Yahoo!ニュース

【独自】「防衛費GDP1%超え」中期防で検討 外交筋 安倍首相がトランプ会談で約束か

木村正人在英国際ジャーナリスト
日本が調達を進める米軍輸送機オスプレイ(写真:Motoo Naka/アフロ)

日本はさらに「普通の国」になる

日本の国防・安全保障政策を担当する外交筋が筆者の質問に対し、国民総生産(GDP)比の1%内に収まっていた防衛費について「今の防衛予算ではもはや十分ではない。今年末に検討作業が始まり、来年に結論を出す2019~23年度の中期防衛力整備計画(中期防)で重要な2つの柱は防衛費の規模と能力だ。注視しておいてほしい。日本はさらに『普通の国』になる」と、1%超えするとの見方を示しました。

安倍晋三首相の訪米を控えた2月2日の衆院予算委員会で日本維新の会の下地幹郎氏は次のように質問しました。

「GDPの1%枠を明確に超えて装備を充実させていくというようなことをしていかなければいけない。アメリカがこの国から徐々に撤退していっても、しっかりと自分の国は自分で守れるというような、1%枠を明確に超えてやっていくんだということを示すことがトランプ政権と互角の話し合いをするのに必要」

安倍首相はこう答えています。

「1%枠は既に閣議決定により撤廃をしている。GDP比1%枠というものがあるわけではないが、大体1%で推移しているのは事実。わが国の防衛に必要な人員や装備品の要因と安全保障環境の対外的な要因の双方を踏まえる必要がある」

「中国の国防費の異常な伸びと比較をすると、GDPと機械的に結びつけることは適切ではない。防衛関係費は10年連続で削減されてきたが、現在の中期防では5年間で実質平均0.8%伸ばす計画になっている」

凄まじい中国の兵器開発

画像

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータベースをもとにグラフを作ってみました。中国の国防費はまだアメリカには遠く及ばないものの、アジア太平洋の安全保障上のキープレーヤーである日本、韓国、オーストラリア、インド(積み上げグラフ)を合計した額よりも大きくなっているのです。

中国は南シナ海に滑走路付きの人工島を次々と作り、長距離地対空ミサイルの格納施設まで建造しています。制空権を確保し、南シナ海から米軍の艦艇や航空機を追い出すのが狙いです。中国の空対空ミサイルなど最先端兵器の開発スピードには凄まじいものがあります。

アメリカもこれに対抗するためF22やF35といったステルス戦闘機で敵領域の奥深く侵入し、後方に控える空のガンシップからさらに足の長い空対空ミサイルを発射して中国の制空権を突き崩す構想を描いています。しかし、アメリカが最先端兵器の開発競争に敗北すれば南シナ海は中国の手中に落ちたも同然です。

GDP比1%枠は防衛費の拡大に定量的な規制をかけるため1976年に三木内閣が閣議決定したのが始まりです。「当面、各年度の防衛関係経費の総額が当該年度の国民総生産の100分の1に相当する額を超えないことをめどとしてこれを行うものとする」という内容でした。

安保タダ乗り論

「軽武装、経済中心」の吉田ドクトリンに批判的だった中曽根康弘首相は84年、将来的にGNP (当時)1%枠を撤廃すると明言しました。87年度の防衛費は GNP 比で 1.004%となり、1%枠を突破しました。その後、新しい歯止めをかけるため中期防による総額明示方式が導入されたのです。防衛費が1%を上回ったのは87~89年度、2010年度の計4回しかないそうです(東京新聞)。

画像

一方、SIPRIデータベースによると、09年1.02%、11年1.03%、12年1.01%と民主党政権時代に3回も1%枠を突破していたことになっています。

中曽根首相が1%枠を撤廃したのは、日本が高度経済成長を遂げ、アメリカ国内で「日本の安保タダ乗り」論が強まった時期でした。アメリカのトランプ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の目標である国防費のGDP比2%を達成していない国を「タダ乗り」だと攻撃し、NATOを「役立たず」「時代遅れ」と批判してきました。

中曽根氏が会長を務める世界平和研究所は1月の報告書で次のように指摘しました。

「NATOが GDP の2%の防衛費を標準とし、OECD 諸国が GDP の 0.7%を 政府開発援助(ODA) の標準としていることに比べ、日本の防衛費は1%に満たず、ODA は 0.2%程度である。これをトランプ大統領が理解し、受け入れるかどうかは、かなり疑問である」「当面は対 GDP 比 1.2%を目標水準とした防衛費を追求すべき」

破格厚遇の舞台裏

日米両政府は日本側が16~20年度の在日米軍駐留経費のうち9465億円(133億円増額)を負担することで合意しています。16年度の在日米軍駐留経費は1794億円、17年度は2039億円です。中国の軍拡に対抗するため、滞空型無人機グローバルホーク、V22(オスプレイ)、ステルス戦闘機F35などアメリカからの巨額調達が続きます。

安倍首相は、トランプの当選が決まった昨年11月、ニューヨークのトランプタワーを訪れ、トランプと1時間半近く会談しました。

日米首脳会談後の共同記者会見で固い握手を交わす安倍首相とトランプ大統領(首相官邸HP)
日米首脳会談後の共同記者会見で固い握手を交わす安倍首相とトランプ大統領(首相官邸HP)

大統領就任後の今年2月に訪米した際は、大統領専用機エアフォースワンでフロリダ州に移動、トランプナショナルゴルフクラブの「マララーゴ」ゴルフコースでプレー、トランプの別荘に泊り、4~5回も会食するなど、世界中の指導者がうらやむ厚遇を受けました。

日米共同声明では日米安保条約第5条が沖縄県・尖閣諸島に適用されることが確認されました。懸念された日本の対米貿易黒字や日銀緩和による事実上の円安誘導への批判は表面化せず、安倍首相にとっては「100点満点」と言える日米首脳会談になりました。

ゴルフでハイタッチする安倍首相とトランプ大統領(首相官邸HP)
ゴルフでハイタッチする安倍首相とトランプ大統領(首相官邸HP)

日米首脳会談では、日本がアメリカからの調達で防衛費の拡大と防衛能力の向上に務め、日米同盟における日本の役割を強化することが安倍首相から約束されたとみてほぼ間違いないのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事