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ロシアW杯、躍進のカギはセンターバック?欧州で活躍するCBが増えない厳しさ

小宮良之スポーツライター・小説家
ロンドン五輪でCBを組んだ吉田、鈴木はどちらも欧州でプレー(写真:ロイター/アフロ)

 今年6月に開催されるロシアワールドカップ。青天の霹靂で代表監督が交代したことで、どのように戦うかは白紙に戻った。しかし、コロンビア、セネガル、そしてポーランドとの戦力比を考慮すれば、守りを重視した戦い方にはならざるを得ないだろう。

 センターバックがどこまで凌ぎきれるか――。そこはポイントの一つになるはずだ。

 2010年、南アフリカワールドカップで勝ち上がった日本代表を振り返っても、中澤佑二、田中マルクス闘莉王のセンターバック(CB)コンビは強固だった。CBの前にアンカーとして阿部勇樹が立ち塞がる布陣で、ハイボールを跳ね返し、球際を制し、何とか耐えた。その局面の勝利をカウンターとセットプレーにつなげ、勝負をものにしている。

 では現状、日本代表CBはロシアワールドカップで世界と伍することができるのだろうか?

欧州で活躍する日本人CBが増えない

「中盤から前の攻撃的選手だったら・・・。ヒデ(中田英寿)のように、俺もその道を選んでいたかも知れない。日本人センターバックがヨーロッパでプレーする、というのはまだイメージしづらい時代だった」

 かつて、日本代表のディフェンスの中心にいた松田直樹はそう語っていたことがある。2000年前半は、欧州移籍のハードルが高い時代だった。名波浩、小野伸二、高原直泰らは勇躍し、海を渡ったものの、CBはゼロに近い。松田もCBとしてヨーロッパのクラブからオファーはあったが、当時は横浜F・マリノスを背負って活躍し、日本代表としてプレーする方がキャリアとして現実的だった。

 その後、欧州リーグに新天地を求める日本人選手は確実に増え、CBでも中田浩二がスイスリーグで先発に定着するも、後に続いたCBは限られている。

 2011年から代表の中心であるCB吉田麻也は例外的だろう。オランダ1部リーグで活躍した後、プレミアリーグのサウサンプトンでプレーして6年目。海外で最も成功を収めた日本人ディフェンダーと言える。

 現役ではもう一人、スペイン2部のジムナスティック・タラゴナでプレーする鈴木大輔の名前が挙げられる。スペイン挑戦3シーズン目。その戦いはもっと評価されるべきだろう。

 ともあれ、ロンドン五輪でコンビを組んだ二人以外、欧州組CBは誰もいないのが現状だ。

センターバックの条件

 ディフェンダー、とりわけCBは、「相手の攻撃を受け、それを跳ね返す」というのが第一の仕事になる。言い換えれば、どうしても受け身に回らざるを得ない。肉体的戦闘において、運動選手としての単純な高さや強さを行使し、上回らなければならないポジションなのだ。

「モダンサッカーでは、センターバックもボールを持てる必要がある」

 近年、日本サッカーの育成ではそう言われてきた。しかし、まずは守備の強度に着目すべきだろう。そこが低かったら、上のカテゴリーでは決して生き残れない。オフェンスは能動的にボールを持ち運ぶプレーの習熟によって、優位に立つことができる。一方、ディフェンスはそうはいかない。相手に屈強で空中戦の強いセンターフォワードがいたら、強さの行使に巧さでは対抗できず、否が応でも、格闘を制するポテンシャルが求められる。端的に言えば、体格や球際での激しさや老獪さや強度となるだろう。一言で言えば、ごつさのようなものだ。

中澤が40才で輝き続ける理由

 近年、日本サッカーはポゼッションを追い求めてきた。それによって、守備の強化は明らかに疎かになった。20年前から、あまり進化を遂げていない。むしろ、世界が進歩する一方で劣化した感すらある。

 40才になる中澤佑二は、今もJリーグで指折りのCBと言えるだろう。連続試合出場記録で鉄人と言われるが、アタッカーとのぶつかり合いで屈しない。守備者としての基本的な強さを身につけていることで、どんなシステムにもそれなりに適応してみせる。

 戦闘で勝てる中澤は、JリーグにおいてCBの鑑と言える選手だろう。身につけた屈強さ。それを鍛錬することによって、高みにたどり着いた。空中戦でも、裏を狙う選手との駆け引きでも、シュートブロック一つでも、硬骨な守備者としての厚みを感じさせる。そして刮目すべきは、たとえ1試合不安定なプレーをしても、その次には修正を入れて、好プレーを見せるリカバリー力にあるだろう。失敗を糧にできる誠実さというのだろうか。

守備を鍛えるべき

 守備の選手は、正しく守備を鍛えることで、硬質な輝きを見せるものだ。

「日本人ディフェンダーは体格が小さく、脆さを感じるというのはある。しかしそれよりも、戦術的に一つ一つのプレーが習熟していない。だから、ポカが出る」

 スペインのスカウトは、こうした指摘をしばしばする。それが日本人CBが欧州のスカウトにあまり好まれていない理由だろう。

 例えば真っ先に言われるのが、ターンだ。ステップワークが正しく訓練されておらず、反転したアタッカーの対応に一瞬の遅れが出るという。吉田、森重真人の二人でさえ、それぞれターンには難を抱えていると指摘される。2014年ブラジルワールドカップ、コートジボアールやコロンビア戦では、反転力のあるFWに入れ替わられ、置き去りにされるシーンがあった。

日本サッカーの可能性

 日本サッカーは総合的なボールテクニックやチーム全体での戦術などは、飛躍的に向上しつつある。そのおかげで、攻撃的なポジションやサイドの選手は欧州でも活躍している。乾貴士(スペイン、エイバル)、中島翔哉(ポルトガル、ポルティモネンセ)、堂安律(オランダ、フローニンゲン)、伊藤達哉(ハンブルガーSV)などは好例だろう。

 しかし、今後は各ポジションで必要な能力を持った選手のスカウティングを充実させ、専門的トレーニングをする必要がある。CBは最たるポジションだ。

 ロシアW杯では、吉田、昌子源のCBコンビになる可能性が高いだろう。しかし2人ではコロンビア、セネガル、ポーランドの攻撃陣を想定した場合、「防御システム」としては万全とは言い切れない。そこで、フランクフルトでリベロの長谷部誠を入れた3バックになる可能性もあると言われる。

 いずれにせよ、CBの踏ん張りがロシアでは鍵になる。その拠点が完全に陥落した場合。自ずと、日本の勝利は遠のくことになるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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