「若者は玉城デニー氏を嫌い佐喜眞氏に投票」というウソ【データで分析する沖縄県知事選挙と俗流若者論】
【1】「若者に限ると佐喜眞氏がリードして、デニー氏を忌避した」というウソ
結論から言えば、今回の沖縄県知事選挙で、県内の若者有権者が投票した先は、デニー氏と佐喜眞氏がほぼ50対50で完全に拮抗しており、特に若者からどちらかの陣営が支持された、という事実は一切存在していない。これの事実をデータから解き明かしていくのが本稿の肝である。
筆者は今回の沖縄県知事選挙で、佐喜眞候補の敗因の一つとして、主に在沖縄のネット右翼活動家とSNSなどでの「佐喜眞氏応援、玉城デニー氏攻撃」が却って佐喜眞氏へのネガティブイメージを醸成したのではないか、という考察『ネット右翼に足を引っ張られた佐喜眞候補【沖縄県知事選挙 現地レポ~敗北の分析】』を発表した。
県知事選におけるデニー氏の勝因と佐喜眞氏の敗因は、筆者考察以外にもさまざまに語られている。
ところが、従前から佐喜眞氏を支持し、デニー氏を攻撃していたような「保守派」「ネット右翼」の中には、「確かに佐喜眞氏は負けた。だが若者に限ってみると、”ネットのちから”が奏功して佐喜眞氏がリードしていた」という、「俗流若者論」ともいうべき根拠のないデマというべき理屈が一斉に繁茂している状況だ。
【2】都合の良い時だけ「沖縄二紙」「NHK」「朝日新聞」を完全に信用するネット右翼
この、「若者に限ってみると、”ネットのちから”が奏功して佐喜眞氏がリードしていた」というのは、NHKとQAR・沖縄タイムス・朝日新聞などが出口調査として発表した年代別の投票先において、10代・20代・30代の若者では「佐喜眞氏に投票」という結果が多い、という一点にのみ根拠を置いてなされている。
しかしながら、普段、前述した筆者論考の中に例示した在沖縄ネット右翼活動家がそうであったように、NHK、沖縄タイムス、朝日新聞が「偏向報道」を繰り返している、「事実を遮蔽している」と主張しておきながら、「この時だけ」はNHK、沖縄タイムス、朝日新聞の出口調査を全面的に信用して理屈を合成する、という摩訶不思議な展開となるのはどうしても解せない。
ともあれ、前述した筆者論考に対して「データに基づいていない」などの、さも利いた風な批判もあった。
投開票から4日が経ったいま、信用できる県知事選に関するデータを逐次まとめる段階に入っている。今一度「若者に限ってみると、”ネットのちから”が奏功して佐喜眞氏がリードしていた」という無根拠な「俗流若者論」を撃砕しないとならない。
さあデータから、沖縄県知事選挙に於ける若者の投票行動を探っていこう。
特別注記*また本論考は、沖縄に関する俗論やデマは、ちくいち事実に基づいて検証しなければ無くならない、という筆者の信念にも基づいている。
そしてなかんずくその中で展開される若者論のウソは、まだ辛うじて若者(-若者の定義は、社会通念上、10代・20代・30代を指す)の範疇にいる筆者自身が行わないといけないと思っているからである。
【3】キャバクラハシゴ記事の偏見とウソ
特に筆者をして本稿執筆の直接の熱情に走らせたのは、noteに投稿された”【選挙ウォッチャー】 沖縄県知事選2018・キャバクラ3軒ハシゴして知ったこと。”(以下キャバクラハシゴ記事)があまりにも偏見に満ちたものであることだったからだ。
キャバクラハシゴ記事は何を訴えているのかというと、要約するとこうなる。該記事の作者が沖縄県知事の選挙期間中に同県内のキャバクラ3軒をハシゴして、沖縄の若者たちの約8割がネトウヨに毒されている。その結果、沖縄の若者は「玉城デニー氏が当選すると沖縄は中国に乗っ取られる」と思っている、と判決する―。というものだ。
このキャバクラハシゴ記事を鵜呑みにすれば、”玉城デニー氏が当選すると沖縄は中国に乗っ取られる”というのは、沖縄県民に全く相手にされておらず、陰謀論・デマとして一蹴されている、という筆者の立場と根底から矛盾することになる。
キャバクラハシゴ記事の作者に対して誤解が生じてはならないので補足すると、この作者は「ネット右翼」や在沖縄ネット右翼の流す陰謀論やデマには全面的に批判の立場であり、であるからこそ沖縄の若者の陰謀論やデマに対する耐性の無さを激しく憂いている展開となる。
いち旅行記、ドキュメントとしてこの記事は非常に面白いものの、これが延伸すると「若者に限ってみると、”ネットのちから”が奏功して佐喜眞氏がリードしていた」というデマを補強する事になるわけであり、これには掣肘を加えなければならない。
【4】出口調査の正しい見方。のっぺりとした横棒グラフに騙されるな!
