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エディ・レッドメイン「これまでの人生で一番の演技」とは?

渥美志保映画ライター

今回は『ファンタスティック・ビースト』で来日中のエディ・レッドエメインのインタビューをお送りします……といっても、『レ・ミゼラブル』で来日した時の物です。時間は結構あったのですが、原稿の文字数がすごーく少なく、使えなかったところがもったいない!と思っていたものです。英国の育ちのいいお坊ちゃまは、本当にかわいくて頭がよくて面白い人だったのですが、今読んでみると、昨年のオスカー受賞作『博士と彼女のセオリー』や『リリーのすべて』のような、果敢な作品選びの片鱗が見えるなーという感じがします。

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お父さんは銀行頭取で、2人のお兄さんも実業界と金融界にいますが、エディさんはなぜその世界を選ばなかったんですか。

大学の時に銀行でインターンをやりました。その初日に、「これ以外ならなんでもやれる、これは自分がやる仕事じゃない」と思いました(笑)。子供の頃から演技が好きだったし、自分が好きなことを仕事で生きていられることはラッキーなことですよね。

「銀行で働いては?」と、お父さんに言われませんでした?

そんなことはなかったんですね。両親はどんな時も、いろんな面で僕をサポートしてくれているんです。全く別の分野に興味を持っている息子がいることに、実際には衝撃だったと思いますよ。でもインターンの初日に、父も「この子には合ってないのかな」と思ったみたいです。

何かやらかしてしまったんですか?

とにかく、株がどうだとか債権がどうだとか、いろいろ説明されて、全力でわかったふりをしていました。これまでの人生で一番の演技だったと思います。今、思い出してみると笑えるけれど、本当に悪夢のような経験でしたね。基本的な算数も得意じゃないのに。やっぱり銀行にいるべき人間じゃないんですよ。

演技や歌など小さい頃からやっていたと思いますが、ご自身に影響を与えた歌とか映画作品などありますか?

子供の頃にミュージカルの『真夏の夜の夢』を見に行った時、妖精パックの役をやっていた女優さんが、パックがロバになるという場面で、足を頭にもっていってロバの耳にしたんです。「すごいな!」って思いました。それから『キャバレー』ですね。ミュージカルは作品によってはひとつの解釈しかできないものもありますが、『キャバレー』はストーリーが素晴らくできていて、その時々のプロダクションによって、政治的な物語になったり、セクシーな物語になったり、いろんな解釈ができるところが好きです。まさか自分がこういう仕事をするとまでは思っていなかったんですが、心惹かれていましたし、興味もありましたね。映画を見たり劇を見ることは、僕にとってすごくリラックスできることでもありましたし。

今回の『レ・ミゼラブル』は、エディさんも含めてすべて主役級の俳優さんたちですが、彼らの作品で、何か好きな作品を教えてもらえますか?

たくさんありますよ。そうですね、ヒュー・ジャックマンは『プレステージ』が素晴らしかった。アン・ハサウェイの『ブロークバック・マウンテン』、それからアマンダ・サイフリッドは何を演じても器用にやりとげてしまいますよね。ヘレナ・ボナム・カーターの『英国王のスピーチ』、ラッセルは……どの作品も素晴らしい。彼らとの仕事は、どこを見てもインスピレーションが受けられるような環境でした。ひとりひとりが別の映画で出ても十分な方たちなのに、それが一同に介することなんて、本当に素晴らしいことでしたよ。

撮影中のエピソードで何か面白いものがあれば教えてください。

アマンダと私が門の両側でラブソングを歌っている場面の撮影が可笑しかった。トム・フーパーさんがスタントの蝶を放したんですが、それが僕の頭に止まってしまったんです。周りの人はそれに気をとられて笑っていて、僕は感情を込めて必死で歌っていたから、「何が可笑しいの?」なんって思っていて。蝶にやられちゃったな、って言う感じでした。

それでそもそも舞台であるレミゼラブルを映画で撮ることの意味や、映画だからこその魅力というのはどういうところだと思いますか?

学生の革命の場面です。相手はものすごい人数で、ものすごい権力があり、学生たちはなしえると思っているけれど、とうてい勝ちようがない。舞台では「そんなものだよな」と想像しながら見るしかないのですが、映画ではそれを映像で表現しています。学生たちの作ったバリケードを空撮して、それがいかにちっぽけで、簡単にやっつけられてしまうものなのかを見せていくんです。それからエポニーヌが死にそうになって、僕の腕の中で息絶えていく、そういう場面は囁くような歌い方で、ふたりの親密な距離感が表現できる。舞台ではこれは難しいですよね。

エディさんは本当に歌が上手でびっくりしました。ご自身は「ミュージカルならいくらでも」という感じだったのですか?

映画での役作りは、太るとか痩せるとか、スタントのトレーニングをするとか、いろいろありますけれど、今回は自分の声帯を強くすることが必要でした。撮影は夕方から始まって次の朝まで続くかもしれないし。今回の映画に臨む上でのウォームアップは、ほとんどアスリート並みの鍛え方でしたよ。撮影が終わってもうトレーニングをしてないのに、オスカーの授賞式でもう1回歌えと言われた時は困りましたね。

本当にいい作品ばかり選んでますよね。最初に「果敢な役選びをする人だな」と驚かされたのは『美しすぎる母』という作品でしたが、かと思えば『マリリン7日間の恋』のような作品にも出て、こうした王道のミュージカルにも出演する。そして次はウォシャウスキー監督の『ジュピター』作品ですよね。どうやって役をゲットしてるんですか。

そう言ってもらえることはすごく嬉しいですね。自分としてはこれでいい、これで安心だという場所に身を置きたくない、つねに新しいものにチャレンジし、それまでと異なることとをやっていきたいという思いがあるんです。『美しすぎる母』もは他とは全く違う作品で、すごく難しい役だったけれど自分としては誇りに思っていますし、『レ・ミゼラブル』も経験した事のない役で、また別のチャレンジでした。ウォシャウスキー監督の『ジュピター』はSFで、今までまったくやったことがないタイプの作品です。安心できない場所に身を置き演じることで、よりいい味を出していけるんじゃないかなと思います。

『ファンタスティック・ビースト』

(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

『リリーのすべて』

2016年3月18日(金)公開

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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