WBCを世界中が熱狂する大会にするには?上原浩治が提案する野球の未来
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は日本が3大会ぶり3度目の優勝を飾り、幕を閉じた。日本国内での盛り上がりは皆さんもご存じの通りだろうが、私はアメリカで行われた別グループの準々決勝、さらに日本が劇的な勝利を重ねた準決勝、決勝も現地で観戦した。
「WBCなんて、日本が盛り上がっているだけ」などという指摘は全く当てはまらなかった。確かに、まだまだメジャー組の参加は限られていたが、アメリカでの試合では、中南米勢の出場国に対する応援もすごかった。アメリカでは野球以外にもアメリカンフットボールやバスケットボール、アイスホッケーといったプロスポーツも盛んだが、キューバはもちろん、プエルトリコやベネズエラ、メキシコなどにとっての野球は「国技」というとらえ方ができるかもしれない。ラテン系の応援の熱量は日本に匹敵するくらいだった。
世界的に見れば、野球が盛んな地域はまだまだ限定的で、日本が準々決勝で戦ったイタリア代表もトップ選手はアメリカでプレーしているのが現状だ。大会の歴史などはいうまでもなく、サッカーのワールドカップ(W杯)などと比べるレベルにはないかもしれない。それでも、2006年の第1回大会では日本開催でも空席が目立った試合を知る立場からすれば、大会の価値は随分と高まってきたと実感できた大会だった。
日本が決勝で破ったアメリカは、メジャー屈指の強打者であるマイク・トラウト(エンゼルス)らを擁した。そのアメリカが今回の敗戦をどう受け止めたか。3年後に予定される第6回大会に向けて、アメリカの「本気度」をさらに強めたとすれば、次の大会ではさらにメジャー組の参加を促す効果をもたらすかもしれない。
大会の価値向上には「メジャー組のさらなる参加」が欠かせない。そのためには、メジャー球団が高額の年俸を負担しているスター選手の「けがのリスク」が最大のネックだろう。一方で、出場している選手がどこまで万全の状態で臨めるかという点では「開催時期」が課題になってくる。
現状では、あり得ないことは承知の上で「開催時期」について提言したい。
メジャーの選手は春先、まだまだ本調子に遠く、夏場からプレーオフにかけて尻上がりに調子を上げてくる。彼らの「本気モード」はあくまでもシーズン終盤にある。それはワールドシリーズ制覇が最大のモチベーションだからだ。私も現役時代は夏場以降に調子を上げてくる相手との対戦から肌で感じてきた。このため、春先のWBCは、出場しているメジャーの選手はもちろん本気で戦っているのだが、コンディションという面では「シーズンに向けた調整段階にある」という印象をぬぐえない。
では、開催時期をいつにすればいいか。プレーオフ後の秋に開催できればベストだが、メジャーが主催する大会である以上、ワールドシリーズの価値を下げるような時期の開催はありえないだろう。そこで、シーズン中の夏場に開催されているメジャーのオールスターをやめて、代わりにWBCをメジャーの選手も出身国・地域などの代表として出場する「オールスター」の大会として開催できないかと考えるが、皆さんはどうだろうか。
オールスターによるシーズン中断期間を2週間程度まで広げ、アメリカに全出場チームを集めて集中開催はできないだろうか。オールスターの代替開催であれば、メジャー組の参加が増える可能性は十分にあると思う。日本もオールスターをやめてWBCにトップ選手を派遣し、合宿は行わずに、時差調整を兼ねた現地での数日間の練習でサインプレーなども確認することは可能だと思う。宮崎での合宿や強化試合、日本開催の1次リーグを経て国内の盛り上がりが高まったという意見もあるだろうが、サッカーやラグビーのW杯も日本で開催されなくても、中継やライブ配信を通してファンは盛り上がることができたはずだ。
開催時期はあくまで「私案」にすぎないが、足元の現実に戻すと、日本国内においては、今回の優勝は野球普及の大きなチャンスになるはずだ。この大会を機に野球を始める子どもたちも多いのではないだろうか。子どもたちがワクワクした気持ちで地元の少年野球チームに体験にきたとき、そこに指導者の「怒号」や、親の「過度な負担」があっては絶好のチャンスをつぶしかねない。侍ジャパンが呼び込んだ優勝の歓喜を今後に生かすことが、日本球界の使命だろう。「感動をありがとう」だけで終わらせてはいけない。