女子プロ野球2020 キーとなる新人首脳陣たちは個性派ぞろい
2月10日に女子プロ野球の2020シーズン体制が発表されました。中には、今季戦う3球団の首脳陣メンバーも盛り込まれていました。各球団ともに監督一人、選手兼任コーチ一人という配置です。会場には、首脳陣全員の姿がありました。
改めて、2020シーズン 各球団の首脳陣をここに記しておきます。
■京都フローラ
川口知哉監督
三浦伊織選手兼コーチ
■埼玉アストライア
新原千絵監督
岩谷美里選手兼コーチ
■愛知ディオーネ
厚ケ瀬美姫監督
植村美奈子選手兼コーチ
3季連続で京都フローラの監督を務めることとなった川口知哉監督と、今季、埼玉アストライア監督に就任した新原千絵監督は、昨季は育成球団のレイアの監督として若手選手の育成に力を注いできた指導経験がありますが、他の4人は各役職でいえば新人です。そこで、新境地に挑む意気込みと、それぞれの近況などを聞きました。
「愛知ディオーネを進化させるのが私の任務」 新監督に就任した、厚ケ瀬美姫監督
女子プロ1期生として昨年まで現役プレーヤーだった厚ケ瀬美姫監督。昨季は、京都フローラに所属、対戦相手だった愛知ディオーネについて「守りから流れをつかむのが上手いチーム」という印象があるといいます。「その良さを進化させるのが私の任務だと思います」と意気込みます。「スピードのあるチームだと思うので、そこを活かしつつ攻撃的なハイクオリティな野球をしていきたい」と抱負を語りました。
繰り返しになりますが、昨年まで現役選手でした。「そうなんです、引退していきなり監督なので、私自身、どうなるのかわかりません」と答えつつも、不安な表情は一切見られませんでした。
「他球団の監督は経験が豊富。采配を学ばせてもらって盗みながら、そして選手の力を借りながら勝負していきたい」と言い、「昨年、川口監督の下でプレーし優勝も経験しているので、勝ち方というか優勝への導き方は学ばせてもらってます(笑)」と力強いコメントも。
厚ケ瀬監督といえば、生涯打率.335をはじめ数々の記録を持ち、守備も一級品という、レジェンド選手の一人でした。「三拍子揃うに越したことはないでしょうが、まずは、選手の長所を引き出すこと。リエントリー制度導入で、より成長できるチャンスが増えると見ています」と、すでに頭の中でシミュレーションはできている様子。あとは「選手とのコミュニケーションを大切に、自分の言葉でしっかりと伝えたい」と話しました。
オフはスポーツ中継のお手伝い?! 「今までにない経験ができた」 岩谷美里選手兼コーチ
「確実に選手層が若返ったので、その若手選手たちがトップ争いに食い込める力を付けさせてあげたい」と話すのは、埼玉アストライアコーチになった岩谷美里選手兼コーチ。「といっても、私が何を指導するというよりも、若い子から積極的に尋ねてくるのでやりやすいです」と気負いはありません。今季の埼玉については「長打力のある選手が多いので、繋ぐ打線をつくりたいですね」と話します。
プロ契約を交わした岩谷選手兼コーチは、今オフに、いつも女子プロの試合中継に携わっているテレビ番組制作会社で仕事をしていたそうです。「カメラ助手っていうんですかね。カメラマンさんの後ろ付いてラグビー場を走り回ってました(笑)」。他の競技を見て思うところもあったようで、「ファンがスタンドからサインをねだれるんですよね、野球にはない距離の近さを感じました。もちろん、女子プロがいきなり同じようにはできませんけれどね。でも、何か参考にしたいなとも思いました」と視野の広がりを感じているようです。
今は、自主トレに励む毎日。「打つ時の軸をしっかりと作りたいので」と、グランドではロングティーを、室内のときはティーバッティングをこなしているとのことです。今年も柵越えを見せてくれそうです。
プロ入り10年で培った「“技”を若手へ伝授したい」 植村投手兼コーチ
今季プロ10年目となり、気が付けばリーグ最年長投手となった植村投手兼コーチ。「ルーキーたちは緊張もすると思うので、楽しめるような気持ちの持って行き方を伝授したい」と話します。「大好きな野球をするなら楽しんでプレーして欲しいから」だと言います。楽しむのに大事になってくるのが“平常心”。「気持ちが上がり過ぎるとコントロールできなくなるし、不安でいっぱいになれば球はいきません」、だから、平常心でいられることが大事なのだとか。
植村投手兼コーチの場合、マウンド上で余裕がなくなってきたなと思えば、一度プレートを外して深呼吸して間合いを作ったり、「マウンド上で“大丈夫”、“行ける!”とか、ブツブツ言い聞かせてますね(笑)」と平常心でいられる秘訣を明かしてくれました。そんな技を惜しげもなく、若い世代へ提供していきたいのだと言います。
昨季は、最多勝、最高勝率、最多奪三振など、タイトル総なめ。それでも、オフの間にフォームの見直しや新しい球種を収得しようと日々取り組んでいるそうです。まだまだ選手としても貪欲に進化していきたいと考えているのです。
「コーチだなんてガラじゃない。今年も首位打者狙います!」 三浦伊織選手兼コーチ
「私が人に教えるなんてガラじゃないですよ!(笑)」と、あっけらかんと笑う、京都フローラの三浦伊織選手兼コーチ。川口監督がいながら技術指導なんてとんでもないとし、「ただ、監督の考えや思いを選手たちに上手に伝えていこう」と考えていると言います。指揮官にとっては、何よりも心強い言葉でしょう。昨季も京都フローラでプレーしている三浦選手兼コーチだけに、川口監督の采配は染みついているはず。首脳陣の阿吽の呼吸が見られそうです。
プロ契約を結んだ三浦選手兼コーチですが、今オフ、仕事には就かなかったと言います。「プロを選んだ限りは、野球へ自分の時間を費やすのが一番なのかな」というのがその理由。毎日3時間程度、しっかり体を動かし、時には、近くの野球チームに混じって練習をさせて貰っているのだとか。
プロ一期生選手は、埼玉の岩谷選手兼コーチと2人だけとなりました。「同世代が減って寂しくなりましたが、とにかく、成績を残して存在感を出したい」と話します。ベテラン選手としての振舞い方は、昨年まで活躍していた女子プロレジェンド、小西美加元選手から学ばせてもらったと言います。それを力に変えて、今年も昨年獲得したタイトル(首位打者、最多安打、最多盗塁)を狙っていきたいと力強く宣言しました。
今季、どのようなペナントレースが繰り広げられていくのか、新たに指導者に名を連ねた彼女たちの手腕に注目していきたいです。
(写真は全て筆者が撮影)