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ローカル鉄道讃歌 2 「山万ユーカリが丘線」パンダ電車からコアラ電車にお乗換えです。(千葉県)

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
緑の多い住宅街の中を走るユーカリが丘線の「こあら号」 筆者撮影

上野動物園のパンダをあしらったオリジナルマスコットの「京成パンダ」は、その表情のシュールさからなかなかの人気ですが、そのパンダ電車をユーカリが丘で降りたところで待っているのが「山万ユーカリが丘線」の「こあら号」です。

ユーカリが丘というのは昭和50年代にデベロッパー山万が開発した広大な住宅地で、その住宅地の中、5.2キロの線路を約15分かけてぐるりと一回りする電車が「山万ユーカリが丘線」です。

開業は1982年(昭和57年)、当時は日本初の不動産会社が経営する鉄道ということで注目を集めました。

この路線の特徴は「新交通システム」と呼ばれる電車で、ふつうの鉄道のように2本の線路の上を走るのではなくて、案内軌条式と呼ばれるゴムタイヤの車両が中央のガイドラインに沿って走る方式で、東京のゆりかもめや神戸のポートアイランド線などと同じスタイルの小さな電車が走ります。

ユーカリが丘線の電車は3両編成が3本。それぞれに「こあら1号」「2号」「3号」と名付けられて、バスの代わりに住宅地の中を走って地域の足として活躍する地域鉄道で、デベロッパーである山万が総合的な街づくりをする一環として今日まで36年にわたって無事故で運転されている路線です。

ところが、このユーカリが丘線には一つ大きな課題がありまして、それは「冷房化ができない。」ということです。

昭和50年代は国鉄(JR)や大手私鉄でもまだまだ冷房車が珍しかった時代です。その当時走り始めたユーカリが丘線も冷房装置が搭載されていませんでした。ところが、その後、この車両を製作したメーカーが新交通システムの車両製造から撤退したこと。また途中区間にトンネルがあるため屋根上に冷房装置を搭載できないことなどにより、今なお非冷房の車両が走る首都圏屈指の路線なのです。

ユーカリが丘発着で、住宅地をぐるりと回って全線乗っても15分。地元の利用者の平均乗車時分は8分程度ですから冷房装置がなくても耐えられる距離ではありますが、沿線住宅地は高齢化が進み、利用者も高齢者が多くなってきています。開業から36年が経過し、そろそろ新車両も計画する時期に来ているようですが、それとて何年も先のお話です。そんな中、今年の猛暑をどう乗り切るか。筆者はユーカリが丘線の車内に面白いものを見つけたのです。

車内に設置されたクーラーボックスのおしぼりサービスです。
車内に設置されたクーラーボックスのおしぼりサービスです。
中には保冷剤と紙おしぼりが。(2枚とも筆者撮影)
中には保冷剤と紙おしぼりが。(2枚とも筆者撮影)

それがこれ。冷たいおしぼりサービスです。

アテンダントこそいませんが、まるで飛行機のビジネスクラスか新幹線のグリーン車のサービスですね。

よく見ると、保冷剤代わりに凍らせたペットボトルの上におしぼりがのっていて手作り感満載です。

実は筆者は30年前から佐倉市民で、ユーカリが丘に在住ですので、このユーカリが丘線をよく利用するのですが、この夏の暑い日中時間帯に、冷たいおしぼりのサービスは実にありがたいものでしたので、ユーカリが丘線を運営する山万の林新二郎専務さんにこのおしぼりサービスについてをお聞きしました。

「弊社の車両は構造上冷房化ができないのはご存じだと思いますが、それでもご利用いただいている地域の皆様方に何かサービスができないか。そう考えて始めたのがこのおしぼりサービスです。住民の皆様方にはご好評をいただいております。」

実は林専務さんとは筆者がいすみ鉄道社長在任中から会合等で御一緒させていただいた旧知の仲。

「いすみ鉄道さんを見習って、できることから何でもやって行くんです。」

と、ありがたいお言葉をいただきました。

大きな課題はあるけれど、毎日ご利用いただくお客様に喜んでいただくためにできることからやって行く。

地域密着型の鉄道の基本姿勢をユーカリが丘線に感じました。

かわいいコアラがたくさん並んだユーカリが丘線のモノレール型電車。(筆者撮影)
かわいいコアラがたくさん並んだユーカリが丘線のモノレール型電車。(筆者撮影)

ところで、新興住宅地の中を走る新交通システムと呼ばれる都市型電車をどうして「ローカル鉄道讃歌」として取り上げるのか。

そう疑問に思われる方も多いと思われますが、実はこのユーカリが丘線は、約5キロ、一周15分の短い区間に観光鉄道としてのローカル線のコンテンツがたくさん詰まっているのです。

始発駅のユーカリが丘は高層のタワーマンションが立ち並ぶ都会の景色。ショッピングセンター街を抜けて3分も走ると水田地帯に差し掛かり、いきなり田舎の風景が広がります。線路のアップダウンも多く、田舎の鉄道には必須アイテムのトンネルを抜けると緑鮮やかな広々とした公園が広がります。

公園、女子大、中学校という、一見「適当だなあ。」と思えるような駅名も、実にローカル線らしいと思いませんか。(笑)

実は、すでに秋の気配が漂う季節ですので、このおしぼりサービスは終了しています。

こういうニュースが出ると、見学者が殺到して本来の趣旨である地域住民の皆さん方へのサービスに支障をきたす恐れがあると考え、本日のニュースとして書かせていただきましたが、その話を林専務さんに申しあげたところ、

「そんなことありませんよ。おしぼりなんかどんどん補充しますから。皆さんぜひいらしてください。」

と笑顔で語られていました。

ユーカリが丘線ではローカル鉄道らしく記念グッズなどもいろいろ販売しています。

沿線には由緒ある神社やトトロが出てきそうな昭和の田舎の景色も点在していますので、500円の1日フリー乗車券で、ふらりと降りて途中下車の旅もお楽しみいただけると思います。

都心からパンダ電車に乗って約1時間。

この秋はユーカリが丘で降りて、こあら電車でローカル線気分をぜひ味わってみてはいかがでしょうか。

※おことわり

このおしぼりサービスは10月3日をもって今季のサービスを終了しています。

あらかじめご了承ください。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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