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三流営業の発想がシャープをダメにした

前屋毅フリージャーナリスト

■技術力の無さを隠す「だまし」のテクニック

シャープが深刻な経営悪化に転落してしまった原因を露呈するような事実が発覚した。11月28日、消費者庁がシャープに対し、景品表示法違反(優良誤認)で再発防止などを命じたのだ。

問題になったのは、シャープが「プラズマクラスター」と呼ぶイオン発生装置を組み込んだ掃除機である。同社はカタログやウェブサイトで「(イオンの力で)ダニのふん、死骸の浮遊アレル物質のタンパク質を分解・除去」と表示し、宣伝していた。

ところが、消費者庁が外部の機関に試験を依頼した結果、その掃除機を室内で使った場合、アレル物質となるタンパク質を分解・除去する性能は確認できなかったというのだ。つまりシャープは、消費者が室内で使用した場合にアレル物質の分解・除去する性能があると誤解して購入するような表示をしていたというわけだ。

そういう性能が室内で使用した場合に認められないことは、シャープも認識している。その性能についてシャープは、「1立方メートルのボックス内での実験」という断り書きをしていたからだ。

ただし、これは目立たない小さい表示でしかない。消費者が見落とす可能性も高く、それをシャープも狙っていたはずである。クレームがつけば、「ちゃんと断り書きはある」と言い訳する準備はしてあっただけだ。「だまし」のテクニックでしかない。

■三流経営の発想で日本はダメになる

なぜ、そんな「だまし」をシャープはやったのか。営業の発想が優先した結果にほかならない。

そう言えば、一流の営業マンからはお叱りをうけるやもしれない。正確に言うならば、「三流の営業」の発想である。

シャープの創業者・早川徳次氏の右腕といわれ、シャープが黄金時代を築く基盤をつくってきた元副社長の佐々木正氏は、『週刊現代』の「シャープ 元副社長の『遺言』」という記事で「社会の変化に応じた画期的な商品を開発するために、独創的なアイデアを社員同士が闘わせるような会社になって欲しい」とシャープへにメッセージを送っている。

同記事で佐々木氏は、ある時期からシャープ社内は、開発力ではなく販売力が経営を支えているという考え方が幅をきかすようになった、と語っている。「この会社は俺が営業で稼いだカネで持っている。お前の研究もぜんぶ俺のカネでやっているじゃないか」と、彼は面と向かっていわれた経験もあるという。

開発力でなく販売力で商品を売るという発想は、行き過ぎると、性能が劣る商品でも販売力で売ってやる、という横暴につながっていく。それは、三流の営業でしかない。

性能について消費者の誤解を招いて買わせようとする姿勢は、まさに、この三流の営業の発想でしかない。「だまし」のテクニックを、営業の力と錯覚してしまっているのだ。

そんな発想が優先されているようでは、ますます優れた商品がつくれるわけがない。優れた商品をつくるには投資が必要だが、「そんなムダなことをしなくてもテクニックで売れる」となるからだ。

シャープの経営が悪化したのは、そういう発想が社内に蔓延していたからではないだろうか。優れた商品を開発する力が衰え、だから経営危機を招いたのだ。今回の件は、そうした企業の体質が露呈したにほかならない。三流営業の発想ではなく、創業者が大事にした良い物をつくるという哲学が引き継がれていれば、経営悪化という状況にシャープは陥らなかったかもしれない。

シャープばかりではない。多くの企業が、三流営業の発想に犯されてはいないだろうか。ヒット商品が生まれず、経営悪化に苦しんでいる企業が多いのも、実は、そこに原因があるのかもしれない。三流営業の発想から、早く脱出すべきである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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