悪性リンパ腫を乗り越えた元保護猫。それでも耐えることが難しかった意外なこととは?
犬や猫でも悪性リンパ腫になる子は、珍しくない時代になりました。
猫のいちごちゃんは、当院に来てもう4年ぐらいです。初めは眼窩と鼻腔内の悪性リンパ腫で治療をしていました。当時は、週に3回ぐらい来院し抗がん治療の末、うまく寛解しました。
そんな治療にも耐えたいちごちゃんですが、それでも乗り越えにくいものがあったのです。今日は、その話を書くことにします。
いちごちゃんの異変とは?
いちごちゃんは、悪性リンパ腫を寛解しましたが、再発や転移をするとよくないので、月に1回、血液検査などの健診に来ます。前から皮膚が弱く注射の跡を掻くので、普段から服を着ています。その日は、腹部も全部覆う服でなので、どうしたのかな、と思って見ていました。
いちごちゃんの服を脱がすと、腹部一面が真っ赤に腫れて皮膚が肥厚(舐めたせいで、皮膚が厚みを持ってきていました)して、テカテカしていました。皮膚炎になっていたのです。
「ずっと舐めていた」様子だったので、筆者は、飼い主のKさんに「皮膚、たいへんなことになっていますよ」と伝えました。
Kさんは「そうなんです。服を着せてもその上から、ずっと舐めています。エリザベスカラー(首につけて舐めないようにする道具。上記の写真)をつけても、うまい具合にはずしてね」と諦め気味でした。
こんなにひどい皮膚病になったのは、4年間見ていてはじめてです。もちろん、抗生剤や痒み止めなどは、注射をしました。
いちごちゃんの大好きだったおばあちゃんが亡くなった
いちごちゃんのこの皮膚病の原因は、大好きだったおばあちゃんが亡くなったことだったのです。
いちごちゃんは、Kさんのお母さんが大好きだったようです。家族の人が仕事で留守の昼間は、近くに住んでいるおばあちゃんがやってきて、いちごちゃんの面倒を見ていてくれたそうです。
そんなおばあちゃんは、がんであることがわかってほんの数カ月で亡くなってしまいました。いちごちゃんは、おばあちゃんが入院している間もおばあちゃんが来る時間近くなると、ドアの前に行きずっと待っていたそうです。そして、ひょっとしたら部屋のどこかに隠れているのかもしれないと思っているのか、おばあちゃんを探して部屋から部屋を歩いたとか。
いちごちゃんが、抗がん剤を打つなどの治療を乗り越えられたのは、Kさんの家族のお世話はもちろんのこと、おばあちゃんとの温かい時間を過ごしたことにもあったのです。
そのおばあちゃんがいちごちゃんの前から姿を消したので、そのさみしさのためか、必要以上にいちごちゃんは毛づくろいをしました。さみしさを紛らわすために、そして、おばあちゃんがどこから現れることを願っていたのかもしれません。
いちごちゃんの皮膚病は舐めるのでなかなか治らず、そしてKさん家族もおかあさんが亡くなったのでなにかと忙しくて、いちごちゃんはひとりでいる時間がどうしてもあり、食事をあまり食べなくなり吐くまでになりました。夜中に連絡が来て、いちごちゃんは大丈夫だろうか、と筆者は気を揉みました。
おばあちゃんの四十九日法要が終わって
Kさんは、おかあさんの四十九日法要を終えて少し落ち着かれて、いちごちゃんといる時間が持てるようになりました。いちごちゃんもひとりでいる時間が減ったので、いちごちゃんは、吐くことなども収まりました。
もちろんKさんは、いちごちゃんがおばあちゃんのことが大好きだったことも理解していたので、忙しいなかでもいちごちゃんにスキンシップをしていましたが、それでもいちごちゃんは、このような皮膚病になりそして体調も崩したのです。
猫や犬は、家族の一員といわれるようになりましたが、完全室内飼いの猫であるいちごちゃんにとって、家族の一員が亡くなったことを理解して、その喪失感が大きく、このように体調を崩したのです。
いちごちゃんは元保護猫で、Kさん宅で愛情一杯に育てられて悪性リンパ腫になっても懸命に治療をしてもらいました。
そんな風に育てられたので、人間のことを理解して、猫は単独行動の動物といわれていますが、家族が亡くなったことに耐えることが難しかったのでしょう。
まとめ
猫はもちろん、言葉を話すことはできませんが、いちごちゃんのように家族を失うと喪失感に襲われるのです。そして、Kさんがおかあさんのマンションから荷物を持って来ると、いちごちゃんは、おばあちゃんのものだとわかるのかニオイを嗅ぎにくるそうです。
こんなに人間のことがよくわかっているのが猫です。猫の平均寿命は約15年といわれています。愛おしんで一生涯飼っていただきたいです。