緻性が求められる。大きな選手より、小さな選手の方が得意な身のこなしだ。

身体能力に恵まれた本格派のストライカーの誕生を待つより、日本は異端のサッカーで迫った方がむしろ理に適っていると僕は思う。0トップは大型のストライカー不足に悩む日本に適した布陣。南ア大会の本田が、いまさらながら貴重に見えるのだ。

(集英社 SportivaWeb 8月28日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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