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【ライヴ・レポート】プリティ・メイズ  2018年11月18日/川崎CLUB CITTA'

山崎智之音楽ライター
Pretty Maids / photo by Masayuki Noda

北欧ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの強豪バンド、プリティ・メイズが2018年11月、“Back To The Future World- 30th Special Maid In Japan”と題した来日公演2デイズを川崎CLUB CITTA'で行った。

1980年代にデビューしたベテランの彼らだが、2012年以降は1〜2年に一度のペースで日本のステージに立っており、そのたびに大きな盛り上がりを見せている。

今回の公演は1987年のアルバム『フューチャー・ワールド』を完全再現するというもの。さらに17日(土)は“Greatest Hits & The Band's Favorites”、18日(日)は“Rare Songs & Fans' Favorites”と銘打って、日替わりのセットでのライヴが行われた。

本記事では2デイズの2日目、18日のショーをレポートする。

Pretty Maids / photo by Masayuki Noda
Pretty Maids / photo by Masayuki Noda

“名盤”は一朝一夕にして作られるわけではなく、人の心に長く留まってきたアルバムがそう呼ばれることになる。1987年の発表から31年、ライヴ会場に多くの観衆を引き寄せる『フューチャー・ワールド』は、まさに“名盤”なのだろう。アルバムと人生を共有してきたオールド・ファンは、場内が暗転して雷鳴と鐘の音、そして荘厳なイントロが鳴り響くのを聴いて、一気にヒートアップする。1曲目から「フューチャー・ワールド」が炸裂、我々はいきなり“未来世界”のヘヴィ・メタル・ディストピアの真っ只中に頭から突っ込むことになった。

ロックを讃える「ウィー・ケイム・トゥ・ロック」やポップなシンセをフィーチュアしたハード・チューン「ラヴ・ゲーム」は、1980年代だからこそ生まれ得た曲だが、2018年においても輝きを放ち続けるエヴァーグリーン・ナンバーだ。それは曲そのものの出来映えが良いことはもちろん、バンドの力量によるものが大きい。ロニー・アトキンス(ヴォーカル)の豊かな声量は衰えを知らず、年輪を経たことでさらに表現力を増しているし、ケン・ハマー(ギター)はずっしり貫禄が付いたのに加え、ギターの腕前には磨きがかかり、そのトーンは艶気に満ちている。

また、1990年の初来日から28年のあいだに培ったファンとの絆も、バンドの演奏をより直接的にハートで感じさせることに貢献していた。“ロニさん”“ハマさん”はすっかり愛されキャラだし、「イエロー・レイン」や「ロデオ」などおなじみのクラシックスは大きな声援で迎えられた。

一方、『フューチャー・ワールド』完全再現ならではの「ニードルズ・イン・ザ・ダーク」「アイズ・オブ・ザ・ストーム」「ロング・ウェイ・トゥ・ゴー」などレア曲もライヴでアドレナリンを注入され、エネルギーに満ちたヴァージョンで蘇った。

現在のプリティ・メイズに勢いがあるのは、ロニーとケンががっちり2本の軸を成しているのに加えて、若い血を取り入れたことも理由のひとつだろう。アラン・ソーレンセン(ドラムス)とレネ・シェイズ(ベース)は大地を揺るがす重低音ビートでバンドに生々しいオーガニック感をもたらす。それに加えてクリス・レイニー(キーボード、ギター)は適切な箇所でリズム・ギターやシンセのパートを挿入。決して派手なスターではないものの、彼のツボを心得たプレイはバンドのライヴ・パフォーマンスをさらに深みあふれるものへと昇華させていた。

Pretty Maids / photo by Masayuki Noda
Pretty Maids / photo by Masayuki Noda

『フューチャー・ワールド』完全再現が大団円を迎え、オールスタンディングの観衆がさらに背を伸ばして大歓声を送る。そしてこの日のもうひとつの“目玉”であるレア・ソングス大会が始まった。

レア曲の1曲目が前日にもプレイされた「シン・ディケイド」だったことで、レア度に関しては「ん?」と疑問符が付いたが、もちろん楽曲と演奏の良さには文句があろう筈がない。そして2曲目以降、本格的にレア・ソングスへと突入していく。

「シン・ディケイド」「ラニング・アウト」「ナイトメア・イン・ザ・ネイバーフッド」「ノウ・イット・エイント・イージー」など、近年あまり演奏されない『シン・ディケイド』(1992)からのナンバーが久々に多くプレイされたのに加え、『レッド・ホット&ヘヴィ』(1984)の隠れたハイライトのひとつ「ウェイティン・フォー・ザ・タイム」がイントロだけで大声援を呼び、本編に入ると一気に爆発する。

『スプークド』(1997)からの「ネヴァー・トゥー・レイト」、『エニシング・ワース・ドゥーイング・イズ・ワース・オーバードゥーイング』(1999)からの「ヘル・オン・ハイ・ヒールズ」と、観衆は1曲ごとに驚いたり微笑みを浮かべるのを繰り返す。

ハードなサウンドに乗せて起伏していくジェットコースターが終点で大激突したのが「バック・トゥ・バック」だった。全然レアじゃない!反則だ!...などと不満を漏らす観客は、確実に1人もいなかった。鋭角的に斬り込むリフに首を振ったり「バック・トゥ・バック!」と叫ぶのに忙しく、興奮がMAXまで達してしまい、不満など抱く余裕などゼロだったのだ。

アンコールは『ジャンプ・ザ・ガン』(1990)の「リーサル・ヒーローズ」と「アテンション」という準(?)レア曲が披露され、コアなファンを驚喜させたが、クライマックスは、この曲がなければプリティ・メイズのショーは終わらない!という「レッド・ホット&ヘヴィ」だ。レッドでホットでヘヴィな曲に拳を突き上げ、首を振り、コーラスを叫ぶ。30年以上の年月を経てもハード・ロック/ヘヴィ・メタルの本質が変わることがないことを証明して、プリティ・メイズの2日間のショーは幕を下ろした。

会場を後にするファンの表情は紅潮(レッド)して、興奮に上気(ホット)している。『フューチャー・ワールド』発表から31年の月日で体重が増えてしまった(ヘヴィ)ファンもいるが、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル少年少女時代の彼らが感じていたスリルと興奮を取り戻したライヴだった。

Pretty Maids / photo by Masayuki Noda
Pretty Maids / photo by Masayuki Noda
『Kingmaker』ジャケット courtesy of Ward Records
『Kingmaker』ジャケット courtesy of Ward Records

【最新アルバム】

プリティ・メイズ

『キングメーカー』

2016年

ワードレコーズ

現在発売中

【日本レーベル公式サイト】

https://wardrecords.com/products/list.php?name=PRETTY+MAIDS

【来日直前インタビュー前編】

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20181114-00104134/

【来日直前インタビュー後編】

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20181116-00104386/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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