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ちふれASエルフェン埼玉とマイナビベガルタ仙台レディースが迎えた劇的な結末(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
新体制1年目でリーグ優勝を狙う仙台(C)松原渓

5月14(日)に行われたなでしこリーグ第8節では、ちふれASエルフェン埼玉(以下:埼玉)がホームの鴻巣市立陸上競技場にマイナビベガルタ仙台レディース(以下:仙台)を迎え、仙台が1-0で勝利した。

仙台は今シーズン2度目の連勝で、2位INAC神戸レオネッサ、3位AC長野パルセイロ・レディースと勝ち点10で並び、4位に浮上した。一方、この試合に勝って最下位脱出を図った埼玉は、前節の浦和戦に続き2連敗を喫した。

値千金の決勝ゴールを決めたのは、仙台のFW西川明花だ。

西川は今シーズン3試合目の後半途中出場だが、前節のINAC神戸レオネッサ戦でも1-1で迎えた86分に決勝ゴールを決め、2試合連続で勝利の立役者となった。

「私はケイト(FWケイトリン・フォード)やハカ(FW浜田遥)のようにスピードやパワーがあるわけではなく、ドリブルも上手いわけではないので、ゴール前で仕事をすることが一番のアピールだと思っています。ゴール前に強い気持ちで突っ込んでいくのは得意なので、『絶対に決めてやろう』という気持ちで試合に入りました」(西川/仙台)

劇的勝利を引き寄せたストライカーは試合後、照れくさそうに言った。

【2人の外国人選手を活かす仙台】

仙台は今シーズンから指揮を執る越後和男監督の下、新たなチーム作りの真っ只中である。開幕から2連勝した後は勝てない試合も続いたが、前節、2位のINAC神戸レオネッサを下して5試合ぶりの勝利を納め、この試合を迎えた。

今シーズン、仙台で注目したいのが、オーストラリアから新加入したFWケイトリン・フォードとMFカトリーナ・ゴリーである。フォードは2016年、ゴリーは2014のAFC女子年間最優秀選手に輝いた、オーストラリア女子代表の主力選手だ。2人は第5節から揃ってスタメンに定着している。

この試合では、フォードをターゲットにしたロングボールと、重心の低いゴリーのドリブルが、縦に速い仙台の攻撃をより強固なものにしていた。

また、ゴリーとダブルボランチを組むMF佐々木繭が的確なポジショニングで彼女をフォローすることで、攻撃に幅が生まれていた。

一方、埼玉は前節、浦和レッズレディース(以下:浦和)に0-7で大敗しており、最下位から脱出するためにも浮上のきっかけをつかみたい一戦だった。

この試合で、埼玉はフォードをターゲットにしたロングボールに対策を立てて臨んだ。

「サイドからのロングボールに対してはしっかりとプレッシャーをかけることと、セカンドボール(を獲ること)や中盤でプレスバック(すること)も含めて、ゴール前でスペースを与えないようにしました」(元井監督/埼玉)

埼玉は、守備時にコンパクトな陣形を保ってロングボールを跳ね返し、両サイドがゴール前にクロスボールを入れる選手に対してプレッシャーをかけることで、仙台のパスの質を下げた。また、ボールを奪うと、ダブルボランチを組むMF高野紗希とMF中野里乃を経由し、2列目のMF薊理絵(あざみ・りえ)、MF高橋彩織、MF中村ゆしか、FW鈴木薫子が流動的にポジションを変えながらゴールを狙った。

しかし、仙台もDF北原佳奈とDF市瀬菜々のセンターバックコンビが息の合った連携でペナルティエリア内への侵入を許さず、右サイドバックのDF安本紗和子は左サイドハーフが高い位置を取る埼玉の裏のスペースを使ってカウンターを狙う駆け引きを見せた。

互いの固い守備を突破できず、両チームとも良い形でシュートまで持ち込むことができないまま試合は拮抗し、0-0で前半を終えた。

【試合が動いた終盤の攻防】

ゴールの匂いが漂い出したのは、後半20分を過ぎてからだった。

67分、埼玉は左サイドで中村が仕掛け、ゴール前にグラウンダーのパスを送ったところに中央から高橋がスライディングで滑り込んだが、伸ばした足はわずかに届かず。そして、埼玉は72分にFW高橋に代えてFW西山裕香、77分には中村ゆしかに代えてMF吉谷茜音を投入して前線を活性化し、ゴールを狙った。

一方、仙台も70分に左サイドハーフの田原のぞみに代えてMF佐々木美和、トップの浜田遥に代えてFW西川明花を投入。

さらに81分、仙台は右サイドハーフの安本に代えてDF三橋眞奈を右サイドバックに投入し、同ポジションのDF坂井優紀をサイドハーフに上げた。173cmの北原と三橋、172cmの坂井と、高さのある選手を前線に揃えることで、仙台はセットプレーから決定機を演出。72分に右CKから北原がファーサイドで相手DFに競り勝ち、78分と82分にも右CKで惜しい場面を作ったが、埼玉のDF陣はその都度ゴール前で体を投げ出してブロックを作り、粘り強く耐え抜いた。

そして、試合は終盤に突入し、スコアレスドローで終わるかと思われた後半アディショナルタイム直前。

仙台は自陣の右サイドから三橋が前線にロングフィードを送ると、西川がペナルティエリアの右隅でDF2人に囲まれながらボールを収め、中央から走りこんだゴリーとワンツーでゴール前に抜け出した。埼玉のDFがスライディングでブロックしようとしたが、わずかに間に合わず、西川はゴールライン付近の角度のない位置から右足を振り抜き、ゴール右上に豪快なシュートを決めた。

