凱旋門賞直前展望!! 日本馬の悲願達成か、それともエネイブルが史上初の3連覇か
凱旋門賞(G1、フランス、パリロンシャン競馬場、芝2400メートル)は現地時間6日の午後4時5分、日本時間同日23時5分発走。いよいよ迫って来た。私もこのレースを現地で観戦するようになって20年を超し、様々なドラマを目の当たりにしてきた。果たして3頭の日本馬が出走する今年はどんな結末が待ち受けているだろう。簡単に占ってみたい。
日本馬3頭の評価は……
まずはその日本馬。フランスのシャンティイに滞在しているのがキセキ(牡5歳、栗東・角居勝彦厩舎)だ。
現地入り後、既に一戦消化。本番と同じコース、同じ距離のフォワ賞(G2)を走ると4頭立ての3着に敗退。騎乗したクリストフ・スミヨン、管理する角居共に声を揃え「この一戦で次は変わってくれれば……」と語ったが、現実問題としてこの敗戦は痛かった。フォワ賞は近年、少頭数でなかなか本番に直結しない。先述した通り今年も4頭しか出走馬はおらず、本番とは明らかに異質。頭数をみただけでも相手強化は容易に察せられる事で、少なくとも勝ってパスし、大一番へ向かいたかった。陣営が語るように使われた事で変わって欲しいし、応援はするものの、正直かなり厳しい立場に追い込まれたのは事実だろう。
残る2頭の日本馬は共にイギリスのニューマーケット、アビントンプレイスにある厩舎に入厩した。ジェーン・チャプルハイアム女性調教師も間借りするこの厩舎は、ナッソーS(G1)を制したディアドラ(牝5歳、栗東・橋田満厩舎)も滞在している場所だ。
2頭のうちの1頭はフィエールマン(牡4歳、美浦・手塚貴久厩舎)。昨年の菊花賞(G1)勝ち馬であり今春には天皇賞(春)(G1)を制覇。G1を2勝のスタミナ豊富なこの馬は日本を発つ前に札幌記念(G2)に出走。主戦のクリストフ・ルメールを背に追い込み3着だった。
「プレップレース(前哨戦)としては満点の内容でした。この感じなら次は上昇が見込めると思います」
手綱をとったフランス人ジョッキーは笑顔まじりにそう語った。2番枠と絶好枠を引き当てた。
そのフィエールマンを負かして札幌記念を制したのがブラストワンピース (牡4歳、美浦・大竹正博厩舎)だ。昨年の有馬記念(G1)を制した同馬の前走に関し、大竹は言う。
「スタートを出ずに後方になった時はどうやって捌くのかと思いました。結果、狭いところを強引に割って勝ったのですが、レース後はケロリとしていました。血統的にはヨーロッパの馬場はマイナスにならないので後はスタミナの要求される流れになって欲しいです」
道悪必至でスタミナの要求される馬場状態になりそうな点は、この馬には良さそうだ。4番枠とこちらも好枠。
イギリスで仕上げたこの2頭が果たしてどのような状態でパリに乗り込むのかだが、あくまでも個人的にはスタミナ一辺倒ではなく、速い上がりの数字も叩き出せるフィエールマンの方がパリロンシャンという舞台には少しマッチするのかな?と思っている。いや、もちろん3頭全ての日本馬を応援する事には違いないのだが……。
迎え撃つヨーロッパ勢も多士済々
さて、迎え撃つヨーロッパ勢である。まずはアイルランド、エイダン・オブライエン厩舎の2頭。
伯楽が早い時期から「秋は凱旋門賞を狙わせたい」と語っていたのがジャパン(牡3歳)だ。ダービーこそアンソニーヴァンダイクの3着に敗れたが、その後G2とG1を連勝。この2連勝は正直相当相手に恵まれた感が否めなかったが、続く英インターナショナルS(G1)ではクリスタルオーシャンを破って優勝。クリスタルオーシャンは直前のプリンスオブウェールズ S(G1)でマジカルを破って勝利するほどの実力馬だったのだから、これを負かしてのG1制覇はフロック視出来ない。
さて、そのマジカル(牝5歳)もオブライエンが送り込む精鋭だ。
