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「バッシングがあったからこそ」。亀田興毅氏が語るこれまでとこれから

中西正男芸能記者
今の思いを語る亀田興毅さん

 強烈なバッシングを浴びながらも日本人初となる三階級制覇を達成したボクシング元世界王者の亀田興毅さん(36)。2015年に引退後、今後の生活を見据えて見分を広める中で新たなボクシングイベント「3150FIGHT」(サイコーファイト)を2021年に立ち上げました。1月6日には同イベントで初の世界戦も行われますが、これまでの思い。そして、これからの思い。今の胸の内を吐露しました。

「再興」し「最高」へ

 2021年に新たなボクシングイベント「3150FIGHT」を立ち上げました。第1回の興行を正式に行ったのが21年12月16日。ほぼ1年で世界戦ができるまでのイベントにできたことは純粋にうれしく思っています。

 僕がこんなことを言うと、また、いろいろ思う人もいらっしゃるかもしれませんけど(笑)、ボクシングがあって今がある。それが事実だし、心底そう思っています。

 ボクシングあっての亀田興毅だし、亀田家だし、全てはボクシングからもらったものですから。そして、これもおこがましい話ですけど、なんとかボクシングに恩返しがしたい。ずっとその思いがあって、それを具現化したのが「3150FIGHT」だったんです。

 ボクシングは100年以上の歴史があって、全国に約280もジムがある。さらに、学校にボクシング部もあり、競技人口も少なくはない。そして、海外でビッグビジネスになっているので夢も持ちやすい。競技として、実はものすごく可能性があるものだと思っています。

 ただ、これは昔からのシステムというか、ボクシングファンが安定的に生まれにくい。そこが課題だと僕は思っているんです。

 例えば、大相撲だったら、日本相撲協会があって、そこの下に相撲部屋が50くらいあって、相撲協会が年6場所を設定して、そこに各部屋で鍛えている力士たちが出場する。全てが一本化されている。

 なので、テレビ中継も相撲協会として話ができるし、相撲界全体が一つのまとまりになっているので、横綱がいなくても興行は成立するし、常に大相撲のファンがいます。

 一方、ボクシングは280ほどあるジムを束ねているのが日本プロボクシング協会。そして、日本ボクシングコミッション(JBC)もある。さらに、興行は基本的に各ジムが自分たちの裁量と資金力で開催することになっている。

 長らくこのシステムで来たので、これに皆さんが慣れているところもあるんですけど、全てが一つに統率されていないので、どうしても業界への注目度というのは「その時にたまたま強いボクサーがいるのかどうか」に依存する形になってしまうんです。大相撲みたいに、安定して注目を集めにくいというか。

 運良く、強くてお客さんを集められる選手が出てきたら、その時はその選手とそのジムの周りは盛り上がるけど、その選手が負けたり、引退したりすると、静かになってしまう。また次に強くて注目される選手が出てきたら、盛り上がるかもしれませんが、結局「たまたま強い選手が出てくること頼み」になってしまうんです。

 そして、興行を各ジムが開催するというのは、労力も、お金もかかるので、そこの負担も大きくなってしまう。力のあるジムはそれでも大丈夫だとは思いますが、小さいジムはなかなかそうもいかない。

 どのジムも平等に出場できるプラットフォームがあれば、そこに行けばメディアからの注目度も上がり、お金もたくさんもらえる。ジムとしても自分たちで興行を開催する苦労がなくなる。

 そんな部分を拡充できれば、もっと、もっと、本当の意味でのボクシング人気が上がると僕は思っていて、なんとかそこに近づけないかと。

 「3150FIGHT」の名前も何とかボクシングを「再興」したいという思いと「最高」のものにしたいという思いを合わせて名付けました。

バッシングがあったからこそ

 こういったイベントの発想が出てきたのは引退後からでした。正直、現役の頃は自分が強くなること。そして、自分が選手としてどう振る舞えば良いのか、ボクシング業界全体というよりも、自分のことでいっぱいというのが本音でした。

 ただ、引退してからは何か他のことで食べていかないといけない。そう思った時に、知り合いの方や、あらゆる業界の方々にお話を聞かせていただきました。ひたすら聞きまくりました。

 小学校、中学校の時は勉強なんてしたこともなかったのですが(笑)、話を聞いて分からない言葉があったらそれについて勉強する。そこで出てきた疑問をまたあらゆる人に聞く。

 自動車、飲食、不動産、アパレル、メディア、弁護士の方など、あらゆる業種の方にお話を聞いて、これから自分はどんな仕事ができるのか、そこを徹底的に考えようとした中で「他の業種では当たり前にやっていることをボクシング業界に当てはめたら、もっと良くなるんじゃないか」という発想になりました。

 ただ、考えてみたら、そうやっていろいろな方にお話がうかがえるのも現役時代があったから。もちろんバッシングも含め、あらゆる声をこれでもかといただきましたが、どんなイメージかはともかく、亀田興毅という名前を多くの方に知っていただいている。

 それがあるから、正直、まだ海のものとも山のものとも分からない「3150FIGHT」にスポンサーの方々やメディアの方々が協力してくださっている。それは感謝しかないですし、いろいろな思いはありましたけど、亀田興毅としての道をこれまで歩んできて良かったのかなと今は思っています。

 でも、現役時代はいろいろ言われてきましたが、自分自身で、そこまでしんどいとは思ってなかったんです。ボクサー・亀田興毅として、これくらいやって当然というか。必死やったのもあると思いますし。だけど、引退が決まった瞬間、自分でもウソみたいに肩が楽になったんです。

 「もう、ボクサー・亀田興毅でなくてもいいんだ」

 逆に言うと、自分でも気づかないところで頑張ってたんかなと思います。

 今、目指すべき形は「3150FIGHT」から僕がいなくなることだろうなと考えています。

 亀田という要素がなくても成立する。イベント自体に魅力があって、スポンサーさんが協力してくださる値打ちがあるものにする。

 そして、できれば「3150FIGHT」みたいなイベントがもっとたくさんでてきて、それが成熟していって、それぞれが切磋琢磨する。この形にならないとホンモノじゃないとも思います。

 ただね、システムを変えるなんて、当然簡単なことではないんです。そこに近づくべく、全国のジムをまわっていろいろな話をさせてもらっているのが今の状況です。

 簡単なことではないけど、できないことではない。そう思えるのは、現役時代があったからこそ。若い時に、これでもかと世間に揉まれてきた。例えば、昨日までそばにいた人が、状況が変わったらスッといなくなる。普通は経験できないことをたくさん経験してきました。そのおかげでタフにはなりましたね(笑)。

 無理にキレイな話にする気はないんですけど、本当にムダなことはないと改めて思います。

 あらゆることを経て、今の亀田興毅だからできることでボクシング界に恩返しをする。なんとかそこを目指して、頑張ろうと思っています。

(撮影・中西正男)

■亀田興毅(かめだ・こうき)

1986年11月17日生まれ。大阪府出身。父の勧めで11歳からボクシングを始め、17歳でプロに。2006年、WBA世界ライトフライ級王者を獲得。その後、WBC世界フライ級王座、WBA世界バンタム級王者も獲得し、日本人として初の三階級制覇を果たす。12年に結婚。18年に引退後は様々な分野で見分を広め、2021年から新たな形のボクシング興行「3150FIGHT」を立ち上げた。1月6日(エディオンアリーナ大阪)には同興行で初の世界タイトルマッチが行われ、午後1時からABEMAで放送される。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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