QAR・沖縄タイムス・朝日新聞が投開票日に発表した出口調査は、年齢別投票先にあっては以下のとおりである。
この出口調査だけを見ると、確かに「若者(10代・20代・30代)では佐喜眞氏が有利!」のように見えなくもない。だが、この出口調査の横棒グラフは、各世代の投票率も、各世代における投票先の絶対数も、一切考慮していないものだ。よって若者の投票行動を分析するデータとしては全く足りない。
真の若者の投票行動を理解するには、沖縄県内に住む各世代が何万人いて、その中の何%が実際に投票に行ったのか、を探らなければ全く意味がない。投票所に行って意見を表明した人間だけの調査をみて、「この世代が〇〇」と決めつけるのは無意味である。
よって各世代の実際の投票者の数が分からなければこのような「世代別の出口調査」が「その世代をの総意を代表している」ことにはならない。このようなのっぺりとした棒グラフの与える漠としたイメージが、前述した「沖縄の若者たちの約8割がネトウヨに毒されている」などという荒唐無稽な論に悪い意味で延伸することになる。
このようなデータに基づかない俗流若者論は、イデオロギーの極端な左右両極から、都合の良いように利用されるだけだから厳に警戒しなければならない。
【5】データから見る沖縄県の若者の投票行動
では今回の選挙で、まず各年齢層のうち、それぞれ何パーセントが投票に行ったのか、というデータを示す。
今次2018年の沖縄県知事選挙に於ける年代別投票率は、投開票日から早すぎてまだ出ていない。が、沖縄県は毎回の国政選挙や首長選挙で、抽出による世代別投票率の調査を行っている(県説明-各選挙において、県内各市町村で、標準的な投票率を示している投票区を1箇所選定し、年齢別・男女別にそれぞれ選挙当日有権者数、投票者数、投票率を調査したものである)。
もっとも直近の、2017年衆議院議員選挙における沖縄県内の年代別投票率は、既に公表されている(リンク先はPDF)。今次県知事選挙の年代別投票率も、直近のこの国政選挙とほぼ同等と考えてまず間違いはないので、これをデータの基礎根拠とする。
この表の一番上に記した世代別人口(母数)は、沖縄県が発表した”3 市町村、男女、年齢5歳階級別人口【日本人】(平成30年1月1日現在)”から転写した数字である。
筆者の努力不足により、沖縄県における世代別の有権者登録データが発見できなかったため、こちらを援用しているが、この数字が投票権を持つ沖縄県内の「日本人」であること、今次沖縄知事選挙から約10か月前と至近の数字であること、などから実際の有権者登録数と大差ないと判断した。
さらにこの表の一番上の世代別人口は、援用した年齢5階級別人口の中に選挙権を持つ18歳と19歳が混住して判別できない事。また先に例示した「QAR・沖縄タイムス・朝日新聞が投開票日に発表した出口調査」に「80歳以上」の項目がないため除外した。つまり、18歳・19歳・80歳以上を除いた有権者の推計が一番上の数字。
二番目は2017年衆議院議員選挙における沖縄県内の年代別投票率が今次沖縄県知事選挙と同等であると仮定したときの投票率の係数(要するに年代別の投票率である)。その結果として、黄色で示した数字が、沖縄県知事選挙で実際に投票所に行った有権者の推計人口(三番目)。
そして「QAR・沖縄タイムス・朝日新聞が投開票日に発表した出口調査」をこの「実際に投票所に行った有権者の推計人口」に振り当てた推計投票先(デニー、佐喜眞、その他2氏)である。この三つの数字全てを、実際の選挙結果に照らし合わせてもほとんど乖離はない。
【6】やはり在沖縄ネット右翼活動家やデマは佐喜眞氏の足を引っ張ったか?
結論としては、本稿冒頭に掲示した上図のとおりである。実際の世代別投票率を勘案すると、若者(20~39歳)のそれは、全投票者の1/4に満たない23.6%である。
さらにその若者の投票先を解剖すると、デニー氏、佐喜眞氏が完全に拮抗している状態であり、まして前述した「沖縄の若者たちの約8割がネトウヨに毒されている=佐喜眞氏に投票」などと云う事実は全くない。
繰り返すように、筆者は沖縄県知事選挙の現地取材を通じて、佐喜眞候補の敗因の一つとして、主に在沖縄のネット右翼活動家とSNSなどでの「佐喜眞氏応援、玉城デニー氏攻撃」が却って佐喜眞氏へのネガティブイメージを醸成したのではないか、と判決した。
若者がインターネットに慣れ親しんでいることは自明である。沖縄の街頭やSNSで拡散された佐喜眞氏への投票呼びかけとセットになったデニー氏への誹謗中傷や攻撃が、インターネットに慣れ親しんだ若者に「プラス材料」として寄与しているのであれば、この世代で佐喜眞氏とデニー氏が完全に拮抗することなどありえず、佐喜眞氏に大きく軍配が上がると思うのが自然だが、そのような兆候はデータ上からも一切ない。
【7】沖縄の若者を馬鹿にし過ぎ!冷静にデマを見抜く若者有権者の判断
沖縄、ひいては全国における若者有権者を馬鹿にしないでいただきたい。
彼らはネットに慣れ親しんでいるからと言って、「ネットDE真実」をそのまま受け入れているのではない。至って冷静に、コモンセンス(常識)で以て事の善悪を判断しているといえる。
筆者による、”佐喜眞候補の敗因の一つとして、主に在沖縄のネット右翼活動家とSNSなどでの「佐喜眞氏応援、玉城デニー氏攻撃」が却って佐喜眞氏へのネガティブイメージを醸成したのではないか”という考察は、実際のデータからもこのように大きく補強されたと考える。
インターネットとネット右翼、あるいはそれを包摂する形で行われる俗流若者論は、「最低限度のデータ」によって論じられなければならず、ただ漠とした印象だけを以て「若者は右傾化している」「若者はネットだけで価値判断を決めている」「若者は保守的になっている」「若者はネットのデマを信じている」などと早計しては、全てが間違うことになると筆者は断言する。
このような俗論、無根拠で極端に偏向したイデオロギーにだけ都合の良い切り口は、本邦社会にあって害毒しかもたらさないのである。