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ノルウェー規制緩和停止へ、政府「マスクよりも1m距離のほうが感染防止効果がある」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
8月6日のオスロ市内の様子 撮影:あぶみあさき

北欧ノルウェーでは新型コロナ感染者数が少しずつ増えつつある。

ノルウェー公衆保健研究所FHIは「感染率はまだ低い」とはしながらも、3・4月のようなロックダウン(外出禁止令なし)の二の舞を踏まないために、今から対策をしたいという意向を明らかにした。

「夏の休暇は終わったと、皆さんも感じているでしょう」とベント・ホイエ保健・ケアサービス大臣は7日に記者会見を開く。

「またコントロールを失うような事態になるかどうか、一か八か賭けることはできません。これ以上人との接触が増える状況は受け入れられないのです」。

8月に人の移動が活発することを踏まえて、誰もが気をひきしめる必要があり、一部の規制の緩和の見送り・厳格化を発表した。

主な変更は以下の通り

  • 公衆保健研究所が感染率が高いとする「赤色」の国からの帰国直後は、空港などから自宅に戻るまでマスク着用要請
  • 8日から24時以降の飲食店でのアルコール提供を禁止
  • ラッシュアワーを避けるために在宅勤務の要請、可能であれば仕事先へは徒歩か自転車で。週2~3日の在宅勤務ができるように、社員の柔軟な働き方を可能にするように企業に対応を求める
  • 感染率の低い国・高い国に関わらず、不必要な旅行の自粛要請
  • 大規模な行事の規制続行(集会は200人までという上限で規制続行、9/1以降に緩和予定だった500人以上の行事や大人のスポーツ行事は見送り)
  • 映画館や会議場では1メートルのソーシャルディスタンス続行

感染率が低くても他国への渡航は控えて

感染率が低いとされている「緑色」の国でも不要な渡航を控える要請について、すでに航空券などを買った人には「もう一度考え直すように」保健大臣は呼び掛けた。

緑色指定の地域が急に「赤色」になると、ノルウェー在住者は10日間の自宅待機を義務付けられる。

規制の再強化を政府に要請したのは専門家が集まる公衆保健研究所。その理由は:

  • 感染が再拡大している背景がまだはっきりしていない
  • 夏の休暇が終わり、人の接触が増えることによってもたらされる結果が未知数
  • 自治体の負担を増やさないため
  • 「感染拡大を抑えられている」とされていた欧州他国で感染者がまた増加し、警戒措置を取り始めているから

マスク着用要請は8月中旬か、混雑する公共交通機関を対象に

マスク着用要請については、政府は改めて詳細を8月14日に発表する予定。

人との距離がとることが難しい混雑時・ラッシュアワー時の公共交通機関が特に問題視されており、1日中マスク着用を求めるよりは場所と環境条件を限定して要請するとみられている。

マスク着用は他の感染防止対策の代替手段にはならない

保健大臣と公衆保健研究所は「マスク着用よりも互いに1メートルの距離をとっているほうが感染防止効果がある」として、「マスク着用が1メートル距離、手洗い、病気の時は自宅で過ごすという他の対策の代替手段になることはない」と強調した。

マスク着用は北欧共通で実践していきたい

マスク着用について公衆保健研究所は、感染率が高いスウェーデンは例外として、状況が似ている北欧各国と今後連携したいとも話した。

物価が高いノルウェーでは、経済的に余裕がない子どもがいる家庭ではマスク購入が難しいことも指摘されている。

保健大臣は「何度も洗って使える布マスクを推奨する可能性もある」と話す。

記者会見では現地メディアからマスクに関する質問が相次いだが、まだ専門家との話し合いもあるために、来週まで待つように答えた。

マスクの着け方を情報周知する時間も必要なため、市民が今週末に急に薬局にマスクを買いに行く必要はないとも付け加えた。

家庭の経済状況によっては「マスクを無料配布したほうがいいのでは」という意見も出ている。保健省はこれに対しても可能かどうか検討中。

一部の自治体の公共交通機関を運営する会社は、乗客にマスクを無料配布したい意向を示している。

公共交通機関でマスク着用は「義務化すべき」という声も出ている。誰もがマスクを購入する余裕があるわけではなく、なんらかの理由でマスク着用ができない人もいることから反対する人もいる。

第2波は否定

保健局のグルヴォググ保健局長は、「ノルウェーではまだ第2波が起きているとはいえない」とコメントした。

新しいノーマルが始まる8月、我慢・責任を持って行動を

ノルウェーでは8月にはさらなる規制緩和が発表されると期待されていた。

今回の政府の発表にイベント主催者、文化・スポーツ業界からは落胆の声もあがっている。

ノルウェーではもともと政権が右派であれ左派であれ、アルコールに対する考え方は保守的で厳しい。

24時以降のアルコール禁止令は、夜中のアルコール販売で利益を出す飲食店にとって大きな悩みの種となる。

代わりに家で飲み会をする人が増えて、結局は感染者が増えるのではと心配する声もあがっている。

新学期開始、飲み会の増加を心配する政府

できるかぎり子どもが保育サービスを受け、若者が教育現場に通い、医療現場の負担を増やさないためには、誰かが規制厳格化措置の対象になる。今回は大人に我慢をお願いする形となった。

8月は大学の秋学期が開始され、新入生が同期や先輩と交流するための伝統的な社交週間がある。これはノルウェーでは大事なカルチャーの一部なので、この時期を逃すと学生生活や若者のメンタルヘルスに長期的な悪影響を与える可能性もある。

友人作りの交流を制限することは政府はできれば避けたい。夜遅くまでのアルコールを伴う飲み会には気を付けるように、保健大臣は念を押した。

一部の若者が大人数で飲み会などをする現状は、「政府が若者とうまくコミュニケーションできていないからでは」という指摘も報道陣からあがっている。

参考資料:ノルウェー政府公式HP、公共局NRK、VG紙、Aftenposten紙

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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