岡崎慎司 ミラクルの向こうで掴んでいた“シンプルに自分にフォーカスする思考”
■プレミアでのプレーが夢だった
プレミアリーグ優勝へ王手をかけているレスター・シティ。奇跡の瞬間を目前に控えるこのクラブに、日本代表ストライカーがいることもまた、一つの奇跡だ。
岡崎慎司。日本代表で通算100試合、48得点を挙げているエースストライカーがブンデスリーガからプレミアリーグへ渡ったのは昨夏のことだった。
ザックジャパンの一員としてアジア杯優勝を果たした直後の11年1月、清水エスパルスからブンデス移籍を果たした岡崎は、最初に所属したシュツットガルトではリーグ63試合10得点と苦しんだが、13年夏に同じくブンデスのマインツに移籍すると、以後はみるみる覚醒した。
13/14、14/15と2シーズン連続で2ケタ得点を記録し、「ドイツへ移籍したときからいずれはプレミアに行きたいという夢を持っていた」と話していた通り、15年夏にレスター・シティに移籍した。
プレミアでは、8月8日にあったサンダーランドとのリーグ開幕戦に先発出場して4-2の勝利に貢献。第2節ウエストハム戦ではプレミア初ゴールを挙げるなど好スタートを切った。
ところが絶好調男のFWジェイミー・バーディにお株を奪われ、徐々にプレータイムは減少。10月24日の第10節クリスタルパレス戦からはリーグ4試合連続ベンチスタートと苦しい時期に突入した。
日本代表に合流していた岡崎に、プレミアでの心境を聞いたのはちょうどその時期だった。当時の岡崎は日本代表のハリルホジッチ監督にも「今はパフォーマンスが落ちている」と心配されていた。
■プレミアでの戸惑いが口を突いた昨秋の日本代表戦
15年11月11日、W杯アジア2次予選シンガポール戦を翌日に控えたシンガポール国立競技場での公式練習。取材エリアに岡崎が姿を現すと、地元メディアの多くがすかさず押し寄せ、岡崎の顔を熱い視線で見つめた。シンガポールでのプレミアリーグ人気の高さと“プレミアリーガー岡崎”の認知度の高さを物語る光景だった。
英語で話しかけるシンガポール記者に対し、困ったの表情を浮かべながら「英語はあまりしゃべれないので…」と、日本語で話し始めた。次々と出てくるのは、イングランドで感じていることへの戸惑いだった。
「やっぱり、イングランドでやっていることを日本代表で出すことが大事だし、そういう年齢、立場になっている。でも、自分自身、プレミアリーグのすごいところであったり、ブンデスリーガとの違いが何であるかについて、判断できたわけではない。こういうのは1シーズンを通してプレーしてから分かることだと思う」
とはいえ、この時点ですでに感じ取っていたこともある。ブンデスリーガ以上にFW選手のタイプにバリエーションがあるということだ。
「プレミアではフランス系やスペイン人にスピードや体の強い選手が多い。ブンデスにはいないタイプの選手が世界にはいろいろといることを肌で感じている。全体的に選手の体が強いし、プレーがオープンになったときには個人の能力が必要になる」
そして岡崎はさらに言葉を継いでいった。
「ブラジルW杯が終わってから、いろんなことを考え過ぎていた部分があったと思っているんです。そんな中で、チームでは今、久しぶりにあまり試合に出ていない状況になっているので、あまり何も考えずにプレーするようにしているんです」
■プレミアFWの身体へ変貌を遂げていた
それから4カ月が過ぎた3月下旬。W杯アジア2次予選のために帰国し、埼玉県で代表合宿に参加した岡崎を見て驚いた。背中からお尻にかけての隆起、太腿裏とふくらはぎの発達ぶり。元々ガッチリ系の身体ではあったが、このときは背面を見た瞬間、誰かと考えてしまうほどの体をしていた。
振り向けばそれは岡崎だった。近くで見ると、上半身のフォルムも激変していた。これがプレミアFWの体なのかと唸らせられた。
身体が大きくなったように見えるが、何か工夫していることがあるのか、あるいは身体が大きくなったことが自身に好調をもたらしているか?
そう尋ねると、岡崎は涼やかに言った。
「プレミアのFWをやるときには相手を背負わないといけないし、身体をぶつけられたときに自分のスピードがすごく落ちるんです。だから、ぶれないためには少しおもりが必要かなと思って、チームのやつらがやっていることと同じことをやったりしました」
同じことというのはトレーニングや栄養摂取に関することだろうか。
「でも、そのへんが調子と関係しているのかは分からないですが…、そうですね。工夫したというのはもちろんあるけど、個人的に11月に代表合宿に来たときと違うのは、単にリフレッシュされたことだと思います」
岡崎によれば、代表活動がしばらく開いた11月下旬から3月までの時期に、「あらためて今までの2年間を振り返ることがあった」のだという。
「去年の秋は、プレミアに全力で馴染まないといけないと思いながらやっていて、一方では、日本代表に行ったときは若いヤツも出て来ているから、その選手たちを見つつ、自分の立ち位置を考えていかないとあかんなという感じでいた。
でも、その後代表から離れてレスターのチームメートと行動をともにすることで、徐々に自分も『成り上がって行く』というか、チームで結果を出していかなければなとと感じたんです。
そうこうするうちに自分もプレミアに慣れてきて、次に自分の中でどんな感情が表れたかというと、単純に『ここで活躍したい』ということでした。自分もレスターのあいつらみたいに、異常なほどの結果を残したい。そのためには、周りを気にしているよりも自分のことを考えていかないといけない、と」
■シンプルに、自分だけにフォーカスする
岡田ジャパンのころから取材し始めた岡崎だが、同年代の本田圭佑、長友佑都らがプレーする環境や置かれた立場に沿いながら、取材エリアで受け答えする際の雰囲気を変えて(悪い意味ではない)いったのに対し、岡崎は基本的に変わらない。いや、まったく変わらない(悪い意味ではない)と言ってもいい。
「今まではミスすることを恐れている部分があったのですが、今はそれをなくして、前へのミスだったらそのまま行ってしまえと思っているんです」
シンプルに自分だけにフォーカスする岡崎がここにいる。レスター・シティでのゴール数は決して多くないが、勝利のために果たしている役割が大きいことを誰もが評価している。
「勝ち方が分からない」と眉間にしわを寄せていた13年コンフェデレーションズ杯、14年ブラジルW杯、15年アジア杯。そこかしこで葛藤してきた日々への答えを掴む日は、もうすぐそこにある。