災害対応で「緊急発進できる偵察機」として使えるF-35戦闘機
災害が発生した場合、自衛隊は航空機を飛ばして上空から確認をします。普段は領空侵犯機に対応するために何時でも緊急発進のスクランブルができるように、24時間常に準備態勢を整えている戦闘機が真っ先に飛び立ちます。とはいえ戦闘機なのでパイロットが目視で地上を確認するしかなく、真夜中では「停電が発生しているか」「火災が起きているか」くらいしかわかりません。
それでも今すぐ飛び立てる機体が戦闘機しかないなら急いで確認に行くしかありません。その後に赤外線暗視カメラを搭載したヘリコプターや哨戒機などが現場に到着して詳しく状況を調べます。しかしこの状況を新型戦闘機F-35が変えてしまうことになるでしょう。F-35は戦闘機でありながら偵察機並みの光学カメラを標準装備しているので、配備数が増えてスクランブル任務に就くようになれば「災害時に緊急発進できる偵察機」として使うことができます。
あくまで戦闘機は緊急発進して初動の確認のために急行し、その後に他の航空機に観測任務を引き継いでもらうのは同じですが、F-35戦闘機は高性能な赤外線カメラを標準装備して真夜中でも詳細な状況確認を行えるので、従来の戦闘機よりも得られる情報量が格段に多くなります。
専用の偵察機としてはRQ-4グローバルホーク大型無人偵察機の導入も計画されていますが、偵察機はスクランブル待機しないので直ぐには飛び立てません。配備数も少なく災害発生地の近くに基地があるとは限りませんし、飛行速度が遅いので現場到着にも時間が掛かります。戦闘機ならば配備数も多く飛行速度も速くスクランブル待機しているので即応することができます。
2種類の光学センサーを持つF-35戦闘機
F-35戦闘機には2種類の赤外線暗視能力を持つ光学センサーが装着されています。機首下に装着されたEOTS(電子光学照準システム)と、機体各部6ヵ所に装着された赤外線カメラの映像を繋ぐEO-DAS(電子光学分散開口システム)です。EO-DASは機体の周囲の全球を警戒することが可能な画期的な装置ですが、偵察機としての役割を担うカメラはEOTSの方になります。EO-DASで全体の状況を把握しながらEOTSで詳細な状況を確認する使い方になるでしょう。
※F-35用のEO-DASはノースロップ・グラマン社が製造を担当していましたが、コスト削減のために再入札が行われ2023年製造分からレイセオン社に製造担当が変更される予定。
AN/AAQ-40 EOTS(電子光学照準システム)
EOTSはロッキード・マーティン社とBAEシステムズ社が共同開発した電子光学照準システムで、可視光カメラと赤外線カメラおよび測距・照準用レーザーが一纏めの装置として機首下に装着されており、対地目標と対空目標の両方の捕捉と照準を行います。主に対地目標への誘導爆弾などでの攻撃に使われます。
そしてF-35はこのEOTSで撮影した映像を後方の基地にデータリンクで静止画像を直ぐに伝送することが可能です、そして近い将来に機体のソフトウェアが次期バージョンのブロック4になれば映像を動画でリアルタイムに伝送することが可能になります。戦場での戦術偵察のみならず、災害対応の初動の偵察にも活躍できる高い機能を持っています。
ただし戦闘機は燃費が悪いので災害発生時の初動の確認に用いて、後は別の航空機に観測任務を引き継いでもらう使い方になります。
F-35 Lightning II EOTS Video
Advanced EOTS Imagery Building. 解像度が向上したアドバンスドEOTS。同じ建造物の撮影で、左半分が現行型の望遠映像、右半分が新型の望遠映像。