内々定者20名以上に「内定取り消し」、BluAgeとはどんな企業なのか
不動産DX事業を行うスタートアップ「BluAge(ブルーエイジ)」が2022卒の内々定者20名以上に対して「内定取り消し」を行ったとして、現在炎上している。
最初は内定取り消しを受けた就活生がTwitterで暴露し、ツイートが拡散された結果、ニュースサイトやまとめサイトが報じて広く知られるところとなり、同社も謝罪文を出すに至った。
今回は渦中のBluAgeがどのような企業だったのか、そしてなぜ内定取り消しが起きてしまったのかについて考察したい。
追記:続報として、BluAge社の関連会社と噂されるCraxis(クラシス)社についての調査を行った。BluAge社の仲介担当社員が転籍させられているという話もあるため、こちらも併せてご確認いただきたい。
https://news.yahoo.co.jp/byline/sakaikazuki/20211108-00266971/
【BluAgeとはどんな企業か】
同社は不動産分野のスタートアップであり、現在設立3年目だ。
創業者は東大卒・外資系金融のメリルリンチ出身の佐々木拓輝氏であり、今年9月にはエンジェル投資家グループの Angel Bridge、NTTファイナンス、ABCドリームベンチャーズなどから12億円を資金調達した。
事業としては「CANARY(カナリー)」という不動産物件検索アプリの開発・運営や、不動産会社向けのCRM・マーケティングオートメーション支援などを行っている。
ただし創業当時からこの事業を行っていたわけではなく、元々は「ギグワーカーを活用した不動産仲介」を行うというコンセプトで立ち上げられたという。
(ギグワーカーの意味がわからないという方のために補足すると、UberEatsなどのように個人事業者を活用し、不動産の内見や契約業務を担当させるというビジネスモデルを検討していたようだ。)
しかしその事業コンセプトは実現困難だったため、何度かの方針転換を経て今に至っている。
この「方針転換」が内定取り消し事件にもつながる問題であると考えられるため、後ほど解説したいと思う。
【新卒採用は2年目】
同社は設立3年だが、新卒採用を行うのはすでに2022卒の就職活動で2年目だったという。
現在はすでに削除されているが、リクナビやマイナビなどの大手ナビサイトに募集情報を掲載するという一般的な採用活動を行っていたようだ。
注目すべきはその採用人数。同社はまだ50名規模であるにもかかわらず2022卒で50名の採用予定を掲げ、47名に内々定を出していたのだ。このような無茶な採用を行う企業は、昔はよく見かけたが最近では珍しい。
今回の内定取り消しで内定者は26名まで減ったとされるが、それでも急激な拡大を目指していたと言えるだろう。
(なお、新卒採用一期生の2021卒では15名が入社しているようだ。)
内定者の話によると、内々定の受諾後、彼らは「宅建」の資格勉強を会社から求められていたという。宅建は、不動産仲介などを行う際に重要事項の説明や契約書への記名/押印をするために必須となる資格である。
(追記:宅建試験は年一回であり、基本的に試験は10月、合格発表は12月となる。そのため、内々定者の宅建試験合否が内々定取り消しに影響していることは無いと考えられる。)
しかし不動産系の会社とはいえ、アプリ開発・運営やDXを手掛ける企業でなぜ宅建を勉強する必要があったのだろうか。
もちろん不動産アプリを作るなら宅建の知識はないよりあった方が良いという考え方もあるが、同業態のIT企業で内定者に宅建の勉強を求めている事例はほとんどない。あるとすれば、自社でも仲介事業を行う場合だろう。(なお筆者も宅建を持っているが、その知識が物件検索アプリの開発に必須だとは正直思わない)
【方針転換で、個人向け営業担当が不要に? 】
この謎を解く上での鍵の1つが、今年夏〜秋にかけての同社の方針転換にあると筆者は考えている。
2022卒採用を活発に行っていた当時、同社は「アプリ利用者に対してBluAge自身が不動産仲介業を行う」ことを主力事業としていた。つまり業務の中で宅建資格が必要になる可能性があったのだ。
現在50名程度在籍しているスタッフも多くは仲介業を行うために増員されたとされており、そのビジネスモデルで拡大するためにはさらなる営業人員の確保が急務であったと言える。
今年6月頃に書かれた同社代表のインタビューでも「仲介の営業組織体制」などについての言及が多く見られる。
しかし今年の夏〜秋頃のタイミングで、この方針は大きく転換されている。
下記はBRIDGEというスタートアップ系ニュースサイトにて、BluAgeが取り上げられた記事であるが、その中に注目すべき記述がある。
つまり、宅建資格者を擁して個人に対する不動産仲介を行うことは、同社の主たる業務ではなくなってしまったということだ。
