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東京・豊島区議会で「議員へお茶を出すか否か」が議論に 繰り返されてきたお茶出し廃止議論の歴史 

小川たまかライター
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 つい先日、新型コロナウイルスの感染者数について東京都で報告漏れや重複集計があり、この原因が各保健所が都にファックスで感染者数を報告するシステムだったと報じられた。

参考)都の感染者なぜ報告漏れ? 集計はファクス、連携できず(2020年5月14日朝日新聞)

 メールもメッセージアプリもある現代で、ファックス?

 とはいえ、この旧態依然としてあり方に、さもありなんと思ってしまった。というのもコロナ禍での取材中、ある区議会で「お茶出し」を廃止するかどうかが議論されていると聞いて唖然としたばかりだったからだ。

豊島区議会でのお茶出し廃止に自民党だけが反対

 東京・豊島区議会。4月に行われた議会改革検討会で、お茶出しの是非が議論されていたという。お茶出しとは、区議会事務局の職員から議員にお茶が出される給仕業務のこと。

 関係者によれば、ほとんどの会派がお茶出し廃止とマイボトル・ペッドボトルなどの持ち込みを可とする案を主張したものの、自民党だけがこれに反対。

 最近ではペットボトルがエコではないという理由でマイボトルを持ち歩く人も目立ってきた中、まだそこに……という感が否めない。

 さすがに議員たちも、SNSなどで困惑の声を上げている。

反対理由は「見栄えが悪い」?

 人との接触をなるべく避けるべきコロナ禍であることを考えても、お茶出しを続けるのは違和感がある。

 自民党のみが反対している点について念のため公明党にも確認したが、「議員が公務員である方々にお茶を入れてもらっていること自体が時代にそぐわないわけで、公明党としては直ちに廃止すべきと考えています」「議論の中で自民党会派だけが踏み切らない」(公明党の豊島区議会議員)とのことだった。

 関係者によれば、自民党の反対理由は「マイボトル・ペットボトルでは動画中継の際に見栄えが悪い」というもの。自民党区議にも取材を申し入れたが回答はなかった。

埼玉県議会では自民議員の提案でお茶出し廃止

 とはいえ、議会でのお茶出しを続けてきたのは豊島区だけではない。

 今年の2月には、埼玉県議会でのお茶出しが朝日新聞で取り上げられたのをきっかけに、テレビでも複数の番組が報道した。

 自分のお茶は自分でーー。県議会の常任委員会などで、女性職員らが委員の県議にお茶を出す慣例が廃止されることになった。この慣例のために県は、お茶出しだけを担当する臨時職員の女性を7人雇っていた。経費削減などの理由から、自民党県議団が13日の会派代表者会議で提案し、他会派も同意した。

(略)

 自民党の小島信昭団長は「お茶出しのために女性を待機させているのが時代に合うのかどうか、以前から議論になっていた。必要な人は、それぞれ自分で対応しましょうということだ」と話した。

出典:2020年2月20日 朝日新聞 「女性職員ら県議にお茶出し、廃止 県議会、経費削減で/埼玉県」

 こちらでは自民党議員の主導でお茶出しが廃止になっていた。豊島区の自民党議員は、よっぽど独自の思い入れがあるのだろうか。

 この報道への反響が大きかったためか、今年は他の県でも同様に廃止が続いている。

  • 宮城県議会/臨時職員のお茶出し 廃止/「専従」と誤解 苦情相次ぐ(2020年3月13日河北新報)
  • 県議への「お茶出し」やめます 県議会運営委/秋田県(2020年4月22日朝日新聞 東京地方版)
  • 山形市議会 常任委と予算委分科会のお茶出し取りやめA(2020年5月8日山形新聞朝刊)

