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「アパホテル問題よりこっちが深刻」とする女子高生も。韓国「歴史教科書」が非難されるワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
歴史教科書問題でデモを繰り広げる韓国の女子高校生たち(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

アパホテルの客室に設置してある書籍に関して何かと騒がしいが、韓国ではそれ以上に注目を集めている歴史問題があることをご存じだろうか。歴史教科書の問題がそれだ。

韓国ではここ数年来、高校、中学で使われる歴史教科書が“国定化”されるということで、その内容について議論が続いていたが、1月31日、韓国教育部が“最終版”となる国定歴史教科書を公開した。

昨年11月28日に“検討版”、そして今回“最終版”が公開されたのだが、その内容に関して韓国国民の怒りの声は大きい。女子高生ら学生が集うネット掲示板には「私たちにとってはアパホテルの書籍問題よりも腹ただしくて深刻な問題」とする書き込みもあった。

現在韓国で使われている歴史教科書との大きな変更点はどこか。

まず大きな非難を集めているのが、韓国の建国年を巡る表記である。

これまでの教科書では1948年を「大韓民国“政府”樹立」と表記していたが、国定教科書では「大韓民国樹立」と表記した。日本の感覚からすると、「もともと1948年8月15日が韓国建国の日では?」と思うかもしれないが、韓国国内では非常にショッキングな影響をもたらしているという。

(参考記事:韓国の歴史教科書が「大韓民国樹立」を“1948年”に確定し、大混乱!! 一体何が問題なのか?

一方で、「朝鮮民主主義人民共和国樹立」という表記は、「北韓政権樹立」と修正されており、朝鮮戦争の勃発の原因についても、「北韓の南侵にはソ連と中国が深く関与していた」「(北韓は)体系的な戦争準備に突入した」としながら、「1950年6月25日夜明け、北韓は38度線全域で不法的に奇襲南侵した」(高校「韓国史」)と明記した。

次に、国政介入事件で職務停止となっている朴槿恵大統領の父、朴正煕元大統領に関する評価も非難の的だ。

歴代大統領に関する記述量(高校「韓国史」)を見ると、全斗煥が4ページ、盧泰愚、金泳三、金大中、盧武鉉が各2ページほどとなっているが、朴正煕は9ページと圧倒的に多い。

専門家は韓国メディアに「全体の分量配分を見ると現代史部分の主人公は朴正煕。経済開発を強調しただけでクーデターに関する過ちは巧妙に隠された」と指摘している。

韓国メディアも「“朴正煕美化”に固執した国定教科書、最後まであがき…混乱だけ深刻化」(『京郷新聞』)、「760箇所を修正したが…“朴正煕美化”には手をつけなかった」(『韓国日報』)、「教育部“朴正煕美化”修正拒否…議論が過熱する模様」(『国民日報』)と厳しい目を向けている。

崔順実ゲート事件で韓国国民に怒りや悲しみを受け、集団的トラウマや火病につながる危険性もあると指摘されてきた韓国国民にとって、朴槿恵と朴正煕は受け入れられる存在ではないのだろう。

(参考記事:悪名高き火病(ファビョン)につながる危険もある韓国“スンシル症”の深刻度

ちなみに朴正煕政権に関する記述のなかには、日韓基本条約についても書かれているが、「韓国と日本は韓日基本条約第2条に対する解釈を巡って、互いに違う立場を見せている」と強調されている。

日本に関係する部分でいえば、領土問題の部分に関しても触れなければならないだろう。

「独島と間島」(高校「韓国史」P106-107)の部分では「歴史的に我が領土である独島」「日帝の不法的な独島編入」といった見出しがつけられており、韓国領土であるという記述がなされている。その他、「東海」(日本海の韓国呼称)などについても韓国の主張が取り込まれているらしい。

(参考記事:韓国の新しい“歴史教科書”が公開…「韓国樹立」「朝鮮戦争」「独島」「東海」どこが修正された?

何かと議論の多い韓国の国定教科書だが、教育部次官は1月31日、「来月(2月)15日から国定教科書の使用を希望する学校を研究学校と指定して、1年間の使用結果の研究報告書を提出してもらう。それを教科書の修正・補完に活用する計画だ」と明かしている。

教育部が検討して最終承認を果たせば、来年からは全国の中学・高校で国定教科書が選択肢のひとつとなるという。

しかし、研究学校の指定は一筋縄では行かなそうだ。というのも、権限を持つソウルをはじめとする全国10余人の教育監が反発しているのだ。ソウル市教育監は1月31日に声明を発表。「国定教科書を作るという教育部の間違った意志のもと、国定教科書と検定教科書の混用はなんの意味もない」と批判している。

何よりももっとも大きな障害になりそうなのは、「国定教科書禁止法」だろう。国会常任委員会を通過した同法案が法制司法委員会と国会本会議を通過すれば、国定教科書は即時に廃棄となるのである。

いずれにしても非難の声ばかりが聞こえてくる韓国の国定教科書問題。“安重根平和賞”を作るなど日韓の歴史認識には大きな違いが指摘されてきたが、韓国国内においても歴史認識の差は大きいようだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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