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ブルガリア戦で、ハリルホジッチから原口元気が受けた”無茶振り”とは?

清水英斗サッカーライター
キリンカップ、日本代表対ブルガリア戦(写真:田村翔/アフロスポーツ)

快勝したブルガリア戦で、後半25分に清武弘嗣に代わって投入された原口元気。しかし、納得のいかないファールを取られてPKを与えるなど、周囲の明るさとは対照的に一人、フラストレーションを溜めている様子だった。

その理由は、PKを与えたことだけではない。

原口に対してハリルホジッチが“無茶振り”するのは、もはや慣れた光景になってきたが、ブルガリア戦では、その要求に応えることができなかった。

「(監督からはトップ下に入れと言われた?) キヨ君(清武)とは違う感じで、ボランチの少し前くらいというか。まあ、トップ下なんですけど、初めてだったので、ちょっとわからなかったですね。守備もどこで行くのか、いまいちハマらなかったし、自分はプレッシャーをかけに行きたかったけど、前から行くなという指示を受けて。左右(サイド)にも行ってはいけなくて、真ん中で、という感じで。もっとバランス良くやれれば良かったと思います。

(ファーストディフェンスのタイミングがつかめなかった?)そうですね。そこでリズムを作る感じなので、そこが決まらないと、僕自身もどうしようかなという感じが多かったと思います」

練習ではボランチとサイドでプレーしていた原口。それだけに、ブルガリア戦でいきなりトップ下に投入されたのは、少なからず戸惑いがあった。

昨年6月のシンガポール戦で、初めてのボランチに投入されたり、右サイドバックに回されたり、そして今回も練習でやっていたポジションとは異なる要求。せっかくボランチに慣れ始めたところで、またもハリル得意の“無茶振り”が原口を襲った。

おそらくハリルホジッチが試みたのは、後半にリードした時間帯に、少しブロックを下げた状態で守備を固め、そこから前掛かりになる相手をカウンターで仕留める戦略だろう。ねらいが垣間見えるシーンもあったが、大量点を奪った安堵もあったのか、守備ブロックは不安定だった。そこには、トップ下に入った原口がファーストディフェンスのタイミングをつかめず、戸惑ったことも起因している。

「(監督に)求められていることをもっと表現しなきゃいけないし、それが突然であっても、準備していたとしても、見ている人には一緒です。結果は結果なので、うまくプレーできなかったのは間違いないです」

「(基本的にはボランチで練習している?)誰と組むかにもよりますけど、基本的には前めのボランチですね。やっていて楽しいですよ。ただ、今回みたいな試合はサイドにスペースがあったので、そこなら楽しくできたんじゃないかと思いますけど」

「(宇佐美君は楽しそうだったからね)そうですね(笑)。僕もあそこでドリブルさせてもらえれば、良さが出たかなと思いますけど。まあ、でも、次の相手(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)のほうが強いので、その強い相手とやって、できるところを見せて、どこでも、どんなときでも、スタメンで出られるような立ち位置をつかみたいです」

それにしても、なぜハリルホジッチは、これほど原口に難しい要求を与えるのだろう? 他の選手は素直に、本来のポジションに近いところで起用しているのに。

筆者のイメージでは、原口は決して器用なタイプではない。むしろ、真っすぐな男で、融通が利かない印象を受ける。その反面、決めた目標に対しては一心不乱に自分を追い込めるストイックさがあり、身体もしっかりと仕上げてくるが、“無茶振り”をうまくこなすタイプではない。

ただ、トップ下で出るということは、後ろのボランチから指示を受けながら守備をするということ。トップ下がどういうポジションを取れば、ボランチが守備をしやすくなるのか、原口は双方向から経験する機会になったはず。この経験はボランチに入ったときにも生きる。いろいろなポジションで、しかも練習なしの“無茶振り”を受けることで、サイドのスペシャリストだった原口は、急速に戦術理解を進めている。

ハリルホジッチは全選手に対してデュエル(球際の闘い)を求め、フィジカルや闘争心を追い込んでいるが、その要求水準を満たす原口だけは、毎試合、脳トレを受けているような状況だ。

ハリルホジッチの“無茶振り”は、真っすぐな男、原口を揺さぶり、柔軟性を与えようとしている。これがうまくいけば、原口は劇的な進化を遂げる気がしてならない。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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