西川のゴールが決まった後、間もなく試合終了の笛が鳴り、試合は仙台が1-0で勝利した。

【リーグ優勝までのビジョン】

劇的勝利で勝ち点3を獲得した仙台だが、試合後、越後監督は内容面の課題を挙げた。

「ボールをつなぐことを意識すると、結局、背後の狙いは忘れがちになってしまうんです。相手の背後を狙うからこそバイタルエリアが空いて、相手にとって怖いサッカーになると思うので、そこ(の使い分け)をもう少し徹底して取り組んでいきたいと思います」(越後監督/仙台)

仙台は新体制で1年目のシーズンに臨んでいるが、今シーズンの目標には「リーグ優勝」を掲げている。その上で、今は目先の結果だけにこだわるのではなく、実戦の中でチームとしての確かなスタイルを築き上げていくことで、最終的にリーグ優勝を目指すという明確なビジョンが見えてくる。そのために越後監督は選手の判断を尊重しながら、毎試合、微調整を加えている。

仙台では最年少の19歳で、なでしこジャパンにも選ばれているDF市瀬は以下のように試合を振り返った。

「(仙台は)ボールを奪った後のスピードが去年よりもあると思いますし、縦に強い選手がいるので、そこでボールをキープすることもできていると思います。ただ、今のままだと相手も研究してくると思うので、今後はつなぎながら裏も狙っていく、という幅が必要になると思いますし、個人的には遠くを見ることで近くの選手も見えるように意識しています。はじめにFWを見て、(そこにパスを)出せなければ、ボランチとかサイドハーフにボールをつけるようなプレーができるようになると、もっと上(のレベル)に行けると思っています」(市瀬/仙台)

仙台は次節、5月21日(日)にホームの弘進ゴムアスリートパーク仙台に伊賀フットボールクラブくノ一を迎える。

【勝ち点「1」を積み重ねる難しさ】

埼玉にとっては、勝ち点を積み重ねる機会を逃した試合だった。

今シーズン2年ぶりに1部の舞台に戻ってきた埼玉は、平均年齢21歳前後の若いチームであるが、運動量と球際の粘り強さで泥臭く1点を目指し、内容的には決して悪くない戦いを見せてきた。第8節を終えて成績は1勝1分6敗だが、そのうちの6試合は1点差以内の接戦である。

しかし、先制ゴールを許すとそこから一気に崩れてしまう傾向があり、0-7で敗れた前節の浦和戦ではその悪循環を止めることができなかった。

この試合は大敗の後の難しい状況だったが、終盤まで粘り強く耐えながら反撃の機会も作っていただけに、試合終了間際に決められた1点は重かった。勝ち点を取ることがどれだけ難しいかということについて、埼玉の元井淳監督は以下のように話した。

「ホームで戦った3試合とも、あともう一つというところでしたし、最後の最後まで(粘る)というところで、僕自身も含めて改善していかなければいけないと思います。目の前の相手と戦うことや、球際で絶対に負けない強い気持ちを持ってプレーすることは、サッカーの本質として追求しなければいけないことです。ただ、それだけでは足りないということだと思います」(元井監督/埼玉)

21歳ながらキャプテンマークを巻き、ボランチとしてチームの攻守を司るMF中野は、開幕からの8試合を次のように振り返った。

「1部と(昨年まで戦っていた)2部では本当に違うな、というのが正直な感想です。1部でずっとやってきたチームは当たり前のことが当たり前にできているチームが多いのですが、自分自身も含めて、(埼玉は)それができていない甘さがあるのだと思います。ただ、その『当たり前のこと』が一番難しいと感じています。パスやボールコントロールひとつにしても、どこにボールを置くのかということや、相手が(プレッシャーに)来ていれば簡単にワンタッチを使う、逆に相手が来ていなければターンをする、ということは、周りを見ていなければできません。そういうところに(他チームとの)差があると感じています」(中野/埼玉)

埼玉で11年目のシーズンを迎え、1部での実戦経験も豊富な薊は、今のチームの課題を以下のように分析する。

「今までは『惜しい』と言われる試合も続いていましたが、0-7で負けたレッズとの試合で、今の自分たちの力はそのレベルなのではないか、ということを改めて突きつけられた気がしました。連続で失点した時に立て直せない部分など、大事なところで気持ちが入っていたかな?と感じたんです。今までは1人で2人のマークにつけていたところでも、良いところにポジション取りをしてくるチームに対しては、誰かがサボったらそのスペースを使われてしまう。そういうところが、今まではなんとなくごまかせていたのではないかな、と。ちょっとした運動量や、サボる部分を無くしていかないと、この先はないと思っています」(薊/埼玉)

ちょっとした詰めの甘さが大量失点を招くこともあれば、接戦をものにするのもまた、わずかな「詰め」である。

ただ、その中でも「チームとして成長している手応えを感じている」と、薊は言った。

厳しい現実と向き合いながら、試合ごとに成長している埼玉の今後に期待したい。

埼玉は次節、5月20日(土)にアウェイの長野UスタジアムでAC長野パルセイロ・レディースと対戦する。

試合詳細

なでしこリーグ(1部)他会場の結果・日程 

なでしこリーグ(1部)順位

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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