SNSとファッション戦略で差別化 「ULTRA JAPAN」の成功秘話
既存の音楽ファンだけでなく「ファッション」や「SNS」でも人々を巻き込み、音楽フェスの概念を変えた、都市型音楽フェス「ウルトラ・ジャパン(ULTRA JAPAN)」が今年の9月15〜17日で開催5年という節目を迎えた。そこで「一体どのようにして、新しい価値観が生まれたのか?」という疑問をもとに、実行委員会にインタビューを行った。そこにはブランディングビジネスのヒントとなるような考え方やSNSの投稿における工夫があったーーー。
「ULTRA JAPAN」は、毎年3月にアメリカのマイアミで開催している世界最大級の音楽フェスティバル「ウルトラ・ミュージックフェスティバル(ULTRA MUSIC FESTIVAL)」の日本版。「ULTRA」ブランドは世界20カ国で開催し、2017年の全体統計では100万人以上を動員、1028組のアーティストが出演している。日本においては2日間開催だった初年度の2014年は約4万人、3日間開催となった15年は約9万、16、17年はそれぞれ12万人を動員している日本最大級のエレクトロニック・ダンス・ミュージックのイベントだ。
「トレンドファッションを楽しむ」フェス
「世界的に著名なアーティストを呼んで音楽フェスを開催する」ということはよくある話だが、このイベントの最大の特徴と言えるのは来場者だ。「ULTRA」が日本に来るまでは、「音楽フェスはアーティスト(音楽)を楽しむ」ことが第一目的で、その延長線上にファッションがあった。一つは「フジロック・フェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」を代表とする自然環境下における「環境対策としてのファッション」、もう一つは「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル(ROCK IN JAPAN FESTIVAL)」を代表とする好きなアーティストのグッズを着る「ファンとしてのファッション」が存在し、その中で各々がオシャレを楽しんでいた。だが「ULTRA」が日本に上陸したことで「トレンド(今)を楽しむためのファッション」という価値観が生まれた。
フェスファッションに衝撃を与えた、チーム&ペアコーデ
「トレンド(今)を楽しむためのファッション」と言ってもいろいろあるが、いくつか「ULTRA」のファッションとして特徴的なものを紹介する。中でも名物と言えるのが、複数人が同じ格好をする「チームコーデ」と2人が同じ格好をする「ペアコーデ」と呼ばれるファッションスタイル。
チームコーデ
ペアコーデ
肌の露出が多い
厚底やヒールも
このようなファッションを生んでいるのはお台場というロケーションによるところも大きい。都内在住者にとってはアクセスがしやすいが、理由がないと行かない場所でもあるためほどよい非日常感がある。そして自然環境下でないため、気象変化も少ないので自宅から身軽に行きやすい。地方や海外から来る人にとってもホテルに困ることもない。気軽に行ける条件が揃っているからこそ“いつもより気合いが入ったファッション”をしやすい「東京開催」であることの強みだ。
音楽イベントの常識を覆すルール作り
出演者や会場内の撮影はOK
ここからは一体どのような戦略を生み出したか分析していく。まず「ULTRA」の特徴的な施策と言えるのが、来場者に対して「スマートフォン、カメラ付き携帯電話での撮影に限り会場内の撮影をOK」としていること。日本ではアーティストのライブ模様をSNSに投稿して炎上することも多いが、「ULTRA」は出演者や来場者の映り込みなどに対して、チケット券面などの呼びかけによる肖像権問題をクリアするための文言や文化を作ったことで、運営や来場者のSNSからはDJや来場者のファッションなど、多彩なフェスの一面をみることができる。
タオルを一切販売しない理由
「ULTRA」のコンセプトの一つに「イベントが終わった後にそのまま直ぐに街で遊べる」ことがある。つまり、来場者には「オシャレな格好でフェスに来てほしい」という願い。そのため、初年度から作為的にイメージをコントロールしたことの一つにオフィシャル及び協賛ブースでは「マフラー型などのタオル類は一切販売しない」というルールがある。「タオルを販売している」「タオルがもらえる」は音楽イベントにおいて当たり前の要素であり、運営側にとっては売上の見込みも立ちやすいアイテムだ。また来場者にとっても最大の思い出になるお土産になる“ハズせないアイテム”。常識では考えられない戦略をとった理由は「どんなにオシャレをしても、タオルを巻いたら台無しになるから」だ。
そのため協賛ブースに対しては「イベントが終わった後でも街で利用できる、バンダナなどのファッション・アイテムを提案した」という。これまで日本の音楽フェスでブース展開していなかった、H&Mやガールズブランドで人気のマークスタイラーやバロックリミテッドジャパンなどが協賛に入り、運営側と協賛側で一緒にマイアミの傾向を分析して「ULTRA JAPAN」用のアイテムやブースを作ってきた。このようにフェスブランドや来場者のことを主軸に施策を講じてきたことが今日に繋がっている。
運営と来場者が作る“ファッションの教科書”
SNSによって情報を選別発信
フェスに行く前、必ずと言っていいほど来場者が調べることの一つとして「何を着ていくか」にある。通常、音楽イベントのSNSアカウントはアーティスト情報を積極配信し、ファッションなどの来場者の装いはファッションメディアのスナップページに頼っていることが多い。「ULTRA JAPAN」の場合は、「フェイスブック」をオフィシャルホームページのように使い、「ツイッター」を情報拡散のため、そして流行りの「インスタグラム」はイメージコントロールとして、それぞれのSNSの特性をいかして出す・出さない情報を選別して発信している。中でも、イメージの要といえる「インスタグラム」では前述した肖像権の強みをいかして、自国のアーカイブやグローバルのスナップを分析し、トレンドや日本人の相性を鑑みて積極的に来場者スナップを投稿している。
ハッシュタグで情報を使い分ける
「ULTRA JAPAN」はイベント情報を総合的に集約する#ultrajapan(24万投稿)というハッシュタグがあるが、投稿が多すぎて目的を持って探すには見づらい。そのため、#ultrajapan2017(2万4000投稿)というような年ごとのハッシュタグもある。だが、それでもファッションのような特定の情報を集めるのには不向きだ。そこで「ULTRA」にまつわるファッションだけを集積するため、「ULTRA」と「ootd(今日の服装という意味)」を足し合わせた#ultraootd(1万1000投稿)と呼ばれるハッシュタグを作り、来場者が「ULTRA」で着るファッションやアイテムをSNSに投稿するようになった。初めて行く人であれば「このイベントはこういう格好で行くといいのか」、経験者であれば「今年はこういうトレンドなのか」というように情報を入手して、自分たちなりの最新ファッションを表現してくる。ここではDIYと呼ばれる来場者自身がユザワヤなどで材料を購入して加工したカスタマイズ・アイテムもみることができる。このようにして運営と来場者による、「ULTRA」における“ファッションの教科書”がSNS上で生まれた。
こうして既存の音楽ファンを取り込むだけでなく、エレクトロニック・ダンス・ミュージックに関心や興味がある潜在層をSNSやファッションを通じて精力的に取り組んだことで、3日間で12万人を集客する新しいフェス・カルチャーが生まれた。一見すると音楽イベントという特殊な業界に見えるが、ブランディングを作る上でのルール作りやSNSの運用など、さまざまな部分でビジネスに繋がるヒントが隠されていた。
写真提供:ULTRA JAPAN