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ポドルスキ?トッティ?Jリーグで成功する補強と「前半戦、移籍組ベスト11」

小宮良之スポーツライター・小説家
鳴り物入りでJリーグに「上陸」したフォルラン(写真:アフロスポーツ)

7月、Jリーグは補強の話題が世間を賑わせている。

J1ヴィッセル神戸のルーカス・ポドルスキ獲得は、スポーツニュース全般でも報じられた。移籍金は約3億円、年俸はJ最高の6億円とも言われる。ポドルスキはドイツ代表として3度のW杯出場、3度のEURO出場。ブラジルW杯では世界王者になっただけに、注目度は高い。神戸はさらに、元日本代表FWのハーフナー・マイクとも契約している。

また、J2の東京ヴェルディはイタリアのフランチェスコ・トッティに獲得オファーを打診。トッティの姿をJリーグで見られるとすれば、それは役得と言える。話題作りとしては、悪くはない。

しかし、現場として彼らを戦力に入れ込むことは容易ではないだろう。

フォルラン獲得が失敗した理由

サッカーにおける補強は、野球のようなスポーツと違って難しい。

なぜなら、野球は基本的にピッチャーとバッターでの1対1。そこでの勝負の濃度が濃い。ピッチャーが制球力を備えているか、ストレートを投げ込めるか、スタミナがあるか、変化球でかわせるか。もしくは、バッターが単純にバッティングに長けているか。キャッチャーのリード、野手のポジションや守備力も、当然、重要ではある。ただ、一つ一つのプレーでの独立性が強く、捕球や送球に関しても(連係はあるにせよ)個人の能力への比重が高い。

一方でサッカーは90分間、継続的にプレーが動くことで、個人もそうだが、集団性や組織力が問われる。

サッカーは11人対11人でボールをつなぎ、運んで、あるいはそれを遮って、という連続。パスが少しはねるだけで、トラップが少しずれるだけで、歪みは大きくなる。そもそもボールが入ってこなければFWはシュートを打てない。スローイン、FK、CKは切れ目だが、一つのボールを集団に蹴り込むもので、攻守両面でチームとしていかに攻め、いかに守るか、その精度が求められるのだ。

それ故、サッカーの補強は必ずしも有力な選手がプラス材料に直結しない。お互いがプレーを理解し、力を引き出すような関係性が乏しい場合、優れた才能も無用の長物となる。チームとしての亀裂が走り、そこから全体の破綻が生じることもある。

例えば、ウルグアイ代表FWディエゴ・フォルランは世界屈指のストライカーだった。2014年に移籍金6億円でセレッソ大阪へ迎えられたとき、大きな話題を呼んだ。しかし当時のチームは前線の形はできていて(むしろ守備の脆弱さが問題で、アタッカーは余り気味)、フォルランを組み込まなければならなかった。実力的にはフォルラン中心にすべきだったが、そうなった場合、チームのプレーモデルまで変える必要があったのだ。

結局、フォルランは悶々と過ごし、セレッソは極度の不振に陥って、J2降格という憂き目を見ている。

チームにはプレーモデルがある。それは、システムやボールや人の動きの回路のようなモノと言えるか。戦術的な道筋とも言えるだろう。そこに異質な選手を入れると、道筋がぼやけ、消えてしまうことがある。影響力が強すぎることが徒になるのだ。

では、どのような補強が正解なのか?

セレッソ首位の理由

「選手を半分以上入れ替えると、プレーモデルはリセットされ、一からの出直しとなる。統一性を失うだけに、得策ではない。一つの賭けになる」

欧州サッカー界では、それが補強における定石である。大補強を断行する場合もあるが、成功の公算は低い。迷走しているクラブか、下位リーグに沈むクラブの苦肉の策であるケースがほとんどだろう。選手の大幅入れ替えは、カジュアルファッションにトラッドなジャケットを着込み、ヒップホップのキャップを被り、ビーチサンダルを履くという妙ちきりんな格好になる。

成功する補強の形は、はっきりしている。例えば世界王者レアル・マドリーは昨シーズンの主力をほとんど変えていない。まずはベースを作って、足りないピースを強化する、というやり方だ。

Jリーグ前半戦、上位に立っているセレッソ大阪、鹿島アントラーズはその印象が強い。セレッソはJ2でタフな昇格戦を勝ち抜いたメンバーが主軸。そこにマテイ・ヨニッチ、水沼宏太という二人の実力者が組織を強固なものにした。ケガで出遅れているが、清武弘嗣もベースアップが期待できる。鹿島もGKクォン・スンテ、MFレオ・シルバ、FWペドロ・ジュニオールと外国人トリオが中央に入り、幹を太くした印象である。

一方、手薄な箇所、弱い箇所を補強するのも一つの定石だろう。

川崎フロンターレは大久保嘉人の代役として、阿部浩之を獲得している。ただ、単純な穴埋めではなく、阿部の連係力を評価。周囲との関係性によって、チーム力を落としていない。ガンバ大阪は攻撃の能力の高さは定評があっただけに、守備にてこ入れ。センターバックにファビオ、三浦弦太を補強し、ディフェンス力は向上した。柏レイソルは、ポゼッションスタイルを駆動させる右サイドバックが慢性的に不足していたが、J2レノファ山口から加入した小池龍太によって、劇的に改善。ボールを握り、持ち出し、クロスを入れられるだけに、有効な攻め手ともなっている。

補強の多様性

もっとも、定石を破らざるを得ないこともある。例えば、吉田達磨監督が新たに率いることになったヴァンフォーレ甲府は、プレーモデルを大きく変化させた。選手の入れ替えが不可欠だった。

吉田監督は変革に着手。アンカーに入れた兵藤昭弘は、ボールを握り、失わず、ポゼッションの要素を入れられるMFで、新たなプレーモデルの権化になっている。また、エデル・リマはスケール感のある左利きセンターバックで、攻守のインテンシティをアップさせた。ただ序盤戦は一つの成果を叩きだしたものの、リーグ戦直近9試合は勝ち星なし。これからが正念場となるだろう。

補強がネガティブな結果を残すことはあるが、補強なしではチームは立ちゆかない。組織は淀む。新陳代謝を図っていかなければ、クラブは停滞し、衰退する運命を歩むことになるのだ。

今シーズン、浦和レッズは最強の陣容を誇っているが、メンバーが固定化してしまい、新たに加入した選手がほとんど戦力になっていない(ラファエル・シルバのみはインパクトを叩きだしているが、焦りなのか、シュートミスも多く)。新メンバーを融合させる難しさを経験している。ペトロビッチ監督が独特なプレーモデルを信奉するだけに、戦術にフィットするのに時間がかかるのだ。

前半戦の補強組ベスト11は以下のようになるだろうか。 

GKクォン・スンテ

DF小池、ヨニッチ、ファビオ、リマ

MF水沼、レオ・シルバ、阿部

FWペドロ・ジュニオール、クリスラン(ベガルタ仙台)、ウーゴ・ヴィエイラ(横浜F・マリノス)

<チームは生き物>

そう言われるように、正体はつかめない。うまくいっていると思っても、膿が出ているときもある。一方でうまくいっていないように見えて、新しい芽が吹いていることもある。それを見極められるか。そこにクラブの浮沈はかかっているのかも知れない。 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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