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無料記事氾濫の中で、どうやってお金を稼ぐのか ー米雑誌とフリージャーナリストの対決

小林恭子ジャーナリスト
セイヤーは、ブログでフリーランスの苦渋を書いた

米国のフリーランス・ジャーナリストが、老舗月刊誌「アトランティック」から、別サイトに掲載された自分の記事の要約を持ちかけられたが、原稿料が無料と聞いて憤慨し、仕事を引き受けなかった。25年間もジャーナリストとして働いてきた自分の原稿が無料で使われることを不服に思い、自分のブログで、「アトランティック」の担当者とのやり取りを公開した。

これをきっかけに、「不服に思うのも当然だ」、「無料掲載を要求したアトランティック側の言い分はおかしい」、「いや、一理ある」など、米英でミニ論争が発生している。

ネイト・セイヤーの記事「25年間のスラムダンクの外交」は、3月4日、ニュースサイト「NK News」に掲載された。バスケットボール選手デニス・ロッドマンの北朝鮮訪問をつづった長文記事だ。

セイヤーのブログ記事によると、これを「アトランティック」のグローバル・エディター、オルガ・カーザン(勤務してまだ2週間ばかりという)が読み、問い合わせをしてきた。「元の記事を短く編集したものを掲載したい」という。追って、セイヤーが締め切りや長さなどをメールで聞いた。

すると、カーザンは「今週末までに1200語でお願いしたい。残念ながら原稿料は支払えないが、うちのサイトは月間1300万人の読者がいる」と説明した。

驚いたセイヤーは「25年間、書くことで生活費を稼いできた。無料で仕事をする習慣はない」と宣言。

カーザンは「立場は完全に理解するが、当方はオリジナルの記事でも原稿料が100ドル(約9400円)ほど。フリーランス用の予算がない」、「追加の手数をかけずにより広い読者のために元記事を要約することが可能かと思い(連絡した)」と答えたという。

セイヤーは「個人攻撃でないが」、「幸運を祈る」と告げて、書き直しを断り、メールの交換を終えている。

後、アトランティックの編集長ジェームズ・ベネットが声明を発表し、今回のケースは例外だったと述べている。「アトランティックの記者がほとんどの記事を書いている」こと、「フリーランスの記者にオリジナルの原稿を書いてもらうときは、原稿料を支払っている」ことを説明した。

ジャーナリストではない人が解説記事などを提供するとき、「書き手の了解の上で、原稿料を払わずに出すこともある」、(無料の原稿を書くようにと)「強制することはない」。

セイヤーの件は「特別だった」。「オリジナルの記事を書くように依頼したわけではなく、既に掲載済みの記事の縮小版を出すようにお願いしたもので、元の媒体をしっかりと明記する予定だった」。

最後には、セイヤーの「気分を害したことを謝罪する」としている。

英ガーディアン紙のコラムニスト、ロイ・グリンスレードはこの件に触れて、英国でも「フリーランスのジャーナリストへの支払額がどんどん減少している」ことを指摘する(3月6日付)。

その理由の1つは、出版社側がジャーナリスト志望の人が書いた原稿を無料同然で使っていることにあるという。

グリーンスレード自身、セイヤーと同様の体験をしているジャーナリストたちを知っているという。しかし、「(彼らは)事情を表には出さない。もし出せば、仕事がなくなるかもしれないからだ」。

一方、デジタルメディアの動きを追うサイト「ペイドコンテンツ」のマシュー・イングラム(6日付)は、「無料コンテンツはあふれるほどある」、「これが現実だ」、という。

イングラムの観察によれば、アトランティックがセイヤーに対し、縮小版を作ってもらうよう頼んだこと自体が「変わっている」。というのも、あるサイトが、ほかのサイトに出た記事の内容を書き直し、元の記事を書いた本人の許可を得ずに掲載することは、実際に、よく起きているからだ。「これが正しいことかどうかは別として、実際に発生している」。

無料でも書きたいという人は無数にいるし、ブログサイト「ミーディアム」にしろ、ニュースサイト「ハフィントンポスト」にしろ、原稿料を払わないコンテンツをビジネスの土台にしているサイトもあるのだ。

イングラムは無料で書く人が常にいる状態は、「必ずしも悪いことではない」という。競争が生まれるからだ。

そして、メディア市場で「本当の競争相手は、あなたが作るものよりも良いものではなくて、相手のニーズを満たすのにちょうど良いもの」だ。

無料で提供される記事、検索エンジンが集める記事で読者が十分に満足しているなら、フリーランスの書き手は打つ手がないのだという。

しかし、イングラムは、伝統的な媒体に原稿を出してお金を稼ぐよりも、電子書籍や長めの文章(3000語から5000語)をパッケージ化して販売する「バイライナー」などを使うという選択肢は、思ったよりも簡単だと指摘する。

「書くことでお金を稼ぐための仕組みが変わっている。それは悪いことかというと、そうではない」。

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無料ニュース、情報がネット上で氾濫している。この中で生き抜いていくためには、その流れに逆らうよりも、じっくり時間をかけて書いたものを電子コンテンツとして販売するーこれはフリーランスにとって、1つの道ではないかと私も思っている。あくまでも「1つの」、ということだが。

ただ、その「道」がまだ十分にはできていない感じがしているー少なくとも日本語空間では。(KindleやiBooks用の電子書籍の作り方はいろいろ紹介されてはいるけれど、具体的な話になると、あと3つか4つ、山を越えないと景色が見えてこないように思う。現時点では搾取される比率が大きいようだし、手間がまだまだかかりすぎるー。もちろん、良いアイデアがあったら、共有してゆきたいが。)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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