現実になる!? 朝鮮半島「4月危機説」の3つの根拠
米韓当局は北朝鮮による「衛星」発射とした長距離弾道ミサイルの発射や核実験が今月中にあるかもしれないと警戒している。
北朝鮮外務省が「偵察衛星の開発は正常な権利である」(3月4日)と主張し、北朝鮮対外宣伝メディア(「メアリ」)も「衛星の開発は国家防衛威力強化のための正常な自衛的活動である」(3月11日)と報道していることから警戒心を増幅させているようだ。また、米韓のメディアも揃ってその種の情報を流しているのも気になるようだ。
例えば、米国の北朝鮮専門サイト「38ノース」は「西海衛星発射場で新たな資材や車両の動きが観測された」(3月31日)と報じ、韓国「聯合ニュース」は「北朝鮮が核実験場の復旧作業を加速化させており、韓国軍と情報当局は来月中旬にも7回目となる核実験が可能と判断していることが分かった」(3月27日)と伝え、米CNN放送もまた、「バイデン米政権は北朝鮮が本格的な核実験の準備に突入したとみている」(3月31日)とのニュースを流していた。
変わったところでは、米戦略国際問題研究所の北朝鮮専門サイト「分断を超えて」が「北朝鮮の新浦沖で潜水艦の改造や修理など特異な動向がみられる」として「潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の試験準備かも」(3月30日)との情報を発信していた。
どれもこれも米国にとってのレッドラインである。実際にオバマ政権下の2009年4月、北朝鮮の「人工衛星」発射予告にゲーツ国防長官(当時)が「発射すれば、迎撃する」と警告したりもしていた。当時、国防委員会の朴林洙(パク・イムス)政策局長は発射直後に訪朝した元米政府高官に対し「迎撃されれば、日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と伝えていた。3年後に放映された「金正恩活動記録映画」をみると、金正恩氏の「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との発言が紹介されていた。
では、今月、北朝鮮は「衛星」と称する長距離弾道ミサイルの発射を、もしくは核実験を強行するのだろうか?データーを検証してみると、あり得ないとは断言できないことがわかる。以下、3つのデーターから見てみる。
1.4月は北朝鮮の記念日が多い
北朝鮮の4月は国家記念日、行事が多い。9日金正恩(キム・ジョンウン)党第一書記(現総書記)推戴10周年、13日金正恩国防第一委員長(現国務委員長)就任10周年、14日科学技術者同盟結成76周年、15日金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年、25日人民革命軍創建90周年と記念日が目白押しである。北朝鮮はこうした記念日に国威発揚や体制の結束、あるいは指導者の権威を高めるため「人工衛星」と称した長距離弾道ミサイル(テポドン)の発射や核実験を行ってきた「過去」がある。
例えば、「衛星」は計6回発射されているが、そのうち2回が4月であった。特に2012年4月13日の発射は金日成主席生誕100周年を記念して行われていた。また、2016年2月7日の「衛星」は朝鮮人民軍(正規軍)創建日前日に行われていた。
過去6回の核実験も1回目(2006年10月9日)は労働党創建日前日に、3回目(2013年2月12日)は金正日(キム・ジョンイル)前総書記生誕日の4日前、4回目(2016年1月6日)は金正恩総書記誕生日前日、そして5回目(2016年9月9日)は建国記念日の当日に行われ、6回目(2017年9月3日)も建国記念日6日前に実施されていた。
北朝鮮は4月15日の金日成主席生誕110周年を「民族大慶事」として祝賀すると発表していることから10年前同様に「衛星」発射の可能性が取り沙汰されている所以である。金正恩総書記が3月10日前後に西海衛星発射場と国家宇宙開発局を相次いで視察したこともその予兆ではないかとみられている。
2.米韓合同軍事演習が始まる
「コロナ禍」の影響と軍事演習に消極的なトランプ前大統領の指示もあって中断もしくは縮小されていた春の米韓軍事演習が今月再開される。
米韓軍当局は12日から15日までの4日間に朝鮮半島戦時状況を想定した事前演習危機管理参謀訓練(CMST)を実施した後、18日から28日にかけて野外訓練である連合指揮所訓練を実施する。後半の訓練ではコンピューター模擬訓練方式の指揮所演習(CPX)だけでなく野外訓練も実施される。
駐韓米軍以外にも本土やグアムなどから兵力及び戦略兵器を動員し、大規模に行われるようだ。ちなみに米朝の軍事対決が最高潮に達していた2017年には3月13日から4月30日まで行われ、延べ2万3千7百人の米軍と韓国軍約30万人が演習に参加し、2018年の時も4月23日から2週間実施され、米軍1万2千2百人、韓国軍が29万人動員されていた。米韓合同軍事演習を敵視政策の象徴とみなしている北朝鮮はその都度、「準戦時態勢」に突入するなど軍事的な対抗措置を取ってきた。
例えば、2016年の夏の軍事演習(8月22-26日)の時は、人民軍総参謀部は合同軍事演習を「核戦争挑発行為」と非難し、人民軍1次打撃連合部隊が先手を打って報復攻撃を加えられるような態勢に入り、2日後には日本海に面した新浦付近からSLBM1発を発射し、演習終了から一週間後の9月9日に5度目の核実験を強行していた。
3.韓国の政権交代期にぶつかる
韓国での政権交代期に緊張が高まるのがこれまでの南北の「歴史」である。
▲金泳三政権発足(1993年2月25日)
北朝鮮は米韓の合同軍事演習「チームスピリット」再開通告(1月16日)に「自衛措置を講じる」と発表(1月27日)し、演習開始直前(3月8日)に準戦時体制に突入した。
▲金大中政権発足(1998年2月25日)
米紙「ニューヨークタイムズ」(1月17付)が米国防総省の秘密報告書を引用し、北朝鮮が2003年の完成を目標に核兵器開発のため地下施設を建設していると報じたことで「北朝鮮の地下核開発疑惑」が急浮上し、米朝間で緊張が漂った。
▲盧武鉉政権(2003年2月25日)
IAEAが北朝鮮に核査察を促す決議案を採択したことに反発した北朝鮮は1月10日に政府声明を出して、核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言し、凍結していた5千キロワットの原子炉を再稼働させた。
李明博政権発足(2008年2月25日)
北朝鮮の祖国平和統一委員会は韓国が国連人権委員会で人権改善を要求したことを「妄言」と批判し、李政権を「ファッショ政権」と非難。3月28日に艦対艦ミサイルを発射し、4月3日には韓国軍の38度線通過を不許可にした。さらに4月8日には北朝鮮戦闘機2機が3度にわたって軍事境界線(MDL)10kmまで接近飛行し、韓国を挑発した。
▲朴槿恵政権発足(2013年2月25日)
北朝鮮が前年12月に打ち上げた「人工衛星」に対して国連安保理が非難決議を採択(1月23日)したことに反発した国防委員会が「自主権守護のため全面対決に出る」と宣言し、2月12日に3回目の核実験を行った。
▲文在寅政権発足(2017年5月10日)
北朝鮮は4月5日、16日、29日と弾道ミサイルをそれぞれ1発発射し、5月14日には初めて地対地中長距離弾道ミサイル「火星12型」を発射した。さらに21日には潜水艦弾道ミサイルを地上型に改良した「北極星2型」を発射してみせた。