「風評被害気になり言いたいことを言えない」甲状腺がん家族の会発足会見、原発事故後に子ども達が発病
「診察時間は、5、6分だけ。不安や聞きたいことがあっても相談できない」「甲状腺がんになったことと、原発事故とは関係ないと断言された」―今月12日、「311甲状腺がん家族の会」が発足、記者会見を行った。福島第一原発事故後、事故当時18歳以下であった住民達を対象に福島県で行われた県民健康調査で、甲状腺がんと診断された子ども達の親たちによって結成されたもので、12日の会見では、インターネットによるテレビ電話で、会メンバーである親たちが発足の経緯や現在の心情を語った。
○不安があっても今まで誰にも相談できなかった
会見に臨んだのは、福島県内在住の二人の父親。それぞれ10代の娘、息子が甲状腺がんと診断された。会発足の意義として、二人は「子どもが甲状腺がんと診断されて、大きな不安を家族らは抱えていたが、今まで誰にも相談できなかった。同じ境遇にある人達と話せるようになって、とても助かっています」と語った。大事な子どもが甲状腺がんと診断され、家族の動揺は当然、大きい。なにより、「甲状腺がんと伝えられ娘は大泣きした」「手術後も体調がすぐれず、再発を心配している」と前出の父親が語るように、子ども達本人の精神的なケアは急務だろう。だが、行政による対応は、お世辞にも充実したとは言えないようだ。前出の父親たちは「診察時間は、5、6分だけ」であり、その間に相談することなどは難しいという。また、行政からは「患者会」の案内も送られてきたものの、娘が甲状腺がんと診断された父親は「患者会というより、専門家の先生の講演会のようでした」と、とても自分たちの悩みを打ち明けられる状況ではなかったという。また、息子が甲状腺がんと診断された父親は「私のところには案内が来ていない。そういうものがあったこと自体、今回結成された家族の会に入って知り、とても驚いている」と語った。
○「原発事故とは関係ない」への不信感
自分の子どもの病気というものは、それ自体、非常にセンシティブなものであるが、原発事故後の福島県では、放射線による健康被害を語ること自体がタブーとなってしまっている。娘が甲状腺がんと診断された父親は、「風評被害というものが問題になる中で、言いたいことも無意識のうちに言わなくなっていたのかもしれない」という。会見で父親たちは慎重に言葉を選んでいることが感じ取れたが、それでも滲み出るのは、福島県の医療関係者への不信感だ。放射性ヨウ素の吸入が小児甲状腺がんを引き起こすことは、旧ソ連でのチェルノブイリ原発事故での科学的な知見で明らかになっているにもかかわらず、福島県の県民健康管理調査検討委員会は、「福島第一原発事故が甲状腺がんの原因とは考えづらい」という主張を繰り返している。今回会見した父親たちも、それぞれ「原発事故が原因とは考えづらいと言われた」、「はっきり関係ないと断言された」と言い、「では、何が悪かったのか、なぜ子どもが甲状腺がんになってしまったのか、理由が知りたい」と繰り返し語っていた。
○福島第一原発事故と小児甲状腺がんは関係ないのか?
原発事故当時18歳以下だった38万人余りを対象に甲状腺の県民健康調査では、これまでに167人が、「がん」「がんの疑い」と診断されている。それまで、小児甲状腺がんは「100万人に1~2人」というのが通説であったことから考えれば、明らかに異常な数なのだが、県民健康管理調査検討委員会は、事故当時18歳以下の全県民を対象に調査を実施したため、通常であれば見つかるはずのない症例までが表面化した、と説明。いわゆる「スクリーニング効果」によるものであって、小児甲状腺がんは多発していない、原発事故も関係ない、というスタンスだった。だが、岡山大学大学院の津田敏秀教授を中心とした研究グループは、昨年10月にまとめた報告とその記者会見で、「スクリーニング効果や過剰診断では、せいぜい2~3倍、あるいは6~7倍という一桁のデータ上昇しかないはず。ところが、福島県では20倍から50倍の多発が起こっている」と指摘。また、「311甲状腺がん家族の会」世話人の牛山元美医師は「福島県立医大の報告を読むと、手術を受けた方の90%以上は、腫瘍の大きさがすでに手術適応基準を超えていたり、小さくてもリンパ節転移や肺転移を起こしていたり、甲状腺の外に広がりを見せていた、進行したもので、これはスクリーニング効果や過剰診療にそぐわないもの」と評している。こうした影響もあってか、今年2月に公表された「県民健康調査における中間取りまとめ」では、これまでさんざん使われてきた「スクリーニング効果」という文字が消えた*のだが、一方、原発事故の影響は相変わらず否定している。
*消え始めた甲状腺がん「スクリーニング効果」の文字(まさのあつこ)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20160311-00055323/
○原発事故の被害をなかったことにしたいのか?
なぜ、頑なに県民健康管理調査検討委員会や国は、小児甲状腺がん多発が原発事故によるものだと認めようとしないのか。「311甲状腺がん家族の会」代表世話人の河合弘之弁護士は「放射能の害はないから、と原発事故被害そのものをなかったことにしようとしているのではないか」と喝破する。現在、原発ADR(裁判外紛争解決手続き)に約1万人が損害賠償や慰謝料を請求しているが、それは放射能による被害を恐れてのもの。「つまり、放射能が撒き散らされても病気にならない、放射能など気にしなくてもいい、ということになれば、現在申し立てられている財物損害や、慰謝料の根拠を失わせることができる、原発もどんどん再稼働できるようになるからではないか?」と河合弁護士は批判した。
○まずは相談を
河合弁護士は「原発事故被害をなかったことにしないために、小児甲状腺がん患者の家族たちが集団となって、国や県、東電などと交渉していくことが必要。裁判をおこすという可能性も除外しない」と語るが、同時に「まずは、患者家族が集まり、互いの状況を相談しあえることが大事」「こうした活動をするとバッシングされるかも知れないが、自分が患者ご家族の皆さんの弾除けになる」と言う。牛山医師も「甲状腺外科の専門医がアドバイザーになってくださり、また他の甲状腺専門医の方々のバックアップが得られている」として、医療面での相談ができることを強調。代表世話人の千葉親子・元会津坂下町議は「1人で悩まないで下さい。多くの患者家族の皆さんと手をつなぎ、語り合う場を作り、情報提供し課題を共有しながら、そこから希望をつかみましょう。患者家族の皆様、お気軽に声をかけてください」と呼びかけている。
「311甲状腺がん家族の会」
070-3122-2011(事務局・広報)
070-3132-9155(入会申し込み・治療などの相談)
(了)