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実在しない24歳若い妹になりすまして偽の戸籍得た72歳の女 驚きの弁解とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 2年前から昨年にかけ、実在しない48歳の架空の妹をでっち上げ、無戸籍の妹になりすまして家庭裁判所や区役所に嘘の書類を提出し、妹名義の偽の戸籍を取得したとして、72歳の女が65歳の夫とともに逮捕された。

 驚くのはその弁解だ。夫が「妻は若く見られたかった」などと容疑を認める一方、妻である女は「自分が妹本人だ。姉とはけんかしており、連絡が取れない」などと供述して否認しているという。

「就籍」で無戸籍状態を解消

 発覚の経緯は、女が偽の戸籍を使い、昨年10月に妹をかたって原付免許を取得しようとした際、運転免許試験場の職員に違和感を抱かれたことだ。警察が捜査を進め、今年10月22日の逮捕に至った。

 女は妹名義の住民票を取得し、国民健康保険証を申請していたほか、定年を超える年齢だったにもかかわらず、昨年12月には妹になりすまして警備会社に就職していた。今年7月には別の試験場で原付免許まで得ていたという。

 偽の戸籍を取得する際は「就籍」という手続をとっている。無戸籍状態を解消するための制度であり、日本人でありながら戸籍に記載されていない人について、家裁の審判で許可を得たうえで、自治体の役所に就籍届を提出することで、新たに戸籍を編製してもらうというものだ。

 架空の妹については、夫婦と同居する無職の女性で、母親が他界したあと、戸籍を調べたら籍がなかったという設定だった。戸籍を取得する際、夫も妻について「妻の妹だ」などと嘘の説明をしていたという。こうした容疑が事実であれば、有印私文書偽造・同行使のほか、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の罪に問われることになる。

捜査の焦点は?

 夫が犯行を認めているというものの、女が否認しているとのことなので、女の出生以来の成育歴や親戚、友人らとの交友関係、普段の生活状況などを捜査し、そもそも妹など存在せず、夫婦がでっちあげた架空の人物だったという事実を立証する必要がある。

 今後の捜査だが、こうした事実の見極めや事件の経緯、状況、計画性などのほか、なぜ別人の戸籍を作ろうとしたのかという動機の解明が焦点となる。「若く見られたかった」というが、警察がこの話を真に受けることはないはずだ。

 というのも、女と妹の姓は異なるもので、現に妹になりすまして就職しているからだ。妹名義の戸籍や運転免許証、健康保険証などを悪用する狙いがあったのではないかという方向で捜査を行い、余罪の掘り起こしを進めることになるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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