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アースが2024年11月に来日。ライヴ・イベントで異形の神盤『Earth 2』を完全再現

山崎智之音楽ライター
Earth / courtesy of Daymare Recordings

洋邦の轟音アーティストが集結するライヴ・イベント“leave them all behind 2024”が2024年11月10日(日)、東京・代官山UNITで開催される。

2009年にアイシスとサンO)))をヘッドライナーに迎えて第1回が開催。その後もコンスタントに行われ、スリープ、ニューロシス、コンヴァージ、ゴッドフレッシュ、アイヘイトゴッドらが出演、数々の伝説が生まれてきた。

そして今回、トリを飾るのはアースだ。1989年にワシントン州で、ディラン・カールスンによって結成されたアースは、ヘヴィなギターが無限に持続するドローンによるメタルで支持を得てきた。一緒に歌ったり踊ることの出来ないストイックな音楽性はメインストリーム市場で受け入れられることこそないものの、世界中の熱狂的な信者たちから崇拝され、2012年・2014年には来日公演も行われている。2024年にはドキュメンタリー映画『イーヴン・ヘル・ハズ・イッツ・ヒーローズ』がブルーレイとして発売、国内での上映イベントも実現した。

そんなアースの圧倒的な求心力の中心にある代表作が、1993年に発表された異形の神盤『Earth 2: Special Low Frequency Version』である。

leave the all behind 2024フライヤー / courtesy of Daymare Recordings
leave the all behind 2024フライヤー / courtesy of Daymare Recordings

<極限としての『Earth 2』>

元々メタル・ファンだったディランだが、メタルのフォルム(様式)に不満を抱いていたという。EP『Extra Capsular Extraction』(1991)でデビューしたディランは、当時を振り返って筆者(山﨑)にこう語っている。

「通常のメタル・バンドは曲展開が性急で、気に入ったリフがあっても、すぐに別のリフやコーラスに移ってしまう。だから俺は、ひとつのリフを延々とやるようにしたんだ。そのリフのテンポを落として、もっと落として、テンポが無くなるまで極限までスローにしたのが『Earth 2』だった」

音楽面で極限を志した『Earth 2』だが、それ以外の部分でもエクストリームなものだった。隙間を作ることを避け、スタジオの16トラックすべてをフルに使ったこともそうだし、CDの収録時間のギリギリ限界である74分をヘヴィなサウンドで埋め尽くしたこともそうだった。ディランは「今になって聴いてみると、ほとんど閉所恐怖症的に聞こえる」と思い起こしているが、何よりも彼の魂のありったけが全3曲に注ぎ込まれている。“特別低周波ヴァージョン”というサブタイトルも半分はジョークかも知れないが、スピーカーを揺るがす重低音には聴く者を真顔にさせる真摯な信念がある。1992年このアルバムが30年以上、多くの信奉者を生んできたのは、それが音から伝わってくるからである。

Earth / courtesy of Daymare Recordings
Earth / courtesy of Daymare Recordings

<『Earth 2』の30周年(+1)記念ライヴ>

ただ、『Earth 2』がリリース当時から高評価を得ていたわけではない。1992年11月に発表されたメルヴィンズの『Lysol』、そして1993年2月の『Earth 2』はドローン・メタルの原点と呼ばれるが、共にリリース当時は無関心で迎えられた。

ニルヴァーナのカート・コベインが多大な影響を受けたこと、グランジの総本山だった“サブ・ポップ”レーベルからリリースされたことで、『Earth 2』はグランジの亜種と見做された。だがアルバムへの評価は芳しいものではなく、同年の秋頃に筆者(山﨑)がCDを買った頃には、早くも輸入盤店のバーゲンコーナーに置かれていた記憶がある。一度通して聴いたものの、頭の中にいくつもクエスチョンマークが浮かんでいた。当時はまだメロディやコード進行に囚われ、あるがままの音を受け入れる準備が出来ていなかったのかも知れない。そんなリスナーは筆者以外にも世界中に大勢いたのではないか。

だが『Earth 2』はじわじわと音楽ファンの心に浸透していく。カート・コベインがインタビューなどでアースの名前を出したり、ドローン・メタルを世界に広めるサンO)))が元々アースへのトリビュート・バンドとして始動したり、そのサンO)))のメンバーがカテドラルのリー・ドリアンと共演するプロジェクト、ティース・オブ・ライオンズ・ルール・ザ・ディヴァインで作品を発表する(『Earth 2』の曲名から命名)など、数々のアーティストがリスペクトを表したこともあり、彼らはより広く知られるようになった。

1990年代後半からディランの健康問題などで活動を止めていたが、アルバム『Hex: Or Printing In The Infernal Method』(2005)で復活。アースとしての作品発表とツアーに並行してソロ・キャリアも行うなど、しっかりした足取りで歩み続けている。

そんな経緯を経て、今や神格化すらされる『Earth 2』の30周年を記念して、2023年にアメリカのオースティン、シアトル、ロサンゼルスの3都市、また2024年10月にポートランドでアルバム完全再現ライヴが行われた。そして世界で5回目(おそらく最後)の舞台として選ばれたのが、日本の“leave them all behind 2024”のステージである。

今回の来日ラインアップはディラン(ギター)とエイドリアン・デイヴィス(ドラムス)、ビル・ハーツォグ(ベース)というトリオ編成。現在のアースが『Earth 2』をプレイしたら?...というクエスチョンの答えが、日本で明かされることになる。

leave the all behind 2024 extra show フライヤー / courtesy of Daymare Recordings
leave the all behind 2024 extra show フライヤー / courtesy of Daymare Recordings

アースの『Earth 2』完全再現も楽しみだが、“leave them all behind 2024”にはさらにMERZBOW、ENDON、SLUGという3大アーティストが参戦。日本産のエクストリームでエクスペリメンタルなサウンドで迎え撃つ、準・フェスティバルの様相を帯びている。

さらに11月11日(月)には“leave them all behind 2024 extra show”と題して、渋谷Spotify O-Nestで公演が行われる。こちらはアースのレギュラー・セット(アルバム完全再現ではない)、ゲストにkyosuke Teradaという布陣だ。“レギュラー・セット”とはいっても、『イーヴン・ヘル・ハズ・イッツ・ヒーローズ』以降に書かれた新曲3曲が披露される予定で、十分以上にスペシャルなセットだ。

轟音サウンドの過去と現在、そして未来が交錯する“leave them all behind 2024”、いよいよ轟音大戦の開戦まで待ったなしだ。

Earth『Earth 2: Special Low Frequency Version』ジャケット(Sub Pop Records / 現在発売中)
Earth『Earth 2: Special Low Frequency Version』ジャケット(Sub Pop Records / 現在発売中)

【公演ウェブサイト】

11/10(日)

leave them all behind 2024

EARTH performing “earth 2: special low frequency version” in full

MERZBOW, ENDON, SLUG

東京・代官山UNIT

open 15:45/start 16:30

https://smash-jpn.com/live/?id=4228

11/11(月)

leave them all behind 2024 "extra show"

EARTH regular set

with guest: Kyosuke Terada

東京・渋谷Spotify O-nest

open 18:30/start 19:00

http://www.daymarerecordings.com/shows/2012.htm

【レーベル公式ウェブサイト】

Daymare Recordings

http://www.daymarerecordings.com/

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伝説のドローン・バンド、アースを題材にした映画が海外公開。ニルヴァーナにも多大な影響

https://jp.yamaha.com/sp/myujin/69233.html

2011年のインタビュー

http://yamazaki666.com/interviewearth.html

2014年のインタビュー

http://yamazaki666.com/interviewearth2014.htm

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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