ビジネスモデルが転換され、同社の営業先は「不動産関連のポータルサイト運営者」「不動産管理会社・仲介会社」などになった。
そうなると営業はBtoB(法人向け)となり、個人向けとは求められるスキルセットが異なってくる。
ビジネスモデル転換後の同社は他の不動産会社への送客やCRM、マーケティングオートメーションなどのサポートをする方針になったということなので、宅建の勉強をするよりも、広告営業やマーケティングなどの知識が必要になってくるだろう。
同社の謝罪文では言及されていないため推測も入ってしまうが、状況を見た上で考察するならばビジネスモデルの転換により内々定者の人数が過剰になってしまい、同時に内々定者に求められる資質も変わってしまった可能性が高い。
また、皮肉にも同社の内々定者の辞退比率は低かった。
(現在の就活は内々定者の辞退が非常に問題になっており、企業によってはある程度辞退者を織り込んで多めに内定者を確保するケースもある。企業によっては3~4割が辞退するという例もある。)
辞退者が少ない中、「過去のビジネスモデル」を基準に内定出ししてしまった学生を全員入社させれば大きな負担になり得たことは容易に想像できる。
【新卒採用をまだするべきではなかった】
スタートアップが状況に応じて事業転換をすることは仕方がない。
しかし仮にそれが内定取り消しの原因であったとして、初めて就職する学生の第一歩を軽んじて良いものではない。
事業方針が変わるかもしれないのに新卒を大量採用するというのは、不動産で喩えるならば「いつ転勤することになるかもわからないサラリーマン」が会社のすぐ近くに家を建てようとするようなものだ。方針転換というリスクがある事は仕方がないにせよ、そのリスクを抑えようという意識が低かったのではないだろうか。
内定出しから入社・戦力化まで時間がかかる新卒採用は、基本的にもっと長期スパンで考えなければならない。
そして50名規模の企業が50名近い内定者を出していたということだが、仮に内定を取り消さなかったとしても、それだけ大量の新人が入れば満足に育てることもできなかっただろう。
事業の状況から考えても、組織の状況から考えても、同社はまだ新卒採用をするべきではなかったと筆者は考える。
【採用の知識は身につけられても、企業の根本が変わるのは難しい】
企業がこのような事件を起こした時、それを「偶然の事故」だと捉えてはいけない。
こういった事案は起こるべくして起こるもので、報道され物議を醸した部分だけが直されたとしても残念ながら全ての歪みが是正されることはめったにない。
同社の事業に関する柔軟さは非常に素晴らしく、優秀な経営者なのだろうと感じられる。だが学生が就職すべき企業としてはオススメできない。
これは未成熟だからということではなく、「そういうスタンス」で人材に向き合う企業だからだ。
採用の知識や作法はこれから身につけられるかもしれないが、根本部分はそう簡単には変わらない。特にスタートアップ企業の場合、経営陣が入れ替わらない限り企業としての体質はそのままだろう。
この事件を知った方は、「このような会社には市場から退場して欲しい」と願っている方もいるかもしれない。
だが、こういったタイプの企業は一時的な批判など物ともせずそのまま成長することも多い。転職クチコミサイトではボロクソに書かれながらも売上を伸ばし、なんやかんやで上場できるくらいまで行った企業を筆者は何社も見てきた。
「勝てば官軍」ともいうが、その過程では犠牲になる人材もいる。そういった事例は、ゼロになることはないだろう。
今回このニュースを読んだ学生は「そんな企業もある」ということを十分に胸に留めてほしい。
追記
記事公開後、「ブルーエイジはコーポレートサイトに免許番号を載せていないので宅建業者ではないのではないか」という意見をいただいた。
せっかくご意見いただいたので参考までに補足すると、2021年2月時点の同社のコーポレートサイトには免許番号が記載されている。今年2月は、22卒学生の採用広報が解禁される前ということになる。
現在はコーポレートサイトがリニューアルされており、免許番号も記載されていない。(また、上記の所在地も移転前の住所となっている。)
なお、この一年で本社が四ツ谷駅に移転しただけでなく、本社以外でいくつか存在していた支店(御茶ノ水、町田、中野)も全てなくなっている。
試しに上記の免許番号を宅地建物取引業者のデータベースで検索してみたが、すでに登録抹消されているようでヒットしなかった。(同社の創業年を考えると、勝手に期限切れになるにはまだまだ早いので同社が自主的に抹消したと考えるのが自然だろう。)
以上のことから「以前ブルーエイジ社が宅建業者として登録されていたこと」「現在はもうその登録は抹消されていること」がわかる。
現在もう業者登録されていないということは、内定者に宅建の勉強をさせる意味ももう無いということだ。