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「新しい世代の指導者を育てたい」、選手権8強の國學院久我山総監督がベンチ入りしない理由

小澤一郎サッカージャーナリスト
3回戦の神戸弘陵学園戦をスタンドから観戦する國學院久我山の李総監督

1月3日に駒沢陸上競技場で行われた第94回全国高校サッカー選手権大会3回戦で國學院久我山(東京A)は神戸弘陵学園(兵庫)を2-1で破り、2008年度大会以来となるベスト8進出を決めた。

今年度から清水恭孝監督にチームの指揮を託し、自身は「総監督」という立場とJ3のFC琉球でゼネラルマネジャー(GM)職を兼任する李済華(リ・ジェファ)総監督は今大会も含めて基本的にはベンチに座らずスタンド観戦を貫く。そのスタンスの背景には李総監督の「エネルギー溢れる新しい世代の指導者を育てたい」という強い想いが隠されていた。

■一概に年寄りが弊害になるわるではないが…

「J3のカテゴリーのチーム関係者としてスカウティングの目線も持って(今大会を)見ています」と話す國學院久我山の李総監督は、「一概に年寄りが弊害になるわけではないですよ」と前置きした上で、ベンチ入りしない理由を次のように説明する。

「私は42歳から52歳までの10年間が指導者としての黄金期だと思っています。エネルギー溢れる新しい世代の指導者を育てたい。若い指導者たちに良い環境を与えて力を発揮してもらうことが私のような年齢、立場の人間がやるべきことだと考えてきました。清水監督は今年43歳で、彼がコーチとして久我山に来た時から『5年以内、私が60歳になったらバトンタッチするよ』という話しをしてきて、実際に3、4年の準備期間を設けて彼に監督を託しました。だから立場は『総監督』ですが、基本的に全て清水監督に任せています」

清水監督体制1年目で國學院久我山は李総監督が監督時代の最高成績である「選手権ベスト8」に肩を並べたわけだが、「自分がいなくなったチームが良くなる、成功することへの寂しい思いは全くないどころか本当に嬉しい」と話す。「年寄りというのは、どうしても自分がいなくなった後にチームが勝つ、良くなると自分が否定されている感情やエゴを持ってしまうのですが、私はFC琉球で新しい仕事をやっているので、そうした感情が全く湧いてこないんです」

■同じことをやるのであれば、自分が2倍の仕事をして2倍の給料をもらう

それどころか清水監督には「私と同じことをやっているのであれば、その分自分が2倍の仕事をして2倍の給料をもらうよ」と発破をかけているという。「彼に監督を託したのは、私にないものを持っているから。私にないものをチームに落とし込んでくれることが大切で、今大会の攻守のバランスや勝負強さは清水監督が新たにもたらしてくれたものだと思っています」

國學院久我山の李総監督は清水監督のように指導者として黄金期にある40代の若手監督が今大会を見ても多くなっている点について「非常に好ましいこと」と評価する。

「一般的に高校サッカーの監督は学校の先生ですから、校務もあってそこまで日々世界のサッカーに精通していないし、サッカー界の流行やトレンドを把握、理解しているわけではありません。一昔前までの高校サッカーの監督は『高校サッカー』の狭い世界で終っていましたが、今の若い指導者は日常的に世界の情報を取り込めますから本当によく勉強しています。高校サッカーの指導者もこれからどんどん世代交代が進んでいくと思いますよ」

指導者の世代交代や監督のバトンタッチが上手くいかず、低迷期に入ってしまう名門校もこれまで少なからずあったが、國學院久我山は監督交代1年目にして見事チームとしての選手権最高成績に並び、5日の準々決勝(対前橋育英)に勝てば早くも「前任者超え」となる。そこには李総監督の「自分を超えてもらいたい」という純粋な想いと後進に全てを託すベテラン指導者として最も難しい大仕事の成功が垣間見えた。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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