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アトピー性皮膚炎の悪化と大気汚染の関係 - 山火事による湿疹の増加から見えたこと

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:ロイター/アフロ)

【大気汚染が皮膚に与える影響とは?】

近年、世界各地で大規模な山火事が頻発し、大気汚染が深刻化しています。大気汚染は呼吸器疾患だけでなく、皮膚の健康にも大きな影響を及ぼします。特に、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を持つ人は、大気汚染によって症状が悪化するリスクが高いのです。

山火事によって発生する煙には、一酸化炭素(CO)や微小粒子状物質(PM2.5)など、皮膚に有害な物質が多く含まれています。これらの汚染物質は、皮膚のバリア機能を低下させ、炎症を引き起こします。その結果、かゆみや乾燥、湿疹などの症状が現れやすくなるのです。

2023年6月、カナダのケベック州で発生した山火事は、米国北東部の大気質に深刻な影響を与えました。ボストン地域では、一酸化炭素濃度が例年の夏の平均値である0.22ppmから0.6ppmに上昇。これに伴い、マサチューセッツ総合病院の皮膚科クリニックでは、アトピー性皮膚炎や湿疹を訴える患者が急増したのです。

この事例は、大気汚染が皮膚の健康に与える影響の大きさを如実に示しています。日本でも、黄砂や光化学スモッグなど、大気汚染が社会問題となっています。皮膚疾患を持つ人は、大気汚染に特に注意を払う必要があるでしょう。

【大気汚染による皮膚への悪影響を最小限に抑えるには?】

大気汚染から皮膚を守るには、いくつかの対策が有効です。まず、外出時はマスクを着用し、帰宅後は顔と手をていねいに洗うこと。汚染物質を皮膚から取り除くことで、炎症のリスクを下げることができます。可能であれば、外出後はしっかりとシャワーを浴び、全身に保湿すると良いでしょう。

また、大気汚染が深刻な日は、できるだけ屋内で過ごすようにしましょう。屋内では、空気清浄機を使用し、汚染物質を除去することも大切です。喫煙も皮膚の健康に悪影響を与えるため、禁煙も検討すべきでしょう。

皮膚の保湿も欠かせません。大気汚染は皮膚のバリア機能を低下させるため、保湿剤を使って皮膚の水分を維持することが重要です。アトピー性皮膚炎の人は、医師と相談の上、適切な治療を継続することが大切です。

【社会全体で取り組むべき大気汚染対策】

大気汚染から皮膚の健康を守るには、個人の努力だけでなく、社会全体での取り組みが不可欠です。特に、低所得者層や高齢者、子どもは大気汚染の影響を受けやすいため、公平な対策が求められます。

各国では、大気汚染対策に力を入れています。中国の西安では世界最大の空気清浄塔が試験的に導入され、周辺地域の大気質改善に効果を上げています。米国でも、1990年の大気浄化法改正で有害物質の排出量が大幅に削減されました。

日本でも、微小粒子状物質(PM2.5)の濃度が高い日には、自治体が注意喚起を行っています。一人ひとりが意識を高め、できる対策を実践することが大切です。企業には、環境に優しい製品の開発や、排出ガスの削減など、積極的な取り組みが期待されます。

参考文献:

1. Santiago Mangual, K. P., Ferree, S., Murase, J. E., & Kourosh, A. S. (2023). The Burden of Air Pollution on Skin Health: a Brief Report and Call to Action. Dermatology and Therapy, 14, 251-259. https://doi.org/10.1007/s13555-023-01080-1

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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