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各棋戦で快進撃を続ける藤井聡太七段(現二冠)銀河戦では稲葉陽八段を降して本戦5連勝&決勝T進出決定

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月4日。第28期銀河戦▲稲葉陽八段-△藤井聡太七段(当時)戦がおこなわれました。放映日は9月1日。棋譜はこちら囲碁・将棋チャンネルのページでも公開されています。

 結果は134手で藤井七段の勝ちとなりました。

 藤井七段はこれで本戦Cブロック5連勝。出口若武四段の連勝数と並び、順位上位のため、決勝トーナメント進出が決まりました。

 最終局は羽生善治九段と対戦します。

 もし勝てば最終勝ち残りと最多連勝を同時に達成。本戦Cブロックからは藤井七段と出口四段が決勝T進出となります。

 もし負ければ羽生九段と藤井七段が決勝T進出です。

藤井七段、過密日程の中での勝利

 本局が収録されたのは7月4日。藤井七段が棋聖戦五番勝負、王位戦七番勝負を戦っているハードスケジュールのさなかでした。

 本局は9月1日に囲碁・将棋チャンネルで放映される前、7月に「将棋プレミアム」で会員限定の先行配信がされました。そのため、すでに結果を知っていたという熱心なファンの方も多いことでしょう。

 藤井七段の銀河戦参加は今期で3回目となります。

 第26期(2017-18年)は本戦で上村亘四段(現五段)に負け。

 第27期(2018-19年)は本戦を6連勝で勝ち上がったものの、決勝T1回戦で久保利明九段に負け。

 そして今期は本戦で出口若武四段の連勝を5で止め、代わりに自身が4連勝しています。

 稲葉八段、藤井七段はここまで3回対戦しています。

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 最初は2017年NHK杯3回戦。藤井四段(当時)がデビューから無敗で29連勝した年。結果は先輩の稲葉八段が貫禄の勝利を収めています。

 そのあとは藤井七段が朝日杯本戦、王位戦リーグと2連勝を返しています。

 王位戦リーグは大逆転でした。

 振り駒の結果、本局は稲葉八段先手となりました。

 戦型は角換わり。近年は互いに腰掛銀に構える形が多く見られますが、本局では互いに早繰り銀となりました。

 藤井七段はジャケットを脱いで青いピンストライプに白いえりのクレリックシャツ。放映日の現在はもう秋ですが、収録時の暑い夏に、さわやかさを感じさせる服装です。

 仕掛け前の駆け引きのあと、先攻したのは後手の藤井七段でした。対して稲葉八段は飛車先の歩を突き捨て、継ぎ歩で反撃します。

 銀河戦は持ち時間は各15分。切れたら30秒(他に10分の考慮時間あり)という早指しです。

 早指しとはいえ本局、中盤の難しそうなところで、両者は気合よく早く指し進めていきました。特に稲葉八段は早い。事前に十分な準備がなければ、そこまで早くは進まないでしょう。

 藤井七段は角を成り込んで馬を作り、飛車を手にします。対して稲葉八段は銀2枚を得ました。均衡は微妙に保たれています。

 途中から藤井七段は惜しみなく時間を使っていきます。持ち時間が数時間の対局と同様のスタイルともいえます。

 稲葉玉は初期位置の「居玉」のまま。藤井七段は稲葉陣一段目に飛車を打って、稲葉玉に王手をかけ、側面から攻めていきます。

 対して稲葉八段は玉をひらりと逃げ越していきます。このあたり、形勢は稲葉八段がリードをしていたのかもしれません。とはいえ、なんとも難しそうな終盤戦に入りました。

 今度は稲葉八段がまとめて時間を使い始めます。そして藤井玉を左右はさみうちにする形を目指しました。

 盤面を映す映像には、ときおり藤井七段の頭が映ります。これは藤井七段が集中して前掲姿勢になっていることを表しています。そして閉じたままの扇子を手元でくるくると回しながら考えるのも、いつもの藤井七段です。

 対して稲葉八段はいつもの通り、盤から遠い位置に座っています。そして指す際には、ぐっと手を前に伸ばします。

 藤井七段は稲葉八段の攻めをしのいだあと、反撃。両者ともにあわただしく秒を読まれながら、勝敗不明の最終盤に入りました。

 稲葉八段は藤井陣の飛車を取って持ち駒としました。その飛車を打つのは、藤井陣の右か、それとも左か。

 稲葉八段は遠巻きに攻めるべく、左側に打ちました。プロらしい含みの多い手です。しかし藤井七段に手堅く角を投入されて受けられ、早い攻めがなくなりました。

 代わりに逆方向の右側、藤井玉に近いところからストレートに王手で打つ順がまさったのかもしれません。

 稲葉八段は飛車を切って角を取り、今度は右側から角を打ち込みます。

 早指しながら、藤井七段の指し回しはいつものように、攻防にわたって正確そのもの。そして時間を使いながらも最後に考慮時間1分を残しておくあたりも、しばしば見られる藤井七段の勝ちパターンです。

 藤井七段は稲葉陣で取った金銀を手堅く自陣に埋め、負けづらい態勢を築きました。そして最後の考慮時間を使って、着実にゴールへと近づいていきます。

 秒読みの戦いは「10」まで読まれたら負け。稲葉八段は「9」まで読まれ、そこであわてた手つきで桂を不成で飛び込みます。王手。さらには馬筋を通して龍取りでもあります。ただしこれは稲葉八段の形作りでした。

 藤井七段は稲葉玉を詰ませにいきます。

 134手目。藤井七段は歩を突いて馬筋を開き、王手をかけます。持ち駒はぴったりと足りる。稲葉玉は詰み筋に入っています。

 盤を映すモニターには、稲葉八段の頭が映りました。稲葉八段が頭を下げて投了の意思を示し、熱戦に終止符が打たれた瞬間です。藤井七段も一礼を返し、脱いでいたジャケットを着ました。

 藤井七段は強敵を降して、これで銀河戦本戦Cブロック5連勝。2期連続で決勝T進出を決めました。

 本戦最終戦では、王者・羽生善治九段と対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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