先述した通りプリンスオブウェールズ Sではクリスタルオーシャンの後塵を拝したが、今シーズンは7戦4勝、2着3回と抜群の安定感。前走の愛チャンピオンS(G1)ではディアドラ以下を破り、圧倒的1番人気に応えている。昨年のブリーダーズCターフ(G1)2着など、対エネイブルは4戦4敗だが、そのブリーダーズCなど、惜敗と思えるレースもあり、逆転がないとは言い切れない。直接対決で負けている分、人気を落とすならかえって狙ってみるのも面白いだろう。
お馴染みなのはヴァルトガイスト(牡5歳、仏A・ファーブル厩舎)。昨年の4着馬であり前哨戦のフォワ賞でキセキ以下を破って優勝した地元馬。過去に凱旋門賞を7勝している伝説の調教師ファーブルが送り込むだけに怖い存在。ただし、当日予想される道悪馬場はこの馬にとってあまり好条件とは言えない。そのあたりがどう出るか。個人的には2、3着ならともかく勝つまではどうか?という見解だ。
同じ地元勢ではソットサス(牡3歳、J・C・ルジェ厩舎)が面白い存在。春にはジョケクラブ賞(G1、ダービーに相当)を破格の時計で優勝。前哨戦のニエル賞(G2)はルジェが用意したペースメーカーが思いのほか粘り、当初予定していた内を開ける形をとれなかった。そのため進路の無くなったソットサスは万事休すかに見えたが、そこから一瞬の切れで差し切った。ルジェは「本番前に厳しい競馬が出来て良かった」と語ったが、実際、四走前で負けた時は同じような形から割って出る事が出来なかっただけに、成長を感じさせる競馬ぶり。今回最内1番枠となっただけに、尚更前回の経験が生きそうだ。斤量の軽い3歳馬だけに、一発の魅力も充分。
同じルジェ厩舎のソフトライト(牡3歳)には武豊が騎乗する事になった。当初はA・オブライエンのブルームに騎乗予定だったが同馬の体調が整わず回避。するとこちらの陣営から新たに声がかかった。この経緯についてはまた別の機会に記すが、同騎手は以前、A・ファーブル厩舎のサガシティでこの大舞台に挑んだ事もあり(01年)、今回も地元のトップトレーナーの馬での挑戦は、彼の実績と名声が競馬先進国でも認められている事の証に違いない。ソフトライト自身は実績的に苦戦と思われるが、鞍上が光る騎乗を見せてくれる事を願いたい。
女王エネイブルの凱旋門賞3連覇はあるのか……
そして、このレースで注目を一身に浴びるのがエネイブル(牝5歳、ジョン・ゴスデン厩舎)だ。
「今年は順調そのもの。当然、期待は大きいです」
そう語るのは管理するゴスデンだ。連覇を達成した昨年は、春先に体調を崩し、凱旋門賞直前にオールウェザーのセプテンバーSを使う事でなんとか本番に間に合った。しかも、これは連覇達成後に判明したのだが、セプテンバーS後には熱発していたそうだ。それでも凱旋門賞を勝つのだから、その能力やはかりしれない。現在G1を10連勝中だが、先述のマジカルやクリスタルオーシャン、昨年の凱旋門賞におけるシーオブクラス、クロスオブスターズ、カプリ、キューガーデンズにデフォーなど、負かしたG1ホースは枚挙に暇がない。今年はジャパンやソットサス等の3歳勢に日本馬と、まだ対戦していないメンバーも多いが、彼女を中心にレースが動くのは間違いないだろう。騎乗するランフランコ・デットーリ騎手は言う。
「自分が乗ってきた馬の中でもエネイブルは最強さ。毎週、調教にも乗って状態の良さも確かめている。ジョン(ゴスデン師)はアメージングな調教師だからね。凱旋門賞3連覇へ向け、ぬかりがないと信じているよ。後は自分がプレッシャーに負けなければ、自然と結果は出るだろう!!」
他にもドイツでG1をぶっち切ってきたガイヤースや連勝中のフレンチキングなどもいるが、果たしてどんな結果が待っているだろう。私達は史上初の3連覇を目撃するのか?! はたまたこれも史上初となる日本馬が先頭でゴールを駆け抜けるシーンに立ち会うのか?! いずれにしても凱旋門賞の名に恥じない素晴らしいレースが観られることを願おう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)