10年前、お茶出しに年間1千万の支出をしていた市も

 せっかくなので、さらに過去も振り返ってみたい。

  • 県議会のお茶出し見直し 職員確保難しく、ペットボトルに/宮崎県(2016年9月27日 朝日新聞 西武地方版)
  • 飲み物はセルフで 市議会委員会 議員へのお茶出し廃止(2012年4月12日 山陽新聞朝刊) ※岡山市議会
  • 議会専属のお茶出し職員 宮崎県雇用、人件費年60万円(2011年9月26日 朝日新聞 西部朝刊)
  • 議会棟でのお茶出し業務 西宮市、見直し方針 議会費での負担求める(2010年9月10日 神戸新聞 朝刊)

 主に人件費や人員の問題から、各地でお茶出しの見直しが行われてきたことがわかる。

 2010年の西宮市の記事では、「給茶業務」のため年間1千万近くの支出があると指摘され、識者が「お茶をくむことぐらい自分でやりなさいと言いたい。議員も疑問に思わないのか。市も議会も公金に対する感覚がまひしている。議会と波風を立てたくない、という思いから続いているのだろうが、なれ合いがひどすぎる」と手厳しいコメントをしている。

1980年代に「お茶くみ廃止運動」があった市役所も

 さらに2000年代にも、同様の記事が複数ある。

  • 市議会:お茶くみ「しない」が多数派 10議会は「セルフ」/岡山(2008年6月27日 毎日新聞 地方版)
  • 県議会 お茶提供もやめます 経費削減理由に(2006年11月21日 岩手日報 朝刊)
  • リポート05:「議会の常識?」委員会でのお茶出し/鹿児島(2005年5月29日 毎日新聞 地方版)

 2008年の毎日新聞記事では、岡山県内の15市議会のうち10議会がお茶出しをやめていることが確認されている。特に、備前市議会では、お茶出しをやめたのは「約20年前」とあり、1980年代後半からすでにお茶出しシステムがなかったようだ。

 

約20年前からお茶出しをやめた備前市の場合、合併前の旧備前市時代に、市役所全体で女性職員のお茶くみ廃止運動が契機だった。

出典:市議会:お茶くみ「しない」が多数派 10議会は「セルフ」/岡山(2008年6月27日 毎日新聞 地方版)

17年前の時点ですでに「時代遅れ」

 そして2003年の記事がこちら。

 広島市議会は十九日開いた各派代表者会議で、常任委員会などの審議中に女性職員が議員にお茶を配って回る「お茶出し」を廃止することを決めた。「男女共同参画社会に逆行する」「時代遅れ」などと廃止を求める声が上がっていた。

出典:議員へ「お茶出し」廃止 広島市議会 「時代遅れ」の声受け(2003年12月20日中国新聞朝刊)

 今から17年前ですでに、「時代遅れ」。そりゃそうでしょうね……、という感想だ。

 さらにこの1年前にも広島市議会の記事がある。

  • 議会のカルテ 広島市議会編<7>時代感覚「市民の常識」とずれ お茶出し廃止を渋る(2002年12月4日 中国新聞朝刊)

 この記事では、会派を超えて廃止を唱える議員が多いが慣例が続いてしまっている様子に触れ、廃止派議員の「議会の常識は市民の非常識」という自嘲気味の言葉が紹介されている。

豊島区議会では「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」が否決

 過去の記事をさかのぼっていくと、議会でのお茶出し問題は当然ながら今に始まったことではなく、古くは性差別の観点から議論があり、また2000年代以降は主に「経費削減」「時代遅れ」という理由で廃止されてきている。

 そして、各地の議会によって、これが議論になる時期がさまざまだということがわかる。今回調べてみたきっかけは東京・豊島区議会でのお茶出し議論。廃止に反対する議員からの回答を得ることはできなかったが、ぜひ、少なくとも17年前の時点でお茶出しが「時代遅れ」と言及されていることも踏まえて検討を進めてほしい。

 ちなみに、豊島区議会のこの議論を知ったのは、野党議員が提出した「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」が、自民・公明・都民ファなどの反対で否決された件を取材する途中でのことだった。この決議の否決については、また別にまとめたい。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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