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マンツーマンによる徹底封鎖! 勝利を呼び込んだハリルホジッチの対UAE戦術

清水英斗サッカーライター
UAE戦の2点目を決めた今野泰幸(写真:アフロ)

23日に行われたワールドカップ最終予選、アウェーのUAE戦は、2-0で日本代表が勝利した。ハリルジャパンとしても、リベンジを期す2回目の対戦になる。今回はUAEに対する研究の跡がかなり見られた。

UAEのサッカーは、両サイドハーフに大きな特徴がある。そのひとつは、流動性だ。

左サイドハーフ、15番のイスマイル・アルハンマディは、運動量を生かしていろいろな場所へ行く。さらに右サイドハーフ、21番のオマル・アブドゥルラフマンは、ピッチ上のあらゆる場所に顔を出し、左足のテクニックを発揮する。その姿はすこしメッシっぽい。局所的な数的優位を作るのがうまい選手だ。

2トップが外に広がったり、両サイドハーフが中へ来たり。このUAEの流動性に、どこまでついて行けばいいのか。

ゾーンディフェンスの場合、味方との距離を気にしながら、自分が担当するスペースを守るものだが、そこに入れ替わり立ち替わり相手が来ると、マークの受け渡しに迷う。過去の日本代表の戦いは、その点があやふやになり、中途半端に深追いしてポジションを空け、裏を取られるケースが多かった。

しかし、今回は明快。マンツーマンでかっちりはめる。深追いする。UAEの流動性について行く。徹底してフリーにさせない。

2トップには、吉田麻也と森重真人がはっきりとマーク。両サイドハーフも、長友佑都と酒井宏樹がはっきりとマークする。

特にUAEの両サイドハーフは攻め残りし、カウンターの起点になることが多いため、長友と酒井宏は攻撃時もあまり高い位置には行かない。行くとしても、戻りマークが間に合う程度。先制ゴールをアシストした酒井宏のポジションが、ぎりぎりだろう。長友と酒井宏は攻撃時も、UAEの両サイドハーフを気にしつつ、ポジションを取った。

徹底したマンツーマン。ただし、流動的なUAEのサイドハーフをマンツーマンで深追いすると、長友と酒井宏がサイドのポジションを空けることが多くなり、相手のサイドバックに走り込まれると対応できない。そこで両ウイングの原口元気と久保裕也が、がんばって下がる。原口に比べると、久保は攻め残りする意識が強かったが、彼らがマークに付いたまま、DFへの受け渡しなしで下がることで、空いたスペースで仕事をさせない。

このようにマンツーマンを徹底すると、相手の動きに振り回されるリアクション守備になる。体力や集中力の消耗が早いのがデメリット。その一方、約束事がシンプルでわかりやすいため、迷いが少ないのはメリットだ。最終ラインだけでなく、インサイドハーフの今野泰幸と香川真司も、相手のダブルボランチにわかりやすくマッチアップした。

大役を果たした山口蛍

そうやって各所をシンプルにかみ合わせた中で、唯一の例外が、アンカーの山口蛍だった。

山口だけは対面する相手がいない。マークを持っていない。センターバックの吉田や森重がマンツーマンで出て行くと、中央の危険なスペースが空いてしまうため、山口がバランサーとして残り、マンツーマン集団のカバーを務める。かなりの大役だった。

マンツーマンの弱点は、どこかで1対1を突破されると、芋づる式に混乱が起きることだ。また、誤って1人の相手に2人が突っ込んでしまうと、残る相手が必ずフリーになってしまう。連係が浅いせいか、今野と香川、あるいは今野と長友の間でいくつか目についた。

そうやって中盤が突破されたときも、山口がバランサーになり、マークを受け取ったり、最終ラインに入ったりとポジションを調整する。今回、日本がシステムを4-2-3-1から4-3-3に変えたのは、オールマンツーマンの守備のバランスを、カバー役のアンカーによって整えるためだろう。その役割は、もしかすると長谷部誠をイメージしたものかもしれない。

山口はよくやった。だが、大きな失敗もあった。それは前半20分のピンチだ。

UAEのビルドアップに対し、香川と今野が相手ボランチ1人に2人で行ってしまい、その間に縦パスを通された。そして、ボールを受けた15番アルハンマディに森重が釣り出されると、そのままターンされ、フリーの7番マフムードへスルーパス。GK川島永嗣のセーブに救われたが、失点してもおかしくない場面だった。

森重が空けたスペースに立っているマフムードに気づけず、傍観してしまったのは山口のミスだ。ターンを許した森重のミスでもあるが、それはがんばれ、としか言えない。戦術的に言うなら、森重が釣り出された瞬間、山口はオートマティックに下がるべきだった。

また、特に後半は今野と香川のところで、2人が横並びになったまま前へ行き過ぎる場面が多く、天秤のような動きで片方が低い位置に残るポジションを取れていなかった。山口との距離が空きすぎて、バランサーの力が働かない。セカンドボールも拾えない。しかし、後半26分、ハリルホジッチが香川を倉田秋に代えることで全体を下げ、うまくコンパクトに修正した。

倉田については、点がほしい場面で起用されると思っていたので、守備の修正で入るのは、正直、意外な交代だった。長谷部誠の離脱、高萩洋次郎の欠場から出番が回ってきたのかもしれない。しかし、倉田のおかげで中盤のバランスは良くなった。

1試合1試合、状況と対戦相手に合わせて戦術をがらりと変えるカメレオン戦略。いろいろ危うい今回のマンツーマン戦術だが、UAEに対しては優れた戦術だっただろう。しかし、実戦の完成度はまだまだこれから。決定機はUAEにも2~3回あったので、日本が2-0で勝ったのは運もある。

さて。次は28日に行われるホームのタイ戦。カメレオンのハリルジャパンは、どんな色に輝くのだろうか。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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