新型コロナのにおいを嗅ぎ分けられるイヌ 抗原検査に匹敵
イヌの嗅覚は非常に鋭いことが知られていますが、大規模な実証実験において、訓練を積めば新型コロナのにおいを嗅ぎ分けられることが示されました。さて、どのくらいの精度でしょう?
足のにおいで新型コロナを診断
コロナ禍が始まってまだ1年も経たない頃、イヌが新型コロナ感染者のにおいを嗅ぎ分けられるのではないかという論文がフランスから出ました(1)。6匹の探知犬が、76~100%の精度で感染者を当てたというものです。
統計学的に偶然の産物ではなさそうでしたが、もう少し実証実験をしたほうがよいと結論づけられました。
においのサンプルを使えば、高い精度で嗅ぎ分けられるようイヌに訓練することができます。新型コロナを嗅ぎ分けるよう訓練されたイヌに協力してもらい、2022年4月~5月のオミクロン株流行期に、アメリカの学校で、新型コロナ抗原定性検査とイヌの嗅ぎ分け試験の比較実験がおこなわれました(2)。
足のにおいを嗅いで新型コロナが陽性だとイヌが判断した場合、おすわりすることで「陽性」と教えます。同時に新型コロナの抗原定性検査もおこなわれ、イヌが正しく新型コロナ陽性・陰性を判断できているか、その正答率をみました。
結果、イヌが新型コロナ陽性と判断したときに抗原定性検査と一致していた割合は82.5%で、陰性と判断したときに抗原検査と一致していた割合は89.9%と精度が高いものでした(図)。
なぜ新型コロナを嗅ぎ分けられる?
イヌの嗅覚は、ヒトの何万倍も敏感であるといわれます。鼻腔の表面積が大きく、嗅球という脳の一部が発達しているためです。
イヌは、新型コロナ感染者が発する揮発性有機化合物を特定できるとされており、今回の研究以外にも、コロナ禍で複数の研究が報告されています(3,4)。中には新型コロナを嗅ぎ分ける正答率が100%におよぶイヌも存在します(4)。
人間のストレスさえも嗅ぎ分けることが可能という報告もあり(5)、イヌは人類にとって最良のパートナー・アニマルと言えるでしょう。
しかし、いくぶん個体差があるようで、たとえば、パグやブルドッグなどの鼻が短い短頭種は、鼻腔の表面積が小さくなるため、ほかの犬種に比べ嗅覚が劣るとされています(6)。
まとめ
新型コロナを嗅ぎ分けられるスーパードッグをどう活用するか。
訓練するのは骨が折れますし、すぐに現場で活躍できないかもしれません。しかし、たとえば大規模なスクリーニングをイヌでおこなった後、嗅ぎ分け試験陽性者のみに抗原検査をおこなう戦略で、検査回数・コストを削減できるかもしれません。
もちろん、そのぶんイヌは大変なのですが・・・。
がんの同定などでもイヌの嗅覚の有用性が示されており、今後いろいろな病気を発見する上で役立つ日が来るかもしれません。
(参考)
(1) Grandjean D, et al. PLoS One. 2020;15(12):e0243122.
(2) Glaser CA, et al. JAMA Pediatr. 2023; DOI: 10.1001/jamapediatrics.2023.0489
(3) Guest C, et al. J Travel Med. 2022;29(3):taac043.
(4) Maurer M, et al. Open Forum Infect Dis. 2022;9(7):ofac226.
(5) Wilson C, et al. PLoS One. 2022;17(9):e0274143.
(6) Polgár Z, et al. PLoS One. 2016;11(5):e0154087.