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祖父、師匠、そして先輩騎手に支えられる女性騎手の、初勝利のエピソード

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
6月9日、初勝利を記録し、騎手仲間から祝福を受ける大江原比呂騎手

祖父の応援

 6月9日、東京競馬場に着くなり呼び止められた。見ると、大江原哲元調教師とそのご家族がいた。度々お見掛けするので「毎週来られているのですか?」と問うと、答えが返ってきた。
 「家内が『比呂の初勝利だけは見逃さないようにしよう』と言うから、デビュー後は毎週末、来ています」
 この3月にデビューした女性騎手の大江原比呂。大江原哲さんは比呂の父方の祖父にあたる。
 「今日は家内と娘(比呂の叔母)と一緒に応援に来ました。今週はどこかで初勝利をするような気がするんです」
 そう言うと、今日は3人揃って一般席で観戦すると続けた。

大江原哲元調教師と幼少時の比呂現騎手(大江原哲氏提供写真)
大江原哲元調教師と幼少時の比呂現騎手(大江原哲氏提供写真)

 大江原哲さんのそんな予感が現実のものになったのが、第4レースだった。
 芝2400メートルの3歳未勝利戦。大江原比呂はズイウンゴサイに騎乗。中団の少し後ろを追走し、直線、外から豪快に追い込んだ。
 「指定席だし、声を出さないつもりでいたのに、気付いたら大きな声を出していました」
 大江原哲さんは微笑混じりにそう言う。
 そんな声援が届いたか、ゴール直前で先頭に立った。先に抜け出した戸崎圭太騎乗のダノンロッキーをクビだけかわしたところがゴールだった。

早目に抜け出した戸崎騎手のダノンロッキーに襲いかかる大江原比呂騎手騎乗のズイウンゴサイ
早目に抜け出した戸崎騎手のダノンロッキーに襲いかかる大江原比呂騎手騎乗のズイウンゴサイ

師匠のサポート

 「師匠の武市(康男)調教師の馬で勝てたのが、何より良かったです」
 そう語る大江原哲さんは、武市と事細かく連絡を取り合っているわけではないと言う。それでも、こんなエピソードがあったと続ける。
 「比呂の乗り方について少し気になるところがあったのですが、武市調教師と話すと、彼も全く同じ意見を持っていました。武市調教師は本当に良く見てくれているし、サポートしてくださっています。感謝しかありません」

大江原比呂騎手初勝利の口取り写真。隣が師匠の武市康男調教師
大江原比呂騎手初勝利の口取り写真。隣が師匠の武市康男調教師

先輩の助言

 さて、そんな初勝利を本人は次のように語った。
 「師匠の馬でずっと乗せていただいていた馬なので結果を出せて本当に良かったです」
 そして、この勝利の陰に1人の先輩の助言があったと明かしてくれた。
 「丸田(恭介)先輩にアドバイスをもらいながら、位置取りとか、仕掛けどころとか、事細かく一緒に作戦を立てました。今日はその通りに乗れて、勝つ事が出来ました!」

アドバイスをくれた丸田恭介騎手と
アドバイスをくれた丸田恭介騎手と

 ズイウンゴサイのデビュー戦で騎乗していたのが丸田恭介だった。大江原比呂の初勝利は、祖父や師匠、先輩ら、多くの人に助けてもらっての最初の一歩だったのである。
 大江原哲さんは、初勝利を見届けた事で、来週からは毎週末、来場するかは分からなくなった。それでも応援し続ける気持ちは今までと何ら変わらない事だろう。ウイナーズピクチャーへの参加は「恥ずかしい」と拒んだが、その後、ツーショットには納まった際の笑顔が、そう語っていた。

大江原比呂騎手初勝利直後の、大江原哲元調教師とのツーショット
大江原比呂騎手初勝利直後の、大江原哲元調教師とのツーショット

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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