人間は必要なくなるのか? AIがアイドルやモデルを自動的に生み出す時代に
あなたは人間との違いに気がつく?
今から12年前。2007年に初音ミクが誕生してからバーチャルアイドル市場が生まれ、最近ではバーチャルモデルやVtuberといった新たなバーチャルヒューマン市場が注目されるようになっている。いずれも人間の手によって生み出され、どこかバーチャル感を残した外見。それだけに「人間とは違う存在」として考えることができた。だが、いよいよ「人間と見分けが付かない存在」になろうとしている。しかも「それを人間の手ではなく、AIが自動的に作れる時代にーーー。
ここまで大きく言うと、「いやいや」と疑ってかかる人も多いだろう。だが、これを見たら「画面さえあれば、アイドルやファッションモデルは実在しない人間でも生み出せてしまう」と考えを改めるはずだ。
23歳で起業し、わずか3年で作り出したAI
実在しない人間をこれだけのリアリティに仕上げるだけでも驚きだが、この「自動生成AI」という技術を作っているのが、日本の企業であること。そして大企業ではなく、創業2年の青年が立ち上げたデータグリッドという会社によって生み出されたというのだから更に驚きだ。
興味の赴くまま、開発元であるデータグリッドの岡田侑貴社長(以下、岡田社長)に話を聞いた。これから「実在する人間」の役割は、「実在しない人間」に代わってしまうのか?私達の仕事や生活にどのような影響を与えるかを考えていきたい。
さかのぼること3年前。会社設立前、岡田社長はどんな社会が理想的かを想像した時に「人の好みによってコンテンツ(ゲームやショッピング等)を受け取れる世界」と考え、2017年7月にデータグリッドを設立した(当時23歳)。そして「人の好み」を表現するには人間が担当している作業を代替できる存在としてAIに着目し、リアリティの高い外見作りを目指した。そして、起業から1年後の2018年に「アイドル自動生成AI」が誕生した。
彼らがユニークなのは、単に人間を代替する為のAIではなく、AIが人間の作業量をサポートすることで、これまでにない創作物を生み出すことを願っていることだ。人間ファーストでAIの在り方・作り方を考え、この研究を「クリエイティブAI」と名付けた。
量産・低コストで社会へ導入
そして「実在しない人間の顔の自動生成」に成功した彼らは、今年4月に冒頭の動画「全身モデル自動生成AI」の開発に成功した。そこでいち早く目を付けたのがゴルフウェア等を展開する本間ゴルフだ。自社の新作ウェアのカタログで「実在するモデル」を1人も起用せず、「実在しないモデル」だけに服を着させた。
まだ自社開発や特定企業との協業だが、岡田社長は「できるだけ量産・低コストで社会に導入できることを目指している。だが領域を広めたり、個性を作るのは人間の仕事としてあり続ける」と語るように、いつかは中小企業でも「実在するモデル」を使わずにモデルを使った業務を行うことができる未来が来そうだ。
どんなモデルが実在人間であり続けるか?
岡田社長の話を聞いて、画面さえあればモデルが人間ではなくなる日は確実に来ることが実感できた一方で、「人間がモデルであるべき」ということも見えてきた。では、どんなモデルが実在する人間であり続けるか?モデルのカテゴリーを大きく5つに区分してみた。
ランウェイモデル
文字通り、ファッションショーのランウェイを歩くモデル。ランウェイの他、ブランドの広告やルックブックと呼ばれるブランドのシーズン毎のカタログ、ランウェイ系のブランドが登場する雑誌に出演。ルックスやスタイルだけでなく、ウォーキングやポージングなどの表現力が求められる。
専属モデル
特定の雑誌と契約し、その雑誌の表紙、中面、タイアップに出演。主に芸能やモデル事務所に所属しているモデルが多い。
読者モデル
特定の雑誌の読者代表として、その雑誌の表紙、中面、タイアップに出演。専属モデルよりも、ルックスやスタイルが読者に近く、親しみやすいのが特徴。
インフルエンサー
自身のアカウント(インスタグラム等)と一定数のフォロワーを要し、自身のアカウントを中心にブランドや雑誌に出演。ランウェイモデルはブランドのコマーシャルの顔として登場する一方、インフルエンサーはブランドのキャンペーンに参加する役割を担うことが多く、専属モデルや読者モデルは紙媒体が中心だが、インフルエンサーはウェブ媒体に出演することが多い。
イメージモデル
上記のようなブランドや雑誌などに出演するモデルに対し、イメージモデルは企業のカタログ、ECなどに出演するモデル。大手企業から中小企業まで様々。個性的なキャラクターよりも、企業や消費者への馴染みやすさが求められる。
この中で「モデルが人間ではなくなる」可能性が高いのが、イメージモデルだと思える。また既にバーチャルモデルやVtuberが出てきているインフルエンサー市場はこれからもマーケットとしてある限りは共存していくだろう。一方でランウェイモデルや専属モデルといった、外見・内面のブランディング、憧れや実在性を求められるモデルタイプはこれからも人間が必要だと考えられる。
可能性を作るのが人間の仕事
では、最後にどのようにしてイメージモデルが人間ではなくなるかを考えてみる。
想像1:人間を使った画像素材が無限大に?
これまでは実在するモデルで撮影していた画像素材だが、AIが背景写真と人間を合成することで様々なシチュエーションの画像素材が誕生する。企画書やバナーなどの書類やイメージ作りも捗るに違いない(人間が書類を作らなくなる可能性も高いが)。
想像2:モデル費用をグッと抑え、イメージ力を向上
データグリッドのような技術が一般にローコストで浸透するようになれば、多くのECサイトやD2Cブランド(消費者に対して商品を直接的に販売する仕組み)が恩恵を受けるだろう。また単に人件費削減という観点だけでなく「自分がイメージするモデル」にすることで、より企業やブランドの世界観を強く打ち出せるメリットもある。
想像3:自分の顔に似せて、ECサイトでショッピングできたら
会員登録する際にゲームでアバターを作る・選ぶ感覚で自分の顔に似せて服選びができたら、きっと購買率UPやショッピングの失敗は減るかもしれない。
想像すれば、まだまだ出てきそうだが、こういった考えることが岡田社長が言う「人間のクリエイターの想像を刺激し、これまでにない創作物を生み出す社会」のキッカケになっていくかもしれない。
これを読んでいる人の中にはAIに対する恐怖にも似た感情を覚えるかもしれない。だが岡田社長が「技術の発展で失業する可能性はあると思いますが、それはこれまでの歴史と同じように技術の進歩なので止めることができないと思います。人間が作業のような仕事をしなくてよくなれば、人間がより創造的な仕事に取り組める可能性が広がる」と言うように、その未来、その時に私たちがどうAIを利用できるかが重要だ。
岡田社長がITやAIに興味をもってから6年。取り組みを始めて3年。たった数年でここまでのものを作り出してしまうのだから、AIだけでなく人が持つ可能性に一番驚かされた。正に、自身が人間の仕事としてあり続ける領域を広める生き様を示しているとーーー。