壊滅した純粋なWG。マンジュキッチに見る、ストライカー型選手のサイドハーフ化。
弾丸のように、サイドを駆け上がる。放たれたクロスボールがFWの頭に「点」で合い、ゴールが生まれる。
一昔前まで、それがサイドアタッカーの役割だった。だが分業制が進んだ現代フットボールにおいて、彼らのタスクにも変化が生じている。
■ストライカーのサイドハーフ化
ネイマール、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ヴィニシウス・ジュニオール、エロイ・サネ、モハメド・サラー、「ロベリー」と称されたアリエン・ロッベンとフランク・リベリー...。アビリティ(巧妙性)を備える選手が、サイドアタッカーに起用されるのは珍しくない。
だがマリオ・マンジュキッチのそれは異質だ。
ユヴェントスを率いるマッシミリアーノ・アッレグリ監督は、マンジュキッチにサイドハーフとしての素質を見いだした。スタミナ、走力、ハードワークを厭わない姿勢。マンジュキッチの能力を生かし、チームに利をもたらすために、彼をサイドに配置した。
アッレグリのユヴェントスは4-3-3と4-4-2を使い分ける。マンジュキッチは時として「4人目のMF」になる。臨時のMFと化すのだ。
苦しい展開では、前線で体を張り、起点を作る。ディフェンスラインと中盤が上がる時間を稼ぐ。マンジュキッチがいるから、チームは呼吸できる。酸素不足にならない。マンジュキッチの貢献度は計り知れない。
今季開幕前、ユヴェントスにクリスティアーノ・ロナウドが加入した。だがマンジュキッチはレギュラーポジションを譲っていない。セリエA第27節終了時点で8得点7アシスト。C・ロナウドを生かしながら、チームのために働き、結果を残している。
攻撃に重心を傾けた際にはオールドタイプのストライカーに変貌する。クロスに対してサイドから中央に飛び込み、空中戦に弱い相手のサイドバックと競る形でミスマッチを生む。この「マンジュキッチ型」の戦術で、ユヴェントスはチャンピオンズリーグのアトレティコ・マドリー戦でC・ロナウドがフアンフラン・トーレスに競り勝ってヘディングで先制点を記録した。
■前例
マンジュキッチがサイドハーフで起用されるのは、これが初めてではない。マンジュキッチにサイドハーフとしての才を感じていたのはディエゴ・シメオネ監督であった。
アトレティコ・マドリーは2014年夏に移籍金2200万ユーロ(約27億円)を支払い、バイエルン・ミュンヘンからマンジュキッチを獲得した。マンジュキッチは、同年夏にチェルシーに移籍したジエゴ・コスタの後釜として、アトレティコに加入。マンジュキッチの到着でシメオネ監督は戦術の変更を検討していた。
コスタだけではなく、チアゴ・メンデスというポジショナルなMFを失っていたアトレティコで、シメオネ監督はサイド・アタックとクロス攻勢を仕掛けようと思いついた。堅守速攻の戦い方を維持しながらマンジュキッチの空中戦の強さを生かそうと考えたのだ。導き出された答えが、マンジュキッチのサイドハーフ起用だった。
2014-15シーズン、リーガエスパニョーラ第22節のレアル・マドリー戦で、それは実践された。右MFに据えられたマンジュキッチは、対峙するファビオ・コエントランと右CBのナチョ・フェルナンデスを蹂躙。1得点2アシストで、アトレティコの4-0の勝利に貢献した。
しかしながら、グアルディオラ監督とそりが合わず追われるようにバイエルンを去ったマンジュキッチを、シメオネ監督でさえうまく扱えなかった。14-15シーズン、リーガで12得点を挙げたマンジュキッチだが、第24節アルメリア戦を最後に無得点が続いた。14試合ノーゴールのまま、わずか一年でアトレティコを退団している。
■時代の変化
また、かつては右サイドに右利きの選手が、左サイドに左利きの選手が配置されていた。だが現在は、両サイドに逆足の選手を置く傾向がある。
昨季5大リーグで得点王に輝いた選手のうち、2人がWGの選手だ。メッシとサラーは、まさに逆足ウィング型である。
マンマークではなく、ゾーンの守備が主流になった。そして、現代フットボールにおいてはトランジションが非常に重要であり、攻守一体のスタイルが求められる。
メッシやサラーのように圧倒的な決定力を示す。またはマンジュキッチのように、新たな戦術の可能性を指揮官に提示する。それが現在のサイドアタッカーの役割となっているのかもしれない。
以前、「11番」あるいは「7番」と呼ばれた純粋なWGというのは滅びつつある。それでも、ニュータイプのサイドアタッカーが、試合の鍵を握っているのは